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2005.12.03

「アトムへの伝言」を見る

「アトムへの伝言」劇団扉座
作・演出 横内謙介
出演 六角精児/杉山良一/有馬自由/山中たかシ
    鈴木利典/岩本達郎/中原三千代/伴美奈子
    仲尾あづさ/田島幸/新原武/山口景子
    高木智之/上原健太/鈴木里沙/川西祐佳
    山下幸乃/田中信也/足立雄二/上土井敦
    江原由夏
観劇日 2005年12月3日 午後2時開演
劇場 紀伊國屋ホール D列13番
料金 4200円
上演時間 2時間10分

 開演前のロビーに横内さんがいて、私の記憶よりもかなり痩せていてびっくりしてしまった。前からあんなにスレンダーだっただろうか。
 久しぶりだったけれど、舞台の上の役者さん達はお馴染みの顔で、あっという間の2時間だった。
 えんげきのぺーじの一行レビューで「最後は大粒の涙」とあったのでタオルを手に持って見ていたのだけれど、これが正解だった。
 カーテンコールで、有馬自由が役そのものの顔と口調で「来週までやっています。チケットあります。よろしくお願いします。」と挨拶していたのが可笑しかった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 見終わって改めて思ったのだけれど、私は「アインシュタインの子ども達」をほとんど覚えていない。タイトルは絶対に聞き覚えたあるのだけれど、お芝居の内容は全くと言っていいほど記憶になかった。
 なので、ほとんど何の先入観もなしで観劇できたと思う。

 最初は、この人たちは賢そうに真面目そうに、そしてちょっとマッドサイエンティストちっくな感じで、なのになぜ「お笑い芸人ロボット」を作ろうとしているんだろう? と思った。しかも、その「お笑い芸人ロボット(劇中ではヒューマノイドと呼ばれていたけれど、長すぎるので、以下「ロボット」ということで)」は何故か河童の姿をしている。
 伴美奈子演じる研究所長代理の城東が、「お笑い芸人ロボット」の成果を確認すべく彼の芸を見た後で、至極真面目な顔で「それで、これは面白いの?」と聞くのがまた可笑しい。

 このまま素っ頓狂なSFストーリーに発展するのか、不条理な感じが深まって行くのか、ちょっと不安に思ったけど、何だかとても真っ当な方向にお話は進み始めた。
 「お笑い芸人ロボット」が「河童」になったのは、今は入院中である所長の勘違いで、「らっぱ」という名前の漫才師のようなロボットと言いたかったのだと判る。
 城東を始めとする研究員達は、お笑いのセンスのない自分たちに「お笑い芸人ロボット」が作れるのかと悩み始める。

 そして「お笑い芸人ロボット」である山中たかシ演じる「かっぱ」は、既に売れなくなって久しい六角精児演じる「ラッパ」に弟子入りする。
 研究員達も、お笑いセンスを磨くために弟子入りする。
 ところが、ヒューマノイドであるかっぱは、人を傷つけるような言動は取ることができない。そうプログラミングされている。
 その設計を直さなければ漫才はできないと言われ、研究員たちが「殺人ロボットを作った自分たちは、二度と人を傷つけるようなロボットを作ることはできない」と悩む。
 ここが最初の山場だ。研究員達の過去と思いとかっぱの立つ位置が明かされる。

 設計変更されたかっぱは、漫才の修行に励む。その姿は、いかにも「上等の人間」という感じである。
 稽古の成果を見せるシーンがあったけれども、研究員の城東さんじゃないけれど、らっぱと、彼に弟子入りしたかっぱと、彼ら2人の漫才が私にはあまり面白くなかった。多分、1回も笑えなかったような気がする。
 多分それはストーリーの流れとしては正しくて、その直後にらっぱはかっぱに「自分の芸は古い。しばらくしたら若手と組め」と言う。
 そして、らっぱの元を離れた元弟子達がらっぱに「金をよこせ」と言い、暴力をふるったとき、かっぱはセーフティがかけられた以上の力を出して、人に怪我をさせてしまう。

 こうやって私がストーリーを追ってしまうといかにも「ありがち」なまとめ方になってしまうのだけれど、お芝居を観ているときは全くそんなことは思わなくて、ただひたすらお芝居の流れを楽しんでいたように思う。

 所長である博士が「人を傷つけたロボット」に怒り、バラバラに壊してしまえ、と言う。
 そこに居合わせたらっぱが、「壊すなら、自分にやらせてくれ。地雷の漫才を本物の地雷でやりたい。そうすれば、地雷除去のチャリティにそっぽを向いた人たちにも何かを残せるはずだ」と言う。
 かっぱも「自分が研究所員達を笑わせている夢を見た。ぜひやりたい」と懇願する。

 そして、ラストシーンは、かっぱが地雷を踏み、爆発させたところで終わる。
 地雷を踏んだ「カチッ」という音は響かせたけれど、らっぱの持ちネタである「ちいとも痛くなーい」という台詞をかっぱが言い終わり、地雷が爆発した瞬間、何の音もなく明かりもなく、照明がすっと消えて幕である。

 多分、たくさん考えなくてはいけないことのあるお芝居なのだけれど、今のところ私には「何を考えるべきなのか」がよく判っていないように思う。
 今一番気になっているのは、「今日は笑うために来ました」と白衣ではなく私服でかっぱの最初で最後の舞台を見に来た研究員達がかっぱの芸に笑ったのかどうかということと、かっぱを失った研究員達がこの後どうしたのか、ということである。

 蛇足ながら、もうひとつ。
 これは劇中で語られるのだけれど、「鉄腕アトム」の最終回、アトムは人々を救うために爆弾を抱えて太陽に突っ込んで行ったのだそうだ。
 かっぱのこの最後の芸をアトムになぞらえたのは少し違うんじゃないかという気がするけれど、それを劇中で言ったのがテレビ局のディレクターだということを考えると「少し違う」のが正しい気もする。
 ところで、私が気になっているのは、このお芝居のタイトルがどうして「アトムへの伝言」なのかという点だ。どちらかというと「アトムからの伝言」の方がすっきりするのだけれど。

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