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「猫と庄造と二人のおんな」 月影十番勝負第九番
原作 谷崎潤一郎
脚本 内田春菊
演出 木野花
出演 高田聖子/土屋久美子/中谷さとみ/利重剛
観劇日 2005年4月16日(土曜日) 午後1時開演
劇場 青山円形劇場 Eブロック25番
料金 4800円
上演時間 2時間5分
久々の青山円形劇場、久々の月影十番勝負である。
もちろん(と威張るようなことではないけれど)、谷崎潤一郎の原作は未読である。
原作を読んでいれば(恐らくかなり翻案されかなりテイストを変えていると思われるので)、どう変えているのかを感じる楽しみがあったと思うけれど、読んでいなくても十分楽しめた。
劇中でイラストレイターを演じる高田聖子さんご本人によるイラストつきのパンフ(というのか、チラシというのか)が配られた。
そこに「月影十番勝負第十番」の速報が載っていた。
2006年3月、スペースゼロとIMPホールでの公演である。
作・出演に千葉雅子、演出・出演に池田成志、出演に高田聖子・木野花ほか。
タイトルが「女囚サソリ」(仮)。
「演劇史上かつてない衝撃のキャスティング!」とあるけれど、衝撃かどうかはともかく、濃ゆーいことだけは間違いない。興味津々である。楽しみだ。
で、肝心の「九番」の感想はネタバレがあるので、以下に。
高田聖子演じる品子が自分の元夫の今の妻に携帯メールを送るシーンから始まる。
電車の中でも口の中でぶつぶつ言いながら携帯でメールを打っている人をたまに見かけるけれど、それとは明らかに異なる鬼気迫る雰囲気がある。
「自分が夫に愛されなくなったように、アンタもそのうち愛されなくなるに違いない。」という、ほとんど呪詛のような内容のメールだからだろうか。
そのメールの本当の目的は、中谷さとみ演じる今の妻の福子に、利重剛演じる庄造は福子よりも土屋久美子演じる黒猫のリリーの方を愛していると疑心暗鬼に陥らせることである。
さらに、異常にリリーを愛する庄造を知っている品子は、リリーを手元に置き、庄造を自分のところに来させようとしているのだ。
何だか激しく歪んでいる世界である。
だけど、三角関係とか、離婚とか、元妻とか今妻とか、恐らく今の日本では日常的にある光景で、だからこそその歪み方が一層不気味である。
段々、黒猫のリリーが一番まともなんじゃないかと思えてくる。
偏愛する利重剛に特になびかず、クールな視線を保っているところが頼もしい。
そのリリーが暗示しているように、このお芝居の影の主役であり、この歪みを作り出しているのは、最後まで姿を見せないことで存在感を醸し出している「庄造の母」である。
完全二世帯住宅の1階に住んでいて、庄造と福子夫婦のところにも滅多に顔を出さないこの「母」が、つきとばしたくなるくらい覇気とやる気と熱意と意思のない男に庄造を育て、今も支配しているのだ。
そして、庄造一人は気がつかないけれど、品子も福子も「庄造の母」の有形無形の圧力を感じている。
すべての原因は「庄造の母」にあるのだという確信を深めて行く。
最後、リリーが「庄造の母」に何かをして、消滅させる。
そこで、庄造が「母さん」と呼びかけているのは、つぶれたスイカのようなものである。
「庄造の母」は実は庄造が作り出した幻で、品子も福子も実はその幻に巻き込まれていただけなんじゃないかと思わせられる。
黒猫のリリーは庄造に僅かに残っていた「意思のかけら」が具現化した姿で、最後の最後にやっと母に抵抗することができ、母の呪縛から逃げることができたんじゃないか、という気がした。
黒猫のリリーを演じた土屋久美子さんのしなやかさとクールさがとても印象的。
中谷さとみさんをこんなに近くでじーっと見たのは初めて。何だか新感線で見るときと全く感じが違う。
利重剛さんの庄造は、終始なよなよぐじぐじ逃げまくっていて腹立たしいけど、そういう役に見事にはまったということだと思う。
劇中のリリーの台詞ではないけれど、高田聖子さんの一人芝居をいつか見てみたい、と思った。
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