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2005.06.05

「近代能楽集 卒塔婆小町/弱法師」を見る

「近代能楽集 卒塔婆小町/弱法師」
作 三島由紀夫
演出 蜷川幸雄
出演 卒塔婆小町 壤晴彦/高橋洋/他
    弱法師 藤原竜也/夏木マリ/鷲尾真知子/清水幹生/神保共子
観劇日 2005年6月4日(土曜日)午後7時開演
劇場 彩の国さいたま芸術劇場大ホール 1階K列7番
料金 10000円
上演時間 1時間50分(20分間の休憩あり)

 上演時間は卒塔婆小町が約50分、20分間の休憩を挟んで、弱法師が約45分といったところだろうか。終演後に時計を見たら、まだ午後9時になっていなかった。

 音が非常に重要なお芝居だったし、劇場側も再三「傘は床に寝かせておいてください」と注意していた。
 それなのに、私の席の右側と後ろにお芝居が始まってもおしゃべりをしている女性2人組がいたのには参った。思わず振り向いて睨みつけてしまった。
 こういう場合、声に出して注意するのもかえって周りの邪魔になるのが困ってしまう。どうしたらいいのだろう。

 ネタバレありの感想は以下に。

 真っ暗な中、老婆と詩人が客席の通路から登場する。
 幕が上がり、そこは公演でベンチが5つ。恋人同士が語らっている。
 「卒塔婆小町」が先だと判った。

 舞台は赤い薔薇(だと思う)で囲まれていて、かつ上から薔薇の花がひとつ、またひとつと降って来る。恐らく磁石がついていて、床に落ちたときに磁力で上向きになるようにしてあるのだと思う。その磁石のせいなのか、最初からそれが狙いなのか、落ちると「コツ」「コツ」と音がする。
 お芝居の間中、断続的に降り続ける薔薇の花とその落下音は一定のリズムを持っていて、少しそのテンポが速くなったり、落下が止まったり、あるいは一定のリズムで落ち続けることで緊張感を醸し出している。
 もっとも、私は一定のリズムで聞こえてくる「コツ」「コツ」という音に誘われて、いつの間にかお芝居の内容とは全く関係ないことを考え出したりしてしまった。

 老婆を壤晴彦さんが演じている。
 周りの恋人達に目をやると、「これは女優さんは辛い役だな」などと思っていたのだけれど、少しして全員が男性らしいことに気が付いた。ラブシーンを男優同士が男と女のつもりで演じるとこうなるのか、と思った。
 「卒塔婆小町」は(パンフレットも購入しなかったし、実は100%の自信はないのだけれど)、出演者が全員男性とすることで、「醜い」「美しい」という言葉を意味のないものにしようとしているように感じた。
 上手く言えないのだけれど、それはこのお芝居のテーマをより生かすための試みのように思う。

 でも、老婆がその昔の小町と呼ばれた時代を思い出し、深草少将と鹿鳴館でダンスを踊るシーンでは、ゆっくりと腰を伸ばし顔を上げ立ち上がる「彼」に凛とした美しさを感じた。

 20分の休憩後、再び幕が上がった。「弱法師」である。
 舞台はその昔の家庭裁判所のようだ。戦争で5歳の息子と生き別れた実の両親が、15年後に育ての親と息子を捜し当て、双方の「両親」が息子は自分たちのものだと譲らない。
 その息子は目が見えず、言うこともやることも奇矯である。この息子を演じるのが藤原竜也、家裁の調停官(という役職があるのかどうかは判らないけれど)を演じるのが夏木マリである。

 正直に言って、双方の両親が息子を取り合う台詞の応酬は入ってきたのだけれど、両親が部屋から出て行って、この2人だけが残って以降の台詞の応酬はよく判らなかった。普段使っていない言葉がところどころに出てきて耳慣れていないせいもあったと思う。
 あちらの世界で、あちらの世界にいる2人にしか判らない、でもあちらの2人にとっては自明すぎることを語っている、という感じだった。

 ラストシーンで、藤原竜也が「僕は大抵の人に愛されるんですよ(だったと思う)」と言って笑った顔が、本当に気持ち悪くて、悪意に満ちているというのとも違う、悪魔のような笑いだった。
 その笑いを見せ、周りの壁が落ちて(それは布を吊してあっただけらしい)、舞台後ろの広い空間を見せ、照明が落ちる。その一瞬にだけ見えたせいで、より印象が強められているのかもしれない。
 さらに、カーテンコールでの「いかにも好青年」な笑顔とのギャップが激しかったことが、さらに「悪魔の笑顔」の印象を強めているような気もする。

 「卒塔婆小町」では、やはり吊していた鹿鳴館を描いた布を落とすのと同時に車のクラクション音を入れて、現実に戻ったことを表現していた。 
 「弱法師」で、家庭裁判所の一室の壁を落として、その奥の広い空間を見せることで、何を表現していたんだろう、と思う。この目の見えない20歳の青年の心の虚ろさだろうか。

 どちらも、「違う空間」を現出させたお芝居だった。

 「弱法師」の藤原竜也を見ていて、「身毒丸」「弱法師」「卒塔婆小町」を一挙に全て藤原竜也出演で上演してくれないかな、と思った。それぞれ役の年齢は異なっているし、その年齢であることに意味のある役ばかりだとは思うけれど、だからこそ見てみたいと思う。

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