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サントリーホール<土曜サロン>
ヨーロッパに生きる 第3回 食べ合う幸せ 〜ポタージュの思想〜
おはなし 木村尚三郎
ヴァイオリン 堀正文
チェロ 藤森亮一
ピアノ 小森谷裕子
クラリネット 横川晴児
ファゴット 水谷上総
トランペット 津堅直弘
曲目 ハイドン:ピアノ・トリオ ト長調Hob.XV-25
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ
クライスラー:美しきロスマリン/愛の悲しみ/愛の喜び
*エルガー:愛の挨拶
マルチヌー:調理場のレヴュー(六重奏)
*マルチヌー:調理場のレヴュー(六重奏)より IVフィナーレ
(*印はアンコール曲)
場所 サントリーホール 小ホール
料金 5000円
4回シリーズの第3回である。皆勤賞の予定である。
第1回についてはこちら。
第2回についてはこちら。
今回は前方にも空席が目立っていた。しつこく書くけれど、とてもとても勿体ないと思う。
サントリーホール<土曜サロン>について、 詳しくは、こちら。
愛知万博の開催も近いためか、今日は1時間のお話の中に3回くらい愛知万博の宣伝をされていた。総合プロデューサーのお仕事も大変である。
ポルトガルには「石のスープ」という名物があるそうだ。
昔、ある村を訪れた旅人が「石をスープにして食べる」と言う。村人は面白がって鍋を貸し、水を入れてやる。すると旅人が「塩も少々・・・。」と言うので、塩も入れてやる。するとさらに旅人が「野菜も少々・・・。」と言うので、それも入れてやる。そうして出来たスープを旅人は美味しそうに飲んだけれど、石は鍋に残ったまま。村人が「どうして食べないのか?」と尋ねると、「この石はあとこれだけしかない。勿体ないから次まで取っておくのだ」と言ってその旅人は去って行った。
そういう逸話がついた普通のスープらしい。
結局、いかに楽しくだませるかが勝負である。愛知万博でも、みなさんを楽しくだまそうと一生懸命やっています、というオチだった(笑)。
感想その他は以下に。
30年前の南フランスでの体験談から入った今日のポタージュのお話はこんな感じだった。必死でメモを取ったけれど、やっぱりその場で聴かないと、メモだけでは雰囲気やどうしてこういう話の流れだったかは再現できないものだ。
・19世紀の終わりから20世紀初頭くらいまでは野菜は非常に高価だった。野菜をたくさん食べるようになったのは戦後のアメリカからで比較的精勤のことである。
・スープには必ずパンが入っている。カチカチになった丸パンを入れて食べた。パンが入らない、いわゆる日本の「スープ」は「ブイヨン」と呼ばれる。
・少し前に東京ガスで調査した「人がレストランに行く理由」では、日本人の場合は「美味しいものを食べに行く(いかに家で不味いものを食べているかが判る)」、アメリカ人の場合は「手抜き(家でもレストランでも不味いものしか食べていない)」、フランス人の場合は「人と仲良くなるために行く」だった。
・ユーラシアでは、たくさんの人と食べ合うということを重視する。逆に日本人はひとつのお皿から食べ合うのは苦手で、例えばお刺身の盛り合わせがあったとして最後の1切れ2切れは必ず残って誰も食べないし、食べたら何を言われるか判らない。
・日本人は銘々膳があると安心するけど、でも隣のお膳と比べて「あっちのほうが××が大きい」などと心の中では比較して食べている。これは暗い食べ方だ。銘々膳があるのは、もしかしたら日本だけなのではないか。
・古代ローマの哲学者であるセネカは、「食事で大切なのは、何を食べるのかではなく誰と食べるかである」と言っている。「楽しく食べる」ことは重要である。美味しく食べ合うためには楽しい話題が重要だけれど、日本人はまだこれがへたである。
・フランスでもごく最近ビジネス・ランチやビジネス・ディナーが始まった。それでもメインディッシュが出てくるまでは仕事の話はせずに和やかに会食するという暗黙のルールがある。
・食事を摂りながら仕事をするというのは、ご飯のおいしくないアメリカやイギリスの発想である。
・食べ合う際には匂いの強い香水やタバコはもちろん御法度である。
・フランスでは、男女二人で食事をするときには向かい合うのではなくテーブルの角を挟んで座っている。それは、テーブルの下で、「足」でサインを送り合うためである。
・中世ヨーロッパでは青菜はあまり食べなかった。青菜を食べるとおならが出ると信じられており、おならが出た後には代わりにメランコリア(憂鬱)が入ってくると考えられていたからである。メランコリアなどが入ってきたら楽しく食事をすることができない。
・16世紀にカトリーヌ・ド・メディチが女性として初めて青菜をテーブルに出したと言われている。彼女もフィレンツェの出身だし、青菜(野菜)を食べる習慣はイタリアから広がったと言える。
