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2005.09.04

「ドレッサー」を見る

「ドレッサー」
作 ロナルド・ハーウッド
訳 松岡和子
演出 鈴木勝秀
出演 平幹二朗/松田美由紀/久世星佳/勝野雅奈恵/西村雅彦 他
観劇日 2005年9月3日 午後7時開演
劇場 パルコ劇場 X列22番
料金 7500円
上演時間 2時間45分(15分の休憩あり)

 開演直前、後ろを振り返ったら特に後方に空席が目立った。勿体ない。

 ネタばれありの感想は以下に。

 幕はなく、最初から舞台セットが見えている。廊下と平幹二朗演じる座長の控室とを区別するために段差が設けられており、控室が少し高いかと思ったのだけれど、お芝居が始まってしまえばほとんど気にならなかった。
 床が黒いせいか、全体的に暗い印象の舞台セット。控室の壁はなく、ドアだけが何もない空間に立っている。客席からは部屋のドアをノックしたのが誰か見えるようになっている。

 dresserを英和辞典で引いたら、「着付けをする人」「衣装方」という意味だったけれど、このお芝居のdresserである西村雅彦演じるノーマンは「付き人」というイメージである。
 そのノーマンが一人舞台に立ち、松田美由紀演じる座長夫人に向かって、座長がどんなに具合が悪そうだったか、どうやって病院に連れて行ったかを語るところから始まる。
 この台詞が早くて聞き取りにくい。「緊急事態発生」と「座長がいなければ芝居が始まらない」こと、ノーマンという人物像が伝わってくればいいシーンなのかもしれない。
 その早口で翻訳調の台詞を聞きながら「昨日見たエドモンドというお芝居に何となく似ている」と思った。

 「Show must go on」と思っているのはどうもノーマンだけのようで、座長夫人は「座長の精神はずたずただ。これ以上の公演は無理だ」と思っているようだし、久世星佳演じる舞台監督も安全策を取りたがる(当然だ)。
 本人の座長は、「もうだめだ」というあっちの世界と「私がやらなくてはいけないんだ」というこっちの世界とを行ったり来たりしている。

 ノーマンが自分も気付けに強そうなお酒をかっくらいつつ座長をなだめすかし、メイクさせて衣装をつけさせ、空襲警報に怯む座長を何とか舞台に出る気にさせて、やっと幕が開く、というところまでで一幕が終わる。

 二幕は「リア王」の舞台の開始と同時に始まる。
 出番が一段落して楽屋に戻った座長に、夫人や勝野雅奈恵演じる新人女優が(最初は池田有希子が演じているのかと思った)自分の思いを訴える。「もう舞台に立たないでくれ」だったり「自分を舞台に出してくれ」だったり。一方、座長は自ら舞台監督を呼び、まるで遺言のような感謝の言葉を伝えたりする。
 そうして追いつめられる座長を、ノーマンが守ろうとしているのか、それとも「ざまをみろ」と思っているのか、よく判らなかった。もしかして、その二つの感情の間を揺れていたのかもしれない。

 最後のカーテンコールでしゃべる内容までノーマンのプロンプなしにはこなせず、それでも万雷の拍手のうちに幕が下りる。
 終演後の控室に役者たちがやっぱり押しかけ、座長はノーマンに「自分がいなくなったらどうするんだ」と話しかける。ノーマンはもちろん相手にしない。座長がいなくなったときのことなど考えて見たこともないようだ。
 だからこそ、ノーマンだけが誰よりも「座長が公演に出ること」に固執していたのかもしれない。

 そして、(実は私にとってはかなり意外だったのだけれど)座長が死に、舞台監督のマッジが悲しみに沈みながらもてきぱきと処理しようとし、座長夫人が「リア王のマントを遺体にかけてやってくれ」と願うのとは対照的に、ノーマンは悲しみも座長への敬意も見せず、ただこれからの自分を想像できずに混乱するのだ。

 結局のところ、名優である座長が浴びたスポットライトの一番濃い影に沈んでいたのがノーマンだったということなんだろう。
 ところで、ノーマンは座長の愛人だったんだろうか(もちろん両者とも男性である、念のため)。そこのところが今ひとつよく判らなかった。この場合「もしかしたらそうかも」と思わせなくても良かったような気がする。
 夫人を始めとする女性陣と座長との間よりも、ドレッサーと座長に複雑な感情と関係があったように見えたことだけは確かだからだ。

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