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2005.02.12

「コーカサスの白墨の輪」を見る

音楽劇「コーカサスの白墨の輪」
作 ベルトルト・ブレヒト
翻訳 松岡和子(エリック・ベントレー版より)
演出 串田和美
出演 松たか子/谷原章介/毬谷友子/中嶋しゅう/内田紳一郎/大月秀幸
    さとうこうじ/春海四方/斎藤歩/草光純太/田中利花/稲葉良子
    あさひ7オユキ/尾引浩志/岡山守冶/鈴木光介/串田和美 他
観劇日 2005年2月12日(土曜日) 午後1時開演
劇場 世田谷パブリックシアター 1階10列17番
料金 8800円

 串田和美演出、松たか子主演のコンビによる「セツァンの善人」は見ている。正直に言って苦手なタイプのお話だし、演出だった。だから今回も見る予定はなかったのだけれど、発売後しばらくして(多分)「演出プラン決定により、追加席発売」の情報が入り、それでチケットが取れるなら見てみようと思った。
 終演後、劇場から出たら、夜の回の当日券にすでに3人が並んでいた。

 ネタバレがあるので、お芝居の感想は以下に。

 珍しく開場時間前に劇場に到着したら、役者さん達がフロア案内もしていたのか、フロア案内の人が芝居の扮装をしていたのか、とにかくロビーからすでに「祝祭」の雰囲気になっていた。

 舞台を作り替えて、真ん中に舞台空間を置き、それを見下ろすように両側に客席を作ってある。私の席は奥の方だったのだけれど、「舞台を通り抜けて行ってください」と言われる。
 舞台空間では(高くなっていないので、舞台上、とは言いにくい)、舞台セットのテーブルを並べてパンフレットを売っている。しばらくして気がついたら、そこには毬谷さんの姿もあった。

 生バンドの人たちが位置につき、役者さん達が集まってきて声出しをしているな、と思っていたら、いつの間にか劇場の扉が閉まり、芝居が始まった。
 最初に串田さんと掛け合いをしていた、何故かiBook(だと思う)を抱えた男の人が狂言回しであり、音楽監督でもあるらしい。彼が物語の輪郭を語り、音楽をスタートさせ、止める。

 「真ん中に子供を立たせ、自分の方に子供を引き寄せた方が本当の母親だと言って、生みの母親と育ての母親に両方から腕を引っ張らせる。子供の泣く声に思わず手を離した育ての親の方こそがその子の本当の母親だ、と判決される」という部分は、私でも聞いたことがあるくらい有名なお話だけど、それが「コーカサスの白墨の輪」というお話の一部だということも、ブレヒト作だということも知らなかった。

 知事のお屋敷で働いていた松たか子演じるところのグルシャ(と呼ばれていたと思う)が、毬谷友子演じるところのクーデターで夫を殺された知事夫人に置き捨てられた子供を助け、苦労してかくまい、育てるお話がまず一方の柱。
 もう一方の柱が、クーデターのどさくさで村の公証人だった串田さん演じるところのアズダックが名(迷)裁判官として活躍する話である。

 かなり狭い舞台空間にほとんどの役者さん達が出ずっぱりで、効果音を担当し、歌を歌い、楽器を奏でる。
 赤ちゃんをかばいながら苦しい旅を続け、やっとたどり着いた兄の家にも落ち着けずに偽装結婚し、恋人に疑われても「この子は自分の子だ」と叫び、裁判で赤ちゃんを必死に取り戻そうとするグルシャを演じている松たか子一人勝ちの舞台である。出番は多い、独唱も多い、舞台空間にスポットを浴びているのは彼女だけという時間も長い。

 そして、確実に彼女がこの舞台を背負っている。
 偽装結婚のシーンでも、恋人に信じてもらえず、話も聞いてもらえず、去って行かれてしまうシーンでも、思わず「負けるな。これはお話なんだから。最後には幸せになれるんだから自棄を起こすんじゃないわよ」と言ってあげたくなった。

 ところで、このお芝居を見ようと決めた決め手は毬谷さんだった。綺麗な典雅な雰囲気のある人が一瞬だけ見せる凄味って何て恐ろしいんだろう、といつも思う。
 裁判で老婆を演じていた毬谷さんが、一瞬だけすっと立ち、凛とした声で自らの主張を言う。そのシーンははっとさせられた。
 知事夫人として歌う場面がなかったのは残念だけど、二幕で聴かせた高音の歌声も素晴らしかった。流石、宝塚音楽学校の主席である。

 でも、このお芝居の中で一番耳を奪われたのは田中利花さんの歌である。私にとって彼女は宮本亜門演出の「I GOT MERMAN」の印象が強い。その印象のまま、力強くて切ない歌声が聴けて、とても嬉しかった。
 開演前に「今パンフレットをお買い求めになると、毬谷友子直接手渡しのパンフレットになります」と宣伝していたのも、二幕開幕直後の裁判のシーンで客の演技指導を先頭切ってしていたのも彼女である。どんなことをしてでも楽しませようというサービス精神と、それを上滑りにしない強引な「つかみ」がある。何て格好良いのだろう。

 休憩時間には、舞台空間で物語の舞台となったグルジアのワインを振る舞っていた。チーズつきで1杯300円。1本2000円で売ってもいたようである。
 その流れで、席に戻ろうとする客を「ここで裁判が始まるから見ていってください」と引き留め、二幕が始まった。ちなみに演技指導というのは、このシーンで原告として出てきた男の人が「どすこい!」と四股を踏んだら飛び上がってくれ、というものだった。
 しっかり飛んで来た(笑)。

 そして、子供の母親はグルシャと決まり、アズダックはついでに間違えた振りで彼女の離婚もついでい決定してしまう。谷原章介さん演じる恋人のシモン(と聞こえた)の誤解も解け二人は仲直りする。知事の公邸はアズダックの一言で「アズダックの庭」と呼ばれる子供のための公園となる。
 「よーし、大団円だ」と、客席からも人を集めて最後はダンスでフィナーレだった。

 実は、あまり客をいじるお芝居は好みではない。
 でも、今回は、生の音楽、祝祭のような雰囲気、たくさんの人が楽しそうに踊り、それに合わせて客席で手拍子が起こる。なかなかいい感じのラストシーンだった。
 全編を通して、「祝祭を見た」という感じがした。

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コメント

肝臓さま コメントありがとうございます

 席の関係なのか、台詞が聞き取れないことはそんなになかったような気がしますが、人の名前は聞き取れなかったです。聞こえた呼ばれ方に自信がなく、パンフレットも購入しなかったので、感想を書くときに役名に一々「(と聞こえた)」と書いてしまいました。

 毬谷友子さんは、ほぼ毎年「弥々」という一人芝居を上演されています。そちらもぜひご覧になってください。

投稿: 姫林檎 | 2005.02.19 00:22

「毬谷友子さん」を初めて見たのですが,歌声&演技,圧巻でした.
「田中利花さん」の歌は鳥肌ものだったし,非常に楽しめた舞台だと思いました.
ただ,途中何度かセリフが聞き取れない箇所があり,そこが残念だったです.

投稿: 肝臓 | 2005.02.18 09:29

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