« 「姫が愛したダニ小僧 〜Princess and Danny Boy〜」の抽選予約に申し込む | トップページ | 「猫と庄造と二人のおんな」を見る »

2005.04.15

「KITCHEN キッチン」を見る

「KITCHEN キッチン」 TBS / Bunkamura
作 アーノルド・ウェスカー
改訳 小田島雄志
演出 蜷川幸雄
出演 成宮寛貴/高橋洋/須賀貴匡/長谷川博己
    杉田かおる/大石継太/大川浩樹/鈴木豊/月川勇気/品川徹
    戸井田稔/香月弥生/一戸奈未/魏涼子/春日井静奈/石井智也
    鴻上尚史/津嘉山正種 他
観劇日 2005年4月9日(土曜日) 午後7時開演
劇場 シアターコクーン 1階C列17番
料金 8500円
上演時間 2時間40分(20分の休憩あり)

*こちらに都弥乃さんからコメントをいただいています。

 今年2本目の蜷川幸雄演出の舞台である。
 今回も舞台セットが凝っていた。舞台上に客席(XA列からE列まで)を設置し、中央に仮設舞台、舞台を挟んで向こう側に通常の客席がある。
 舞台上には「KITCHEN」が設置され、出演者達はロ型に並べられたKITCHENの中で客席の方を向いて料理を作っている。その外側をウエイトレス達が料理の注文に走り回る。
 C列で見ていて、芝居の正面はどちらかというとF列以降の通常の客席側であるように感じられたけれど、多用される通路はバランス良く役者さんたちが配置されている。あっちの通路で演じられたと思うと、自分のすぐ脇の通路で別の役者さんが演じている。舞台も役者さんもとても近い。

 舞台の設定はイギリスのレストラン。コック達は各国から集まって来ているという設定で、時おり自国語でしゃべる。英語の台詞は日本語に訳されて日本語で語られるが、その他の外国語の台詞はそのまま外国語で話されていたようだ。外国語の台詞の意味は、舞台を挟んで反対側の客席後方にある電光掲示板に表示されていた。

 休憩時間にロビーに出たら、いつもと違う香りが漂っている。この舞台で作られているメニューのうち、ミネストローネとフルーツフランがロビーのカフェで供されていた。お腹がいっぱいでなければ試してみたかった。

 パンフレットは1800円。飛ぶように売れていた。KITCHENセットの解説なども載っていて、お芝居自体が難しかったこともあって購入しようか悩んだけれど、やめておいた。

 ネタバレがあるので感想は以下に。

 やっぱり毎回書いているように思うのだけれど、このお芝居も難しかった。多分、というか、間違いなく理解できていないと思う。

 休憩前は、ランチタイムのKITCHENの日常が流れてゆく。
 ストーリーというようなストーリーは語られていない。一人ジャガイモの皮むきをしている少年は開演前から舞台上にいて、暗い舞台にスポットでグラスなどが浮かび上がり、一人また一人とコックやウエイトレス達が客席から出勤してくる。
 少しずつKITCHENに活気がみなぎり始め、コック同士の昨日の喧嘩が語られ、不穏な空気流れ、コックとウエイトレスの不倫が語られる。
 コック達はビールをラッパ飲みしながら下ごしえをし、新入りのポジションが決まり、オーナーがKITCHENに様子を見にやってくる。徐々にKICHENが慌ただしくなり、ウエイトレスが次々と注文を重ね、コック達がそれに応えて料理を次々と作り上げてゆく。注文のメモが飛び交い、料理の皿が飛び交う。
 その喧噪が最高潮に達したところで、ダンッと断ち切るようにライトが消える。休憩だ。

 休憩に入った時点では、このお芝居はストーリーのようなものはなく、この「喧噪」を見せるお芝居なのかと思っていた。
 「NANTA」のイメージだ。
 でも、このお芝居の真骨頂は休憩後にあった。

