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2005.07.03

「ヒーロー」を見る

「ヒーロー 〜Man of the Moment〜」加藤健一事務所
作 アラン・エイクボーン
演出・出演 加藤健一 
出演 上杉祥三/加藤忍/大西多摩恵/有馬自由
    大久保了/はざまみゆき/高須誠/他
観劇日 2005年7月2日(土曜日)午後5時開演
劇場 本多劇場 J列5番
料金 5000円
上演時間 2時間45分(15分間の休憩あり)

 気のせいかも知れないけれど何だか「関係者」っぽい人が多いな、と開演前のロビーで感じた。
 加藤健一事務所のお芝居では、最近は研修生が開演前の注意事項等々を説明しているのだけれど、その彼女が「本日が初日です」と言ったので納得がいった。

 舞台上にプールが作ってあって驚いた。本物の水が張ってあって、泳ぐシーンまである。あのプールは一体どれほどの大きさだったのだろう。
 
 ネタバレがあるので感想は以下に。

 少し前にこのお芝居が読売新聞の夕刊で取り上げられ、加藤健一と上杉祥三のインタビューが載っていた。
 その記事で上杉祥三が「完全な悪役を演じるのが楽しみ」「プールで泳ぐ役だ。K2といい、体力勝負の役しか来ない」といった趣旨のことを言っていて、その部分だけやけに印象に残っていた。

 舞台は加藤忍演じるジルというインタビュアーが自分の番組のナレーション部分を撮影しているところから始まる。彼女はインタビュアーであると同時にその番組全体を仕切っているという設定のようだ。
 ジルが仕掛けているのが、17年前に銀行強盗事件を起こし、今はテレビで活躍している上杉祥三演じるヴィックと、当時銀行員で事件の際に犯人に突撃し一躍マスコミにヒーローとして祭り上げられた加藤健一演じるダグラスとの再会だ。

 このヴィックという男はほんっとうに嫌な奴だ。「悪役」と言い切れるかどうか未だに判らないのだけれど、「嫌な奴」であることは絶対確かだと思う。
 大西多摩恵演じる彼の妻トゥーディーが終始おどおどとしていることからも、日頃から周りの人にどれだけ威圧的に振る舞っているか判ろうというものだ。

 それではダグラスが「いい人」なのかというと、それも実は違うような気がする。
 彼はジルがいくら挑発しても「今の自分は幸せだ」と言うし、「自分の愛する妻の顔をショットガンで撃ち傷を負わせた銀行強盗がいい暮らしをしていることについて何のねたみも感じない」と答え、「欲しいものは何もない」と言う。ヴィックとは逆に妻に対して大声で威圧的になることもなく、ヴィックが子守りの女の子をいじめるのをごく控えめに止めようとする。

 けれど、徐々に明らかになっていくのだけれど、ダグラスは自分でも言っているように、ヴィックを憎みつつでも感謝しているのだ。銀行強盗事件がもし起きておらず、彼の妻が顔に傷を負うことがなければ、彼と彼女が結婚することなどまずあり得なかったのだから。
 そして、彼の妻はダグラスのことを多分今も愛してはいない。
 それでも、事件で受けた心身の痛手から快復していない(できない)妻を、多分ダグラスは喜んでいるのだ。
 何だかそういう感じを受けた。

 ショットガンを振り回す銀行強盗に無謀にも向かって行った男がヒーローなのかどうかそもそも疑問があるけれど、それ以上に今のダグラスが「退屈ないい人」なのかどうか、疑問だ。
 一方のヴィックが「嫌な奴」なのはともかくとして、「悪人」なのだろうか。

 ヴィックは妻のトゥーディーに暴力を振るっているところをダグラスに見つけられ、ダグラスは17年前と同じように女性を救おうとして突進し、ヴィックはプールに落ちる。
 ここで客席から笑いが起きていたけれど、私は笑うシーンではないんじゃないかと思った。どちらかというと、私はここでゾっとした。
 そして、プールにはヴィックに絶望した子守りの女の子がスキューバの重りをつけて自殺しようと飛び込んでおり、彼女は助かるのだけれどヴィックは死んでしまう。

 恐らく、ダグラスはそれを「自殺しようとした子守りの女の子を助けようとしたヴィックが、女の子は助けたものの自分は力尽きて死んでしまった」という話に作り替えて、有馬自由演じるヴィックのマネージャーや使用人、ジルを始めとするテレビクルーに話したのだ。
 そして、その成り行きはダグラスが話したままにテレビで放映されることになったのだ。
 そこで、「幕」だ。

 すっきりしない。
 その後のダグラスとトゥーディーが現れないまま舞台に幕が下りるところが、物凄くすっきりしない。

 ジルはそれまで「復讐」とか「葛藤」とかをダグラスに求めていて、実際にヴィックが死んでいるというのに、何故ダグラスの説明をそのまま受け入れたのだろう。
 極端な見方をすれば、善人を装っていたダグラスがついにヴィックへの復讐を果たし、その犯罪を隠匿したという風にもまとめられる。このお芝居はそういうお話なのだろうか。
 自分も夫から屈辱を受けていた妻が、ついに夫を排除して(恐らく)財産を得てその後幸福に暮らした、とそういうお話なのか。
 さらに極端なことに、私はダグラスとトゥーディーがこの後、結婚したりするんじゃないかとまで想像してしまった。多分そういうお芝居ではないと思うのだけれど、でもそういう結末もあるかもしれないと思ってしまったのも事実だ。
 
 この先どうなるのか、2時間45分を集中して見られた。
 可笑しいシーンもたくさんあって笑った。
 素直に考えるとジルに代表される「マスコミ」が作り上げた「ヒーロー」の話だと思うのだけれど、でも何だかもっと奥の方で二転三転しているお芝居な気がする。
 何か考えなくちゃいけないという気持ちは強く受けるのだけれど、何を考えればいいのか判らない。だからすっきりしていないのだろう。
 でも、その色々考えさせるところを含めて、見て良かったと思う。

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