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2005.05.08

「メディア」を見る

「メディア」
作 エウリピデス
翻訳 山形治江
演出 蜷川幸雄
出演 大竹しのぶ/生瀬勝久
    吉田鋼太郎/笠原浩夫/横田栄司
    松下砂稚子/菅野菜保之 他
観劇日 2005年5月8日(日曜日)午後2時開演
劇場 シアターコクーン 2階C列25番
料金 9000円
上演時間 2時間

 もちろん私は20年前の蜷川幸雄演出、平幹二朗主演の「王女メディア」は見ていない。男優ばかりで上演されたというその演出を見てみたかったな、と思う。

前に、同じく山形治江さんが翻訳したギリシャ劇が上演された際、公演期間に合わせて朝日カルチャークラブで講座が開講されていた。私が受講したのは蜷川幸雄演出の「オイディプス王」のときで、翻訳に当たっての背景や演出の意図などを山形さんご自身が語り、公演を見て、その後にまた質疑応答をメインにした講義が行われる、といった形態だった。とても興味深かったので、また機会があったら参加してみたいと思う。

 感想は以下に。

 「将門」のときも思ったけれど、蜷川幸雄演出はコクーンの舞台を縦に長く使っている。石造りの家の外壁が、あらゆるものを拒否するようにそびえ立ち、木の扉がかたく閉ざされている。
 その家の庭に当たる舞台の大半に水が張られ、蓮の葉と花が浮いている。
 2階の自分の席につき、その舞台が目に入ったとき、「これは2階から観るのが正解だな」と思った。

 メディアの侍女が、メディアのこれまでを語るところからお芝居は始まる。
 メディアがイアソンに裏切られた後、王女ではなくなってからのメディアを描いたから、タイトルを「王女メディア」ではなく「メディア」にしたのかな、と思った。
 また、そうしなければとても上演時間を2時間に収めることはできなかっただろうと思う。

 イオルコスの王子イアソンは、王位を簒奪した叔父ペリアスに王位返還を求めていた。ペリアスは条件として、コルキスから黄金の羊毛を持ち帰ることを命じる。イアソンはコルキスの王女メディアに助けられて成し遂げるが、ペリアスは返還を拒否。メディアは魔術を使って彼を殺す。その罪で国を追われた2人はコリントスへ。やがて子供も生まれ、家族4人、質素だが平和な生活を送っている。ところがある日、コリントスの王クレオンが名高い冒険家のイアソンを女婿にと望む。王位と財産、花嫁の若さと美しさに目がくらんだ彼は、縁談を承諾する。(ちらしより引用)

 大竹しのぶ演じるメディアの呪詛と嘆きの声が舞台に響き渡る。
 赤ちゃんを背負ったコリントスの女たちが集まって来て、メディアを慰めようとする。
 そこからお話が動き始める。

 何と言っても、大竹しのぶ一人勝ちの舞台である。ほとんど刈り上げたような髪型といい、呪詛の声のおどろおどろしさといい、復讐のために我が子を殺す決心をする姿といい、全身全霊をあげてイアソンを憎んでいることが伝わってくる。 
 クレオン親娘を殺すところから復讐を始めるけれど、それは彼らをより憎んでいるからではなく、イアソンをより苦しめたいからだというところが恐ろしい。

 夫に裏切られたメディアを慰めようとするコリントスの女達も、我が子を殺そうとするメディアを必死で止めようとする。彼女たちの群唱が舞台を進め、話の世界とまぜこぜになっている雰囲気を醸し出している。いよいよ嘆くときには水を蹴散らし叩く。

 大竹しのぶの演技といい、彼女を裏切ったイアソンを演じる生瀬勝久の「嫌な男ぶり」といい、「俺は王に向かない性格だ」と叫ぶ王クレオンを演じる吉田鋼太郎といい、舞台を高く使い水を効果的に使ったセットといい、全てが「王女メディア」という世界を成立させるために上手く作用している、という感じがした。

 ラストシーンで、メディアが我が手で殺した我が子を抱いて乗る車(というか、竜というか)の動きもすべらかで、照明の効果と相まって、空を滑空しているように見えた。ああいった舞台装置が浮かないというのは、それだけで凄いことだと思う。

 だから、本当の最後の最後、舞台奥の搬入口を開き渋谷の街を見せる演出は必要なかったんじゃないかと思う。あまりにも繰り返されると「うーん」と思ってしまう。
 帰り道、「メディアというお芝居と彼女の行動がギリシャ悲劇の中だけでなく、今にも通じるものだということを表現したかったんだと思う」と話し合っている人の声が聞こえてきた。その意図は判るけれども、別の表現方法がないだろうか、と思った。
 全体として好きだったし、「いいお芝居を見た」という気持ちが強いだけに、気になってしまった。

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