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「贋作・罪と罰」NODA・MAP
作・演出・出演 野田秀樹
出演 松たか子/古田新太/段田安則/宇梶剛士
美波/マギー/右近健一/小松和重/
村岡希美/中村まこと/進藤健太郎
観劇日 2006年1月6日 午後7時開演
劇場 シアターコクーン XA列14番
料金 9000円
上演時間 2時間10分
開演前にパンフレット(1000円)を購入し、ぱらぱらとめくりながら開演を待った。
2回目の観劇だったのだけれど、1回目は通常の客席側の割と遠めのところから、今回は通常は舞台であるところにしつらえられた客席で、舞台上の役者さんと視線の高さがほぼ同じところからだった。
それだけでも、かなり印象が違う。
ネタバレありの感想は以下に。
今回は舞台上にしつらえられた客席側からの観劇。前回は通常の客席から見ていたので、裏と表(笑)の両方を見たことになる。
客席側から見たときは後方の席だったのだけれど、台詞が聞き取れないということは全くと言っていいくらいなかったけれど、今回は前から3列目(中央部分だったので実質的には前から2列目、しかも前の席は空いていた)にもかかわらず、時々聞き取りにくい台詞があった。劇場というのは客席側に声が通るようにできているのだな、ということを実感した。
でも、お芝居を楽しむ上ではほとんど支障はなかったように思う。
見下ろすように全景を見ていた前回とは違って、今回は役者さん達が近い。顔の表情も汗までもばっちり見える。宇梶さんのメイクも細かいところまで見えてちょっと引いてしまう。
その近さで目の前(舞台の回りに作られたスロープや階段)を歩かれてしまったらたまらない。今回も松たか子演じる英(はなぶさ)についつい目が吸い寄せられ、彼女の物語として見ることになった。
パンフレットに古田新太が「才谷は笑わない英を笑わせようと思っている」という意味のことを書いていて、なるほどと思った。多分それは「笑かしてやろう」というのではなくて「彼女の笑顔が見たい」という意味だと思う。
そう言われてみると、英は、段田安則演じる都に追い詰められて狂ったように笑うシーン以外、笑うことがない。常に眦をキッとさせた顔をしている。そして切り口上でしゃべる。
また、これもパンフレットに右近健一が書いていたのだけれど、「このお芝居には権力に殺された人は一人も出てこない」。またしても、言われてみればその通りだ。
野田秀樹演じるおみつと村岡希美演じるおつばを殺したのは英だし、宇梶剛士演じる溜水は自殺だ。古田新太演じる才谷(坂本竜馬)を殺したのは英の父である中村まこと演じる聞太だし、その聞太は溜水の策謀で「ええじゃないか」の連中から死ぬか坂本竜馬を殺すかの二者択一を迫られている。
そうなると、このお芝居は「権力」を描いたものではないのかも知れない。
「徳川幕府滅亡」とか「大政奉還」とかは、権力の側が変わったことの象徴だけれど、そうではなく、その権力の側が変わる際の混乱に乗じた無名の人々の集団の方を「恐ろしいもの」と考えているのかも知れない。己を持たないことの恐ろしさを知れ、みたいな。
でも、明らかに確固とした己を持っている英も「人を殺した側」の人間である。
何だか、混乱してしまう。
そもそもスッキリ割り切れるようなことではないのかも知れない。
そうなると判りやすく示されるラストシーンの「英の才谷への想い」が印象に強く残る。
実は、自分が手紙を書き、開いた扉の向こうにいることを待ち望んでいる才谷を殺したのは、自分の父親である。それを英は知らない。自分の父親をそこまで追い込んだのは何なのか、多分、英は知らない。
雪景色の中に立つ英は綺麗だけれど、でもその立っている場所はとても皮肉なところだ。
それが、何だかいっそう切なかった。
本当に舞台近くの席だったので、才谷がどこかへ向かうために舞台の周りのスロープを歩くシーンで、古田さんと完璧に目が合っているという錯覚を覚えた。怖いくらいの目で見据えられて、いたたまれなくなって視線を外してしまった。
おみつを演じていたときの野田さんとも目が合ってしまい(という錯覚を覚えてしまい)、そのあまりにも恨みがましい視線が怖くなって、やっぱり視線を外してしまった。
本当は負けずに視線を返したかったのだけれど、でもこれが舞台だ、と思う。
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