 休憩後、舞台上には若手のコック達だけが残っている。成宮寛貴演じるペーターが「夢を語れ!」と周りの者に強要し、語られた夢を「そんなもんは夢じゃない」と切って捨てる。
 高橋洋演じるポールが「悪夢」を語る。理解しあっていた(つもり)の隣人と実は何も理解しあってはいなかったことを思い知らされるという「悪夢」だ。
 須賀貴匡演じるディミトリがペーターに「じゃあ、おまえの夢を語れ」と切り返す。「静かにしてくれ」と出勤初日の余りの忙しさにダウン寸前の長谷川博己演じるケヴィンもペーターに注目する。
 そこでペーターは何かを語ろうとする。のど元まで言葉が生まれかけていることが伝わってくるのに、それを言葉にすることができない。イライラと神経質に人の神経を逆なでするようなことばかりしているペーターの、「問題」がそこにあることが何となく感じられる。
 結局、ペーターの不倫の相手である、杉田かおる演じるモニックが現れたことでその緊張感は失われ、ペーターはその場から逃げ出してしまう。
 「せっかく聞いてやる気になったのに」とそれまで穏やかに一歩引いていたディミトリが怒りをあらわにする。

 休憩を終えたコックやウエイトレス達が三々五々戻って来て、ディナータイムが始まる。
 その直前、ペーターに「旦那と別れろ」といつもの話を蒸し返されたモニックが「主人が私のために家を建ててくれるんですって」と彼を振り切る。
 そう言われた瞬間、ペーターの中で何かがブチンと音を立てて切れたようだった。
 拳を振るわせ、自分の中で壊れた何かを必死で押さえようとするペーター。すぐそばの通路で演じている成宮寛貴の全身から、その危うさがひしひしと伝わってきた。頼むからここで爆発しないでくれ、と思ってしまった。

 ペーターは自分の領域にウエイトレスが入ってきたことで完全にタガを外され、ナイフを握りしめてウエイトレスを追い回し、ガス管を切り、KITCHENを台無しにし、フロアにまで走り出て行き辺りのものを壊しまくる。
 血まみれになり、それでも振り回すことをやめようとしないペーターを何人かで押さえつけ、何とか治療する。

 そこに、オーナーがやってきて「仕事を与えて給料をたっぷり与え、食べたいものを食べさせている。それ以上、何を求めるんだ?」と、多分彼にとっては当然すぎることを自分のスタッフに問いかける。
 しかし、スタッフ達は何も応えない。血まみれのまま出て行ったペーターを追うように、次々とKITCHENから出て行き、そして冷たい目でオーナーを振り返る。
 そこで幕である。

 何だか割り切れなさが残る。
 何を考える隙間もないほどに働いている毎日に、その時間と場所に、ペーターを始めとするスタッフ達が閉塞感を感じ息を詰まらせていることが伝わってくる。同時に自分に対する焦燥もあるように感じられる。
 恐らく、その「日常」がペーターに夢を語らせなかったのだと思う。それはモニックの台詞よりも、彼女が妊娠したペーターの子を堕ろそうとしていることよりも、彼を追いつめていたように見える。
 でも、どうしてペーターは自分を壊してしまったのか、自分を壊したペーターを見て他のスタッフ達が何故職場を捨てようと決心したのか、捨てられたオーナーは一体何を象徴していたのか、その辺りのことがまるで判らなかった。
 このお芝居は、多分、これらのことを感じられて初めて「見た」と言えるし「理解した」と感じられるように思う。
 そこまで辿り着けなかった自分がちょっと悲しい。
 何だか、お芝居は楽しんだけれど肝心なことを掴み損ねた、という気持ちだ。

 料理のマイムを始め、出演者全員のチームワークというか段取りが見事。これなら本当に2000人を回転させるランチタイムもさばけてしまうんじゃないかという勢いだ。
 そして、出演者一人一人に背景と物語があることが伝わってくる。その物語の内容を捉えることまではできなかったけれど。
 ペーターを演じた成宮寛貴ははまり役。その焦燥感と神経質さがピンっと目立つ。
 杉田かおるの立ち姿が思いのほか綺麗。凛としている。
 一番格好良いと思ったのは須賀貴匡演じるディミトリだった。役柄もあると思うけれど、彼が動くと何となく安心できた。

|

« 「姫が愛したダニ小僧 〜Princess and Danny Boy〜」の抽選予約に申し込む | トップページ | 「猫と庄造と二人のおんな」を見る »

*芝居」カテゴリの記事

*感想」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「KITCHEN キッチン」を見る:

« 「姫が愛したダニ小僧 〜Princess and Danny Boy〜」の抽選予約に申し込む | トップページ | 「猫と庄造と二人のおんな」を見る »