「おんなの落語」を見る
音楽劇「おんなの落語」アトリエ・ダンカン プロデュース
作・演出 鈴木聡
出演 木の実ナナ/陰山泰/植本潤/内田滋
観劇日 2005年7月9日(土曜日)午後2時開演
劇場 THEATRE1010 1階2列21番
料金 8000円
上演時間 2時間5分
THEATRE1010には初めて行った。北千住駅前の丸井の11階に新しくできた劇場だ。
「THEATRE1010」は何て読むのだろう、0101だと丸井のマークだからそれをひっくり返したのかしら、と思っていたのだけれど、入口に「しあたーせんじゅ」とふりがなを振った張り紙があって納得した。千住と1010(せんじゅう)をかけてあったのか・・・。
千秋楽も近いし、ネタはすでにちらしなどでバラされているようなものだけれど、感想は以下に。
広い舞台は全体に黒っぽく沈んでいてぽつんぽつんと置かれた座布団と行灯と鏡台が置かれ、かのこや麻の葉模様の布が垂れ幕のように下げられている。そこにふすまや破れ障子の戸などを出したり引いたり、スポットを当てたり暗くしたりして場面展開を見せている。
登場人物は多いのだけれど演じるのは4人。
ちらしによると「品川心中」「文違い」「お直し」「駒長」「風呂敷」「芝浜」という6本の古典落語をひねってつなげて「お染」という一人の女の人生を転がして行く。
この「転がして行く」という言葉がまさにぴったりで、それは多分、あまり音楽を聴かない私ですらメロディーに聞き覚えのあるポップスに、物語に合わせて歌詞を乗せて歌われているせいもあると思う。
正直に言って、前半はちょっと退屈してしまった。
「こんなに無理に歌わなくてもいいのに」「もっと舞台が狭くて客席が小さい劇場の方が似合いそう」「芸達者な人たちに混じって内田滋はちょっと固いかもしれない」「音楽劇と言うよりは木の実ナナ・オンステージという感じだ」「古典落語って遊女が出てくる噺が多いのね」などと考えながら見ていた。
落語をほとんど聞かないせいで、「ひとつの落語と落語の間には出囃子を入れている」なんてことに気が付かず、どこでお話が一段落ついたのか見当がついていなかったせいもあると思う。
でも、5本目の「風呂敷」はたまたま私も知っていた。といっても聞いたことがあるわけではなく、北村薫の「朝霧」という本に収録されている「山眠る」という中編に出てくるのだ。
そこでは、「風呂敷」という落語は以下のように紹介されている。
**********
女房が若者と話しているところに、嫉妬深い亭主が帰って来る。女房は、つい、若者を押し入れに隠してしまう。ところが、亭主は押し入れの前に大あぐら。困った女房が、機転の利く男に相談する。事情を聞いた男は、風呂敷ひとつを手に、<あいよっ>と出掛けて行く。
中略
女の家に入ると亭主が、<何でえ、その風呂敷は>。<これについちゃあ、面白い話があるんだ>。男は、この家の現在の様子を、そのまま別の家のこととして語る。<頼まれて、その押し入れの中の野郎を逃がして来たんだ>・<へえー、どうやって>。<その前にいる亭主によ、こうやって風呂敷をかぶせてよ>と、言葉通りのことをやりながら、「それから、後ろの押し入れを開けて、おう、逃げろっ、音を立てるんじゃねえぞ。忘れ物はねえなっ>。若者がいなくなったところで、風呂敷を取り、<と、まあ、こんな具合にやったんだ>。男が、<そりゃあ、うまくやりやがったな>というのが落ちである。
**********
小説の中では、さらに、この落語を「亭主は全て知っていた」という話に作り替えてしまった師匠の話へと続く。
この「おんなの落語」でも、やはり「亭主は全て知っていた」という話に作り替えていた。舞台上には「機転の利く男」と「お染」の2人。男はおそめに、「亭主は全部知っていたんだ。自分がお染や相手の男を傷つける前に別れてくれ、と亭主が言っていた。俺からも頼む、別れてやってくれ。」と伝えるのだ。
このシーンが、落語のアレンジとしての違い、落語を素にお芝居を作ったことによる落語と芝居の違い、お染という女の業のようなものを際だたせるための違い、そんな色々が感じられてぞくぞくした。
この5本目の「風呂敷」から「芝浜」にかけてのお芝居が、物凄く良かった。見て良かったと思った。
きっと落語を知っていたら、お芝居全体をもっと楽しめたと思う。それがちょっと悔しい。
色々な「お染」を演じた木の実ナナはもちろん、その「お染」を取り巻く男(時には女)を次々と演じ分けた陰山泰、植本潤、内田滋の3人が見事だった。
最後に、やっと落ち着いた暮らしに戻ったお染と魚屋の亭主、ぼてふりの男2人が初日の出を拝む。
その最後のシーンで暗かった舞台に光りが溢れる。その演出も格好良かった。
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