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「あしたのニュース」ラッパ屋
作・演出 鈴木聡
出演 おかやまはじめ/木村靖司/福本伸一/弘中麻紀
三鴨絵里子/岩橋道子/大草理乙子/熊川隆一
宇納侑玖/岩本淳/武藤直樹/中野順一朗/ジュリ
観劇日 2006年1月28日 午後2時開演
劇場 シアタートップス K列8番
料金 4500円
上演時間 2時間
まだ2006年は始まったばかりだけれど、でも今年のベストテンに入りそうな予感がする、そんなお芝居だった。
ネタバレありの感想は以下に。
「あしたのニュース」は、鳥手(とりで)市の街のお豆腐屋さんが舞台である。
道を挟んで反対側に地方新聞社があり、豆腐屋は何故か昔から新聞記者達の打ち上げ会場として使われている。
その舞台をまずトップスのあのスペースに作り上げ、それほど狭苦しく見せないのがまず凄いと思う(かといって、流石に奥行き感があるわけではない)。新聞社の窓やドアに映る社内にいる記者達の姿も見せているのだ。
熟年離婚をテーマに取り上げようとしていたら、その豆腐屋の主人夫婦が熟年離婚の危機を迎える。そこから物語が始まる。
木村靖司演じる新聞社の顧問を務める人物が、市長などなどと結託して、ビール工場誘致のために新聞を使って「エコ・キャンペーン」を盛り上げようとしている。こいつがまた、一見いい人風なのに凄い嫌な奴なのである。
「熟年離婚も辞さず」とエコ・キャンペーンに取り組もうと考えた大草理乙子演じる豆腐屋夫人が新聞に載り、彼女は一気にエコ・キャンペーンを推進する婦人部のリーダーに押し上げられる。
豆腐屋主人は、「豆腐屋の女将さん」は休業して婦人部のリーダーとなって活躍し、どんどんお洒落になって行く奥さんに置いてけぼりを喰った気分を味わっている。
福本伸一演じる新聞記者は、同じく新聞記者である彼女に自分が記者として負けていると、やはり焦っている。おかげで彼女との間も上手く行っていないようだ。
この2人の焦りが、本当にたまたま夕立の雨の音と蛙の鳴き声に背中を押されてしまい、「綺麗な水にしか住めない蛙が市内の川に帰ってきた」という記事をねつ造することになるのだ。
実は、その蛙は、三鴨絵里子演じる豆腐屋の長女がたまたま職場の動物園から持ち帰ってきていたものだった。
そうやって手に入れた「お手柄」は、けれども逆に重荷になっていく。2人は順番に良心の呵責に苦しめられる。どちらかがしゃべってしまいたくなると、どちらかが必死で止める。今この「支え」を失ったら自分はまた「だめな奴」に戻ってしまうと言って、黙っているように懇願する。
この辺の、ある意味で「情けない」ところが、豆腐屋主人のおかやまはじめと¥福本伸一でやりとりされると、怒りが沸いたり、「なんて情けない奴らなんだ」と思うよりも、「そういうところから抜け出せないことってあるよね」と妙に共感してしまう。
そして、川で「本当に」蛙が発見される。
この頃、実は豆腐屋夫人は婦人部内の派閥争いで汲々として事情に絡め取られ、新聞記者の彼女は任されたキャンペーン記事を盛り上げることができずに落ち込んでいる。
もうこの辺になると、お芝居の世界にどっぷりと浸かってしまって、友人から「実はこんなことがあってね」という話を聞いているような気分になってくる。
もうほとんどビール工場誘致が決まったと思われる夜、「本当に」発見された筈の蛙たちが、実は豆腐屋の長女が動物園で飼っていた動物たちを川に放していたのだと判明する。
市長が動物園長を予算増加で釣り、園長が彼女を「クーラーと大きな水槽」で釣って、工作させていたのだ。
さらに「街の自慢」でありビール工場誘致の絶対条件である地下水が出なくなったことで、豆腐屋主人の緊張が切れ、記事ねつ造のことをしゃべってしまう。
結局、「環境が良くなっている」という彼らの新聞記事は全てがねつ造とやらせだったのだ。
その事実を書くかどうか葛藤する新聞記者達のやりとり、「絶対に書くな。そんなことをしたらこの街で暮らせなくなるぞ」と脅す新聞社顧問とのやりとりは、本当に緊張した。
トップスという劇場全体が固唾を呑んで舞台上に全神経を集中させている感じがした。
舞台上の緊張感とは別に、「こういう瞬間の客席にいられて本当に良かった」と思えた。何だかもの凄いところに居合わせている気がした。
そして、新聞記者達は書くことを選ぶ。
豆腐屋主人は記者である娘のインタビューに答え、その新聞が配達されるのをじっと座って待つ。
水が出なくなったことで大規模に進めていた豆腐工場のリーダーから外されてしまった豆腐屋夫人は、豆腐屋の女将さんに戻ってくる。その白い三角巾とエプロンが眩しい。
そして、晴れ晴れとした新聞記者達が三々五々帰って行き、娘は父に新聞を届け、そして幕である。
本当に楽しかったし集中したし入り込んじゃった気がしたし、いいお芝居だった。
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