「歌わせたい男たち」を見る
「歌わせたい男たち」二兎社
作・演出 永井愛
出演 戸田恵子/大谷亮介/小山萌子
中上雅巳/近藤芳正
観劇日 2005年11月3日 午後2時開演
劇場 ベニサン・ピット C列3番
料金 5000円
上演時間 1時間45分
見終わってから気がついたけれど、今日は11月3日だった。
日本国憲法発布の日に君が代斉唱をテーマにしたお芝居を観るというのは、何だかアイロニカルだ。
つい、巻頭に石坂啓と永井愛の対談が載っているパンフレット(500円)も購入してしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台は、都立高校の保健室。奥行きを出すため以外の理由があるとしか思えない、遠近が強調されたセットだ。さらに遠近というかナナメ感を強調した屋上が一部にせり出し、日の丸が下がっている。
今の都立高校で行われている、入学式や卒業式の国歌斉唱・国旗掲揚の強制(と言っていいと思う)を真っ向勝負で取り上げた舞台だ。
タイトルは「歌わせたい男たち」だけれど、歌わせたい男は、大谷亮介演じる与田校長と、中上雅巳演じる片桐教師の2人だ。小山萌子演じる養護教諭は「そういう政治的なことには興味ありません」という感じで、何となく校長に付いている、という感じだ。彼女の考え方というか姿勢は、とうとう最後までよく判らなかったけれど、日和見というのはそもそもそういうものかも知れないとも思う。
1月に着任したばかりの戸田恵子演じる音楽講師は元シャンソン歌手で、ピアノが苦手らしい。今日は卒業式だというのに、まだ早朝からピアノの練習をしている。
何故そうなのか、というところは理解できないのだけれど、国歌斉唱の際にピアノの生伴奏が付くか付かないかは、校長の出世と教育委員会の指導にとって重要なチェックポイントらしい。
こういう「冷静になって考えてみればあまりにも馬鹿馬鹿しいことが行われている現実」をこれでもかと見せて行く。
お芝居を見ながら、ここで笑っている客席が普通だよなぁ、でもきっと現場の高校では笑うことはできないんだろうなぁ、そのおかしさを私は今ここで見ているんだなぁ、と思っていた。
「国歌斉唱の際には不起立を貫く」と宣言している、近藤芳正演じる拝島教師が出てきてから、物語は俄然動き出す。校長は言葉と脅しの限りを尽くして立つよう歌うように迫る。
若手と見える片桐教師が、心の底から何の疑問もなくその校長に追随しているのが怖い。
そして、校長が以前は「内心の自由」ということを大切に、生徒たちに正しく伝えようとしていたことが明かされる。
そのことがビラによって生徒たちに明らかになってしまったとき、校長は屋上で大演説をぶつ。内心の自由は外に表したらそれは内心の自由ではなくなるのだと。
はっきり言って、そんなのおかしい。こうやって見せられるとそのことははっきり判るのに、でも地裁判決や高裁判決がその立場に立っているという。
この校長を変節させたものの恐ろしさと、片桐教師の盲信の恐ろしさが迫ってくる。
でも、拝島教師が音楽講師に向かって「ここで君が代のピアノ伴奏をすれば、それは君が代を歌わせようという力の一部になることなんだ(だから、ピアノ伴奏をするべきじゃない)。」と追い込んでいくのを見るのはあまり気持ちのいいものではなかった。それも事実だ。
何となく、国歌斉唱と国旗掲揚を強制するのと同じように、それに反対することを強制しようとしているように見えた。
そういう考え方、見方もある。どうするべきか、どうしたいのか、自分で考えろ。そう言うのがフェアなんじゃないかという気がした。
ここで不起立を貫けば停職処分が待っている。
それが判っていて、拝島教師は音楽講師に「シャンソンを歌ってくれ」と言う。最初は首を横に振っていた彼女がやがて歌い出し、コンタクトを失くした彼女がピアノ伴奏に困らないようめがねをテーブルに置いて拝島教師が出ていく。
そして、幕だ。
またしても全く勝手な思いこみで、ラストシーンは音楽講師が勝手にシャンソン調にアレンジした君が代伴奏を演奏して幕だと思っていたので、明かりが消えたときには「え?」と思ってしまった。
拝島教師を憎からず思っていて、最後にはその考え方に共鳴し、リクエストされたシャンソンを彼に背を向けたままで歌い、校長の演説を体を硬くして聞いていた彼女が、果たして卒業式で君が代の伴奏をしたのか、私にはその先が想像できなかった。
このお芝居は、この先じわじわと効いてくるような気がする。
まずはこれからパンフレットを読もうと思う。
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