「お父さんの恋」を見る
「お父さんの恋」パルコ+サードステージ
作 中谷まゆみ
演出 板垣恭一
出演 堺雅人/星野真里/七瀬なつみ
菊池麻衣子/池田成志/前田吟
観劇日 2005年3月19日(土曜日) 午後7時開演
劇場 パルコ劇場 C列16番
料金 7000円
上演時間 2時間45分(15分間の休憩あり)
私はサードステージの先行予約で割とすんなりチケットを確保したのだけれど、友人に聞いたら物凄くチケットが取りにくかったらしい。
そのときは「これって前田吟人気?」と言い合って終わったのだけれど、後日、その話を別の友人にして呆れられた。「違うよ、堺雅人だよ。新撰組! 見てなかったの?」
確かに隣の席に座っていたカップルも「あの人が山南敬助をを演じていた人だよ」という会話を交わしていた。
休憩前はちょっとテンポが遅いと感じたけど、ラストシーンにたどり着く頃にはすっかり引き込まれてしまっていた。
終演後、久しぶりにパンフレットも買ってしまった(お芝居を見終わって凄く気に入っていなければパンフレットは買わない主義である)。
堺雅人が出演している「ビューティフル・サンディ」初演は今までVHSしか出ていなかったのだけれど、最近DVDも売り出したらしい。物販のコーナーに並んでいた。10秒くらい悩んだけど、VHSを持っているので今回はやめておいた。
ネタバレがあるので、お芝居の感想は以下に。
「いいお芝居だ」という評判は聞いていて、作・中谷まゆみ、演出・板垣恭一のコンビのお芝居はずっと大好きなものばかりだったし、かなり期待して見に行った。終わってみれば、本当にいいお芝居だった。
まだあまり本数を見ていないけれど、今年見たお芝居の中では「走れメルス」と同点一位、という感じである。
いいお芝居を観ました。
期待値が高かった分、前半は少しテンポが遅く感じてしまった。
星野真里演じる「さおりちゃん」と前田吟演じる「お父さん」の会話がかみ合っているようでかみ合っていないことは割とすぐに気づく。何だか変、と思っていると、お父さんが植物状態になっていることが明かされる。
七瀬なつみ演じる「正子姉(まさこねえ)」が玉の輿に乗りながら不倫していることは、あっさりと妹に看破される。
一方、菊池麻衣子演じる妹の「美樹姉(みきねえ)」が恐らくはお金に困っていて実家から預金通帳なのか何なのか、「金目のもの」を持ち出そうとしていることも察せられる。
植物状態になったお父さんが実家にいるのに、お母さんは亡くなっているのに、姉二人も堺雅人演じる「大樹」も、6年間も帰っていなかった。1年前に交代した介護ヘルパーである「さおり」のことも全く知らなかった。
多分、巷にこういう家はたくさんあるんだろうけど(私だってこの姉弟のようになりそうな気がするけれど)、少し離れたところから見るととんでもない一家が舞台である。
その「とんでもない」一家の現状が、決して説明台詞でなく、兄弟喧嘩や介護ヘルパーと名乗るさおりと兄弟とのやりとりで明かされていく。
仲良しだった頃の家族も回想シーンで演じられる。池田成志演じる隣家の医師でお父さんの主治医でもある「藪一平」と正子姉がヤンキーだったりして、笑かしてくれるのだけれど、このシーンで撮った写真は暖炉に飾られている。
休憩後は、それまで縦横無尽に張りまくった伏線を一気にひっくり返して見せて行く。
海辺の洋館風の家を舞台にしたゆっくりしたテンポは変わっていないのに、本当に息つく暇もない、という風に空気が一変するのだ。
後半のキーになる人物は、高校時代に文芸賞を取り小説家を目指し挫折してパチンコで借金を抱えて20代前半の若さで自己破産した、末の弟の大樹である。
一言で言うと、「堺雅人、格好良すぎ!」である。本当にいいところをかっさらって行く。
恐らく美樹姉がお金になると思って拾ったか奪ったかした正子姉の指輪を手に入れる(それでさおりちゃんにプロポーズして断られるのはご愛敬である)、藪一平が作った「お父さんの意思確認装置」をヒントにPCでお父さんがしゃべっているように見せかける(そしてあっさりと美樹姉に看破されて怒鳴りつけられる)、お父さんが建てたこの家にお父さんの子供達への想いが籠もっていることに気づいていたのも大樹だけだし、介護ヘルパーではないことを美樹姉に調べられこの家から去って行こうとするさおりがお父さんを最後に託すのは大樹である。
そして、七回忌のお経をあげてもらっているとき、家の権利書を奪いに戻ってきたさおりと相対するのも大樹である。実は、大樹はさおりが莫大な借金を抱えていることもその事情も以前から知っていたのだ。
さおりの台詞じゃないけれど「知っていて見てたんだ、趣味悪い」である。
でも、何故かこれが、堺雅人が演じていると納得がゆく。31だか32にもなってパチンコで生計を立てているプーの男なんて格好悪いとしか言いようがないんだけど、でも格好良く見えてしまうところが不思議だ。
本当はこのシーン、さおりが権利書を奪おうとする前に、お父さんにヘッドホンと目隠しをして欲しかったな、と思う。「お父さんには意識がある」と言い続け、多分信じるようになっていたさおりに、お父さんに見聞きされる状態で家の権利書を奪って欲しくなかったと思ってしまった。
その前、姉二人が隠し場所に家の権利書だけがないことを発見したときに、お父さんはさおりのしたことだと察し、ある意味で諦めある意味で納得しているのだけれど。
でも、大樹とさおりのこのシーンを見聞きしていたからこそ(この会話の間、お父さんはずっと沈黙を守っている)、さおりが「やり直してみる」と言って去った後、大樹が「親父、この家に戻ってきてもいいかな」と話しかけたのに対して、初めて本当に自分の口からお父さんは「勝手にしろ」と答えるのだ。
それが、お父さんの生の声であると、ストンと納得がゆく。
お父さんが意識を取り戻して終わるだろうとは予測していたのだけれど、まさに「やられた!」という感じだった。
お父さんもさおりも、お互いに恋する以上に、家族に恋していたんじゃないかと思わせられた。
ところで、今回の公演の音楽を担当している北村紀子さんは、show caseシリーズの初期の頃は、生でオーボエを吹いていらした。
今回は作曲だけのようだ。これだけ公演期間が長くなり、劇場も大きくなると難しいのかも知れないけれど、また彼女の生演奏がお芝居で聴けるといいなと思った。
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コメント
都弥乃様 コメントありがとうございます。
私の感想とも言えないような感想を読んでいただいて、コメントまでいただけて嬉しいです。ありがとうございます。
「泣くもんか」と思っていても涙が出てきちゃうようなお芝居ですよね。
どうぞ2回目の「お父さんの恋」も楽しんでいらしてください。
投稿: 姫林檎 | 2005.03.20 22:41
はじめまして、姫林檎様。
先週一度この舞台を見て、涙だらだらになりました。
明日、そして週末に再度観に行くんですが、それを前に
また他の方の意見も見てみようかなぁと思い、
こちらに辿り着きました。
姫林檎様の感想を読んで、ひとつひとつの場面が
鮮明に思い出されて、感動がよみがえってきました。
明日また観るのが更に楽しみになりました。
ありがとうございます。
明日もきっと泣いちゃうな。
投稿: 都弥乃 | 2005.03.20 15:04