「吉原御免状」を見る
いのうえ歌舞伎「吉原御免状」
原作 隆慶一郎
脚色 中島かずき
演出 いのうえひでのり
出演 堤真一/松雪泰子/古田新太/京野ことみ/梶原善
橋本じゅん/高田聖子/粟根まこと/藤村俊二 他
観劇日 2005年9月23日 午後6時開演
劇場 青山劇場 F列4番
料金 10500円
上演時間 3時間(20分の休憩あり)
この秋にぜひとも見たかった2本のうちの1本である。隆慶一郎の原作も、その続編である「かくれ里苦界行」も読み込んで準備万端で見に行った。
面白かったし、蘊蓄を語りたい人にはたまらない素材だろうし、私は蘊蓄を語れないけど聞くのは大好きである。劇場を出る瞬間までパンフレットの購入を悩んだけれど、2700円は高い。断念した。写真はなくていいから、紙も悪くていいから、蘊蓄を語った部分だけ抜き出した廉価版のパンフレットがあればいいのに。
ネタばれありの感想は以下に。
原作をかなり読み込んで行ったので、その分楽しめたところと、「ここはこうしたのか」というお芝居自体の楽しみ以外のところに目と気持ちが行ってしまうところと、善し悪しだった気がする。
でも、原作ものをやろうと、笑いのシーンがなかろうと(実際はかなりあったような気がする)、やっぱり「いのうえ歌舞伎」だったし、誰が何と言おうと「いのうえ歌舞伎」は楽しい。
前半は、実は「原作のあそこは切り捨てたのね」とか「こういう風に見せたのね」というところに頭が行ってしまい、原作とお芝居がごっちゃになって、ふと気がつくとどこからどこまでが舞台上で見たことで、どこから先は原作と私の頭が勝手に作り出したシーンなのか判らなくなってしまったところがあった。
でも、後半に入ると、そんなことも忘れてしまうほどスピード感溢れる畳みかけるような展開で、すっかり「いのうえ歌舞伎の吉原御免状」にはまってしまった。
本当に息もつかせぬ展開で、我に返ると息を詰めていたことに気がついて大きく呼吸してしまったりした(笑)。
原作の世界を見事に3時間の舞台上に立ち上げている、という感じだった。
逆に「原作をこう解釈したんだな」と思ったところもいくつかあって、例えば、誠一郎がおばばさまに夢を見させられているとき、そこには「勝山太夫」の姿は出てきても「高尾太夫」の姿は出てこない。そして、去っていくおばばさまを見送りに来た高尾が「自分の姿は誠一郎の夢の中にはなかった」と嘆く。そういうシーンは原作にはない。
より「誠一郎と勝山」のつながりを強く見せたかったのだな、と思った。
それから、義仙と誠一郎が戦い、原作では義仙の左腕を誠一郎が斬り落とすのだけれど、舞台では(恐らく)義仙の死を暗示させている。これが原作どおりであれば、続編の舞台化も期待してしまったな、と思う。
舞台装置の、吉原の赤い格子と回り舞台がとても効果的に使われていたと思う。
これだけくるくる回して、役者さんたちの駆け回って、それでも違和感がないのは芝居の展開が早いからだろう。
確か40代に入っている堤真一が25歳の松永誠一郎になりきって、何の不自然さもない。
古田新太は本当に楽しそうに悪役を演じている。凄い形相でずっと怒り狂っているか人を斬っているかの役なのに、何故か楽しんでいることが伝わってくる。
京野ことみも高田聖子も背中がもの凄く綺麗で、艶っぽい。おまけに思い切りが良い。そして、実は肌をほとんど見せなかった松雪泰子が一番艶っぽい印象なのが不思議である。
藤村俊二のとぼけっぷりは見事だし(村木よし子の役名を間違えたのは、その応答も含めて台本通りなんじゃないかという気がした)、梶原善は相変わらずけれん味たっぷりだ。新感線の公演だったら梶原善が演じた役どころを演っていただろう橋本じゅんが渋く地味な男を演じていたのも印象的。
色々と書きたいことも書きたい役者さんもいるのだけれど、原作の世界と、いのうえ歌舞伎という枠と、舞台装置と、吉原やくぐつという設定と、出演者と、豪華な衣装と、ありとあらゆることが幸福に出会った舞台だったと思う。
かなり前の方の席から斜めに見ていたので、役者さんの表情や体(しつこいようだけど女優二人の背中は本当に綺麗だったし、堤さんのふくらはぎの筋肉には目が釘付けになった)もよく見えた。
でも、後方の中央から舞台奥を見通せる位置でももう1回見られたら言うことないと思う。終演後にその位置から舞台を振り返ったら、もう終演の舞台だというのに息を呑むくらい綺麗だった。
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