・イギリスには恨みがあって(と実際におっしゃった)、前にイギリスでチキンサラダを頼んだら、フライドチキンの塊の下に青菜が一枚隠れるように敷かれているだけだった。これがチキンサラダなのかと絶望的な気分になった。
・青菜に塩をかければ、それは全部「サラダ」である。
・古来から塩は貴重品で、古代ローマではお給料をお塩で払っていた。「サラリー」という言葉の語源はここにある。
・南フランスのニース風サラダは美味しい。レタスがメインで、トマトの輪切り、ピーマンの輪切り、ゆで卵の輪切り、アンチョビ、オリーブの実を入れ、まずオリーブオイルをかける。その後でお酢をかけるが、そのまま下に流れていってしまう。そうしてからサラダ用の大きなスプーンとフォークでもうしっちゃかめっちゃかぐしゃぐしゃに混ぜる。見るも無惨な状態になるが、これが非常に美味しい。崩れた卵の黄身がオリーブオイルとお酢をつないで、絶妙の味である。これが私の知っている唯一の料理。
フレンチドレッシングなんていうのは向こうでは絶対に作らない。油とお酢なんてそもそも混ざるわけがないものを強引に混ぜても喧嘩してしまうし、喧嘩しているものを食べても美味しくない。
・クラッシック音楽を緊張して咳一つできないような雰囲気の中で聴くようになったのはごく最近のこと。それまでは美味しい食事と、そのバックに会話の邪魔にならない音楽(クラシック)が流れている、という感じで音楽は存在していた。最近は逆に「カフェトリウム」といって、前の席から飛行機のようにテーブルを出すことができて、飲んだり食べたりしながら音楽を聴く場ができてきている。
・「食べ合う」ということを始めたのは修道院である。食事のときに修道院で黙っているのは、しゃべると出身や身分やその他の「違い」が際だって判ってしまい、そのことで気持ちがバラバラになってしまうからである。黙って、自分たちで作った美味しい料理を食べていれば、心が通い合って「兄弟」という気持ちになってくる。
・茶道でしゃべらないのも、これと全く同じ理由からである。千利休は黙って美しい所作でお茶を飲むことで、茶室では身分の差などない平等な世界を作ろうとした。それを嫌ったのが秀吉で、彼は支配する者と支配される者の区別を明確にしたがった。秀吉が千利休を殺した理由のひとつがここにある。
・(自分が学長を務める)浜松の大学で、この間、教職員食堂に回転寿司を呼んだ。トラックに乗せて持ってきて、すぐに組み立ててくれる。こんなに教授陣の目が輝いているのを見たのは初めてだ。老人ホームに回転寿司を持って行くと、それまでほとんど自分で食事をできなかった老人が、お寿司をとりお醤油をお皿に入れて自分で食べることもある。食事の力というのは偉大だ。
・回転寿司は大阪の元禄寿司から始まった。回転させるには角をどう処理するかが課題になるが、その解決法はボトリング工場のベルトコンベアを見ていて思いついたそうだ。自動車の組み立てのアセンブリラインを始めたのはフォードだが、食肉の解体工場を見ていて、これを逆回しにすれば組み立てができると考えついたのが発端だったらしい。何にしても現場に行くのが大切だということだ。
コンサートはピアノの方を除いてNHK交響楽団の首席奏者の方々が集まった。とても凄いことなのだと思うけれど、でもみなさんちょっと堅かったような気がした。間におしゃべりがなかったせいかもしれないし、難しい顔をして演奏されていたせいかもしれない。だから、拍手を受けてピアノの女性がにっこりと微笑んでいるのを見てとてもほっとして柔らかい気持ちになれた。
クライスラーの「美しきロスマリン/愛の悲しみ/愛の喜び」の3曲は、聴いてみたら耳に馴染んだ曲だった。演奏が始まるまでは「タイトルだけは知っているんだけどな」と思っていた。
それにしても、プログラムの途中にアンコール曲が演奏されたのは初めてだ。プログラムの流れ上、ヴァイオリンのアンコールを入れるには六重奏曲の前しかなかたとうけど、それならプログラムに入れておばいいのに、とちょっと思ってしまった。
前回のシリーズでは、1回もアンコールがなかったような気がする。そのサッパリさ加減が結構好きだったのだけれど、今回のシリーズでは今のところ毎回アンコールが演奏されている。プログラムとアンコールってどう区分けされているのだろう?
最後の「調理場のレヴュー」という六重奏曲は、多分物凄く珍しい組み合わせの六重奏なのではないだろうか。だからアンコールも同じ曲から演奏したのだろうと思う。プログラムノートでは「官能的なタンゴ」や「陽気なチャールストン」と紹介されているのだけれど、どちらかというと端正さが目立った演奏だったと思う。もっと楽しそうに演奏して貰えたらもっと気分がほぐれて楽しく聴けたのじゃないかと思った。
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