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2005.09.19

「ペール・ギュントの旅」を見る

市村正親 ワン・アクターズ・ショー「ペール・ギュントの旅」
構成台本・演出 鈴木理雄
出演 市村正親 他
観劇日 2005年9月19日 午後2時開演
劇場 サントリーホール 小ホール 13列4番
料金 10000円
上演時間 2時間10分(20分の休憩あり)

 1列目から6列目までは舞台を挟むようにして、7列目以降は舞台を正面から見るようにして並んでいる。
 ご本人も言っていたけれど、客席と舞台がかなり近い。これだけ少人数で、これだけ近いところで、市村正親の演技と歌とダンスを堪能できるなんて、もの凄く贅沢なことだと思う。
 これまたご本人が登場直後に言っていたけれど、一人芝居でもなく、ソロ・コンサートでもなく、ワン・アクターズ・ショウ。色々と名前を考えるものだ。
 見終わっての感想としては一人ミュージカル、という感じだ。

 千秋楽と21日昼公演は売り切れていたけれど、その他はチケットがまだあるそうだ。詳しくはサントリーホールまで。
 小学校か中学校の音楽の授業でペール・ギュントを聞いた覚えのある方、シャンソンが好きな方、市村正親ファンの方などなど、お勧めである。

 ネタばれありの感想は以下に。

 かなりしっかりしたパンフレットが配布されたことにまず驚いた。
 登場人物、キャスト、劇中使用曲、ミュージシャンの紹介はもちろんのこと、市村正親について、イプセンとペール・ギュントについて、劇中で使われるシャンソンを歌うアズナブールについて、劇中で使われる歌について、グリーグの「ペール・ギュント組曲」についてなどなどの解説が載っている。

 このパンフレットで初めて知ったこともたくさんあった。主なものだけでも、これだけある。
・ペール・ギュントを書いたのはイプセンだということ
・アズナブールというシャンソン歌手がいること
・組曲というのは劇音楽やバレエ音楽をコンサートで取り上げられるように聴きどころを集めたものであるということ
 最初と最後の項目については、どう考えても音楽の授業で聞いたと思うのだけれど、全く覚えがない。面目ない。

 舞台は、ペール・ギュント20歳から70歳までを市村正親が演じ、歌い、踊ってゆく。
 とは言うものの、2幕の前半では、ペール・ギュントはずっと20歳のままだ。ソルヴェイグに一目惚れしたのに金持ちのイングリッドと結婚し、結婚生活が破綻して森の魔女の誘惑に引っかかり、命からがら逃げ出して森の中に小屋を造って住み始めたらソルヴェイグが訪ねてくる。でも、森の魔女の手が伸びていることを知って、「回り道」をするために国を出ようと決め、母に挨拶に行ったところ母は死んでしまう。
 見ながら、「ペール・ギュントってこういう物語だったのか・・・」と思っていた。
 音楽に聞き覚えはあっても、ストーリーなんて全く頭に残っていなかった。
 よく考えてみたら、そもそもペール・ギュントが人名だということも知らなかったような気がしてくる。

 市村正親は、基本的には「ペール・ギュント」として演じ、歌い、踊っている。でも、要所要所で、母も演じ、ソルヴェイグも演じ、森の魔女も演じる。会話もするし、ダンスもする。演じるだけでなくときには歌ってしまう。
 八面六臂の大活躍というのはこういうことをいうのではないか、という感じである。
 そして、20歳のペール・ギュントと、ペール・ギュントを語っている70歳のペール・ギュントと、70歳のペール・ギュントに話を聞いている役者と、3人違う人物が語っていることが明らかに判る。

 後半、何故か一気に30年後に飛び、華やかに金儲けしたペール・ギュントが全財産を失うところから始まる。
 奴隷貿易と宗教の輸出で儲けたというペール・ギュントの出世話はシャンソンには相応しくなかったのかもしれない。
 あるいは、アニトラの踊りをたっぷりと魅せたかったのかもしれない。

 そして、さらに20年がたち、ペール・ギュントは故郷に帰る。
 我が家の一歩手前で「自分自身であったのか」「自分を殺す」という謎をかけられ、解けなければボタンにしてしまうぞと言われる。
 ペール・ギュントを50年待ち続けていたソルヴェイグは「それは簡単な謎だ」と言って、ペール・ギュントを暖かく迎える。「帰ってきてくれたから、私の一生は詩(うた)になった」と言う。

 何故だ! 何故50年も待ち続け、帰ってこないかもしれない人間を待ち続け、帰って来たときに愚痴や怒りの一言も言わずに迎え入れることができるんだ! それってあまりにもペール・ギュントに都合の良すぎる結末なんじゃないのか!
 私が一人心の中で怒っている間に、ペール・ギュントは「自分を殺す」ということの意味がわかったのかどうか判らないまま、でも自分の一生が母とソルヴェイグの愛に包まれていたことに感謝しつつ死んでいく。
 
 しつこいようだけれど、ペール・ギュントってこういう物語だったのね、と思った。
 そして、ペール・ギュントの物語をこんなに楽しく豊かに一人芝居で魅せることができるのは、市村正親のテクニックと楽しもうという気持ちあってこそなんだろうな、と思った。

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