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「ブラウニング・バージョン」自転車キンクリートSTORE ラティガンまつり#2
作 テレンス・ラティガン
訳・演出 鈴木裕美
出演 浅野和之/内田春菊/今井朋彦
岡田正/池上リョヲマ/一戸奈未/佐藤祐基
観劇日 2005年10月29日 午後2時開演
劇場 俳優座劇場 3列14番
料金 5000円
上演時間 1時間55分
明日が千秋楽で土曜の昼公演なのに空席が目立った。勿体ない! と思う。
パンフレット(500円)も思わず買ってしまったくらいなのに。
その他に、演出の鈴木裕美が翻訳した戯曲が載っている「せりふの時代(1000円)」も販売していた。
ネタばれありの感想は以下に。
今日、見に行く前に鈴木裕美のラティガンまつり日記というブログを見つけて読んでみた。
見に行く前に読んで良かったと思う。
「ヒムラー」という人が会話中に出てきて、それが浅野和之演じるクロッカーハリスに大きな打撃を与えることになるのだけれど、歴史に疎い私には「ヒムラーに喩えられる」ということがどういうことなのか、ブログを読んでいなかったら判らなかったと思う。
パンフレットにも「用語解説」として載っているけれど、私はパンフレットは上演後に購入することが多いし。
非常に偏屈な(と言っていいと思う)教師であるクロッカーハリスが明日でその学校を去るという日の数時間を切り取った舞台である。
彼は自分が「いい教師」ではなかったこと、「生徒に好かれる教師」「人望の厚い教師」ではなかったことを知っていて、でもそれは大したことではないと毎日自分に言い聞かせているように見える。
ラスト近くで明らかにされるのだけれど、内田春菊演じる彼の妻ミリーは彼の同僚教師との浮気を繰り返し、それを逐一彼に報告している。日頃の言動もとても冷たい。
内田春菊の独特の声とイントネーションがその「冷たさ」を際だたせている。
ギリシャ語の進級が危ない生徒、年金を支給しないという理事会の決定と明日の挨拶を同僚の若手教師の前にしてくれと両方ともクロッカーハリスの誇りを傷つける依頼を持ってくる校長、妻の浮気相手である今井朋彦演じる同僚教師ハンカー、自分の後任を務める若手教師、入れ替わり立ち替わり人が訪れ、そのことで話が進んで行く。
話が俄然動き出すのは、クロッカーハリスの後任教師が来てからだ。
彼自身はとても誠実な人柄に見受けられるのだけれど(そして彼の妻の邪気と悪気のない言動とのギャップが激しく感じられるのだけれど)、その彼がついうっかり「校長が、クロッカーハリス先生のことを5年下級のヒムラーだ」と口を滑らすのだ。
この一言は、校長のひどい仕打ちにも「判ります」と紳士的に対応しようと努めていた彼に、激しいショックをもたらす。彼曰く「好かれていないことは知っていたが、嫌われていたことが今判った」ということだ。
補習に来ていた生徒が、クロッカーハリスが「若い頃にアガメムノンを韻を踏んで訳したことがある」と話したのを聞き、ブラウニングという人が韻を踏んで訳したアガメムノン(これが、タイトルにもなっている「ブラウニング・バージョン」だ)の本を持って別れの挨拶に来る。
その扉には、献辞として彼への感謝とはなむけの言葉が書かれている。
「ヒムラー」の話を聞いた直後だったせいもあるのだろう。これまで全く感情の動きを見せなかった彼が泣き崩れる。
ここで幕が下りれば、「いい話だ」で終わることができる。
ところが、彼の妻が「あの生徒は自分が帰ってきたとき、あなたの物まねをしていた。」と言い放つのだ。それが事実なだけにタチが悪い。
さらに「そうすることで修了できるようにごまをすったんだろう」とまで言う。
クロッカーハリスはここでとうとう自室にこもってしまう。
この一連のやりとりを見て、ハンカーが怒り出す。今すぐ発言を取り消し、クロッカーハリスの様子を見てくるように言う。
でも、ミリーは従おうとしない。彼女は自分が一番不幸で同情に値すると思っているからだ。
そしてハンカーはミリーに別れを告げる。元々切り捨てるつもりだったそのタイミングが多少早くなったというだけのようにも見えるけれど、でも彼の怒りだけは本物に見える。
戻ってきたクロッカーハリスにハンカーは「奥さんと別れなさい」と忠告する。
すると、クロッカーハリスはここで初めて「それはミリーとの情事を行いやすくするためか」と言い、妻と彼の浮気を知っていたことをやけに静かに明かすのだ。
実はここから先のやりとりがよく判らなかった。
やりとり自体は判るのだけれど、ハンカーがクロッカーハリスの新しい職場に訪ねる約束をするまでのなりゆきがどうしても判らない。何故だ? クロッカーハリスの何がハンカーにこれだけの変化をもたらしたのだろう?
一方の、クロッカーハリスが自分を殺そうとしている(らしい)妻との同行を拒み、明日の挨拶を最後にすることにしたと校長に告げた変化は判る気がする。
きっと、彼は生徒の献辞を信じたのだろうと思う。
そして、生徒の献辞に相応しい教師になろうと思ったのだろうと思えた。
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