「時の男」を見る
リリパットアーミーII 「時の男」〜匂うがごとく今盛りなり
作・演出・出演 わかぎゑふ
出演 生田朗子/及川直紀/朝深大介/野田晋市
千田訓子/吉田憲章/上田宏/米倉啓
谷川未佳/濱崎大介/祖父江伸如/上田宏
橋本陽介/よしもとあさり (以上、リリパットアーミーⅡ)
橋田雄一郎(転球劇場)/中道裕子(らくーがき)
朝比奈慶/高倉良文(ネコ脱出) /森崎正弘(MousePiece‐ree)
岡田朋也(KURUKURU ON PARADE)
笠原浩夫(Studio Life)※東京公演のみ
観劇日 2006年1月15日 午後2時開演(千秋楽)
劇場 サンシャイン劇場 1階18列4番
料金 4300円
上演時間 2時間45分
リリパットアーミーIIのお芝居は、久しぶりに見た。しかも、次に東京に来るのは来年のことらしい。
カーテンコールでのわかぎさんの挨拶によると、大阪に劇場が少ないので、東京と合わせて劇場を確保することが難しいからなのだそうだ。残念。大阪公演だけのお芝居が2回あるから、友人も住んでいることだし、大阪まで見に行ってしまおうか、と考えた。
上演中にわかぎさんが「35歳以上の役者のアドリブが千秋楽の芝居を長引かせるんじゃ!」と叫んでいたとおり、開演前に「2時間15分」とアナウンスされていた上演時間は30分延びていた。
パンフレット(1500円)を買うと役者さんのサインをもらえるのはいつものとおり。今日はわかぎさんと生田さんでかなり惹かれたけれど、午後6時から別のお芝居を見る予定だったので泣く泣く諦めた。サインを諦めたので、ついでにパンフレットも諦めて買わずじまい。リリパットアーミーIIのパンフレットは内容が濃くて好きなのだけれど、今回はつい「1500円は高い」と思ってしまった。
もう全く問題はないと思うけれど、ネタバレありの感想は以下に。
開演前のロビーで、扮装を(実は途中まで)した赤麿を演じる野田晋市と青麿を演じる朝深大介がパンフレットを精力的に販売していた。
その扮装を見てうっかり「今回は中華ものね」と思ってしまったのだけれど、今回はリリパットアーミーII初の時代劇だ。昨年の大河ドラマに肖ったわけではないと思われるけれど、時代背景は鎌倉時代。頼朝も義経も北条政子も出てくる。武蔵坊弁慶が出て来ないのは、コング桑田がレ・ミゼラブルに出演中だからだろうか。
もちろんストレートに「義経伝説」が語られるわけではなく、主役は谷川未佳演じる「鼻が利く」という特技を持つ陰陽師のタマゴ(の振りをしている後白河院直属の陰陽師)キリタと、千田訓子と朝比奈慶が二人一役で演じる茜子姫だ。
そういえば及川直紀演じる源頼朝が劇中でしょっちゅう「自分が主役だ」と叫んでいたけれど、私の中では若い2人が主役である。
茜子姫がどうして二人一役なのかと言えば、彼女はキリタに言わせると「もの凄く良い匂い」がするお姫様なのだけれど、見た目が今ひとつ。でもその彼女がキリタの薫香を口に含むと誰もが認める美形の姫に姿形が変わる、という設定だからだ。
どうして彼女が「美形」になる必要があるのかと言えば、源義朝の愛妾だった絶世の美女が義朝の死後、平家の男に見初められてその愛妾となり、そこに生まれたのが茜子姫。この状況で姫が美人でなければ劇的ではない、劇的でなければ自分が天下を取ることなどあり得ない、と頼朝が信じているからだ。
この狂信がまた事実なもので始末が悪い。
史実で言えばこの「愛妾」は常磐御前ということになるのだろうけれど、劇中ではその常磐御前の妹の八重垣という設定になっている。
この八重垣が平家の愛妾に迎えられる前に再嫁した先が義朝の部下で、そこで生まれたのが義経という設定だから、多分この架空の人物を出すことで「このお芝居は絵空事ですよ」と宣言しているのだろうと思う。
しかも、この設定だと頼朝がほとんど使い捨てと言っていいような冷たい仕打ちを義経にした理由がよく判る。
私がストーリーを説明してしまうとややこしいのだけれど、赤麿と青麿がゆるーく出てきて登場人物紹介をしたり、時代背景を語ったりする。頼朝も作戦を説明しつつ家系図などなども出してきて客席に向かって説明してくれる。
恐らくこのゆるーい説明が上演時間を延ばしたものと思われるけれど、それはそれで楽しい。でも、本当にゆるすぎて、時々台詞が聞こえないのは閉口してしまった。
荒唐無稽なのだけれどありそうで、キリタと茜子の心の交流も微笑ましくて、どこか素っ頓狂そうな北条政子が時の権力を握っていくそのきっかけまで説明されてしまう。
説明と言えば、義経の部下たちが自分の主人について陰でこっそりと「どうしてそんなに妹想いかね」と突っ込んでいたのも可笑しかった。恐らく、2005年の大河ドラマ「義経」を見ていた誰もが心の中で突っ込んでいただろうことを劇中で堂々と突っ込むのが可笑しすぎる。
その上、歌もあり踊りもあり殺陣も派手でとにかく楽しいお芝居だった。
だから、千秋楽だというのに空席が目立つ客席が勿体なかった。
リリパットアーミーIIのお芝居はぎゅっと詰まった感じが好きなので、もう少し舞台も客席も小さい劇場で、できれば「千秋楽バージョン」じゃない、ストレートに飛ばすバージョンも見てみたかったと思う。
とは言うものの、赤麿と青麿がしきりと「パンフレットが300部売れ残っている。そうすると打ち上げができない。」「大阪公演の粟根まことバージョンは300部売れ残った。粟根くんが笠原浩夫に変わって今度は売り切れるだろうと思っていたのに、東京公演でもあと300部売れ残っている。このままだと新幹線で帰れない。」なんていう愚痴ともつかぬおしゃべりに笑ってしまったのだけれど。
そのStudio Lifeの笠原浩夫はえらく爽やかに悪役を演じていた。
カーテンコールでわかぎゑふが「大阪締めで」と客席に説明しているのを聞きつつ、両脇に並んでいた役者に大阪締めを再度説明してもらい練習もしそうな勢いだったところも含めて、「気のいいお兄ちゃん」というイメージだったのだけれど、渡されたStudio Lifeのチラシを見たら、全く違うイメージの写真が載っていて驚いた。同一人物なのか?
噂には聞いたことがあるけれどまだ見たことがないStudio Lifeのお芝居をちょっと見てみたいと思った。
で、匂うがごとく今盛りなりと言われる「時の男」はいったい誰だったのだろう。
栄耀栄華を極めた後にどん底に落ちる薫香を食べさせられた頼朝か、食べさせたキリタか。
私としては、わかぎゑふが演じ、見事に散って行った平敦盛に1票を入れたい。
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