「東海道四谷怪談 南番」を見る
コクーン歌舞伎「東海道四谷怪談 南番」
演出 串田和美
出演 中村勘三郎/中村扇雀/中村橋之助/坂東弥十郎
中村七之助/片岡亀蔵/笹野高史
観劇日 2006年3月20日 午後6時30分開演
劇場 シアターコクーン P列2番
料金 13000円
上演時間 3時間35分(15分間の休憩あり)
コクーン歌舞伎の常で、この公演中に限り客席への飲食物の持ち込みがOKになり、ロビーでお弁当(ちらしずし、ローストビーフなど)や人形焼きなどが売られ、てぬぐいなどの和小物も販売されている。おかげで大混雑でまっすぐ歩けないくらいだけれど、楽しい。
買わなくていいかな、と思っていたパンフレット(1500円)を終演後に購入した。
上演時間は、私が見たこの日はこのとおり(午後6時半開演、午後10時5分終演)だったけれど、通常はもう少し短いのではないかと思う。
理由を書くと完全にネタバレになるので、感想とともに以下に。
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本当に本当にネタバレなので、30行ほど改行します。
未見の方は絶対に読まないでください。お芝居の楽しみが半減(もっとかも)してしまいます。
それから、私はほとんど歌舞伎を見たことがないので、ことばが間違っているとか、そもそも根本的な誤解をしているとか、色々あるかと思います。お気づきの方はぜひお教えください。
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<ここから感想>
休憩は1回15分間のみ、それがまず誤算だった。ロビーにも表示は出ていなかったのだ。
てっきり、新橋演舞場公演のように、25分くらいの休憩と15分くらいの休憩と、2回の休憩(歌舞伎だと幕間になるのかも)があると思っていた。
だから、一幕はその長さ(2時間20分くらい)と舞台の照明の暗さに集中力が保たず、ときどき落ちてしまった。申し訳ない。
私の「お岩さん」は、京極夏彦の「嗤う伊右衛門」で描かれたそれである。
だから、お袖と直助は兄妹だし、お岩とお梅は姉妹だし、伊藤は武士だし、小平や与茂七は知らない人だ。
お岩は凛とした厳しい美人だし、伊右衛門は筋を通す善人だ。伊右衛門との間に赤ちゃんは生まれていない。
そのつもりで見ていると頭がかなり混乱する。道具立ては一緒で、その意味づけを変えることで「嗤う伊右衛門」という世界は成立していたらしい。
全く、私の場合、順番が間違っている。
そして、一幕は、「伊右衛門とお岩の物語」というよりも、お袖やお梅、按摩の宅悦や直助などの、二人を巡る人々の話が多いような気がする。それらはもちろん二幕への伏線になっているのだけれど、エピソードが次々と語られる感じなので、特に違うストーリーを頭に思い浮かべていた私にはついていくのが大変だった。
娘のお梅と伊右衛門を結婚させようとする伊藤喜兵衛の陰謀で、お岩は血の道の薬だと偽られた毒薬を飲んでしまい、顔が崩れてしまう。さらにお梅と結婚することを決めた伊右衛門の陰謀で、宅悦と争ううちに死に、息子も巨大なネズミにかじられてしまう。
しかし、その一部始終を押し入れに押し込められて聞いていた小平とお岩は勘三郎の二役で早変わりが見事だ。
お岩の復讐はその死後すぐに始まり、婚礼の相手であるお梅とその父の伊藤は、錯乱した伊右衛門にその場で首を切られ殺される。
そして、伊右衛門はお尋ね者になる。
ここまでが一幕だ。長い。
二幕は、正直に言って、どんなストーリーだったか覚えていない。
ストーリーよりも、立ち回り、宙づり、水芸・・・、とにかく次から次へと外連味たっぷりの演出が続いて、つい身を乗り出して見とれているうちに終わってしまった、という感じが強い。
そして、それがとてもとても楽しかったのだ。この二幕の華やかさを際だたせるために一幕は地味に暗くぼそぼそと演じられていたんじゃないかと思ってしまうくらいだ。
ウナギを捕りに川に来た直助が、川から髪の毛をすくい上げ、そこにはべっ甲の櫛がからまっていた。その櫛は恐らく、お岩が身につけていたものだ。
そして、釣りに来た伊右衛門は、お岩を釣り上げる。
舞台前面に作られた池(というのか・・・)から、ざばーっと上がってくる勘三郎がどうやって水中に潜んでいたのか、今でも判らない。裏返して覆っていた川草を取り払うとそこには早変わりで(恐らく)小平の姿になった勘三郎が現れる。いつの間に? どうやって?
頭に布をまいて毛が逆立った伊右衛門が火を熾す(あれは何だったんだろう?)と、壁に作られた提灯のようなものが燃え上がり、その燃えた中からすーっと、お岩の幽霊が出てきてそのまま空中から伊右衛門を睨みつける。燃えたところから出てきて大丈夫だったのか? 本当にすーっと音もなく出てきたのが怖い。
お岩の幽霊は本当に神出鬼没で、だからこそ伊右衛門もどんどん参って行くのだと思うけれど、客席だって驚いてしまう。
平場席に切られた通路は登場や退場に頻繁に使われていたのだけれど、まさかその床から(よく見えなかったのだけれど、せり上がりのような仕組みだったんだろうか?)お岩が出てきたときには客席から悲鳴が上がった。暗い客席にスポットを浴びて浮かび上がるお岩の幽霊。それは悲鳴も上がる。
同時に、客席のあちこちで、ねずみを模した仕掛けが動いていたようだ。私が座った辺りは天井からも壁からも離れていたのでこちらもよく判らないのだけれど、ちょうどお化け屋敷のように何やらがすーっと、あるいは、シャラシャラと現れて、首筋を撫でるくらいのことはしたのではないだろうか?
一瞬にして、劇場がお化け屋敷の雰囲気に変わってしまった。
白装束の勘三郎(どの役として出てきたのか私には判らなかった・・・)と伊右衛門、直助が闘うシーンでは、闘っているというよりも、見得の切り合いをしているように見えた。格好良い。
それまで暗かった舞台の背景をすぱっと落とし、いきなり明るい川岸の景色になって、舞台全体が眩しくなったのには驚いた。
驚いたけど、意味は判らなかった。意味なんていらないのか? 格好良ければそれでいいんだ、という気もする。
伊右衛門が十手や棒を持った黒装束の男たちに取り囲まれる場面の前には、「楽屋番」の笹野高史が登場し、平場席前列にビニルシート(裏は起毛だそうだ)を配ってその使い方とタイミングを説明し、お岩さんのこぼれ話を語っていた。彼女は子年生まれだとか(だからこそ、ネズミがこのお芝居にも登場する)、四谷怪談を上演する際には必ずお参りをする、それも順番を守ってお参りしないと事故が起こる、などなどだ。
一息ついたところで、捕り物シーンだ。
黒装束の男たちは次々と伊右衛門に斬りかかり、次々と川に落ちて行く。それほど広いとも思えないあの水に、くるっと前方宙返りをして落ちて行くのはかなり怖いのではないだろうか。見ているこちらも怖い。でも、次々と落ちて行くシーンはやはり爽快で、大拍手だ。
ここで白装束の勘三郎が出てきたのだったか、もうシーンごとのつながりが定かではない。私の記憶力も本当に当てにならない。
とにかく、勘三郎(だから、この白装束は、小平なのか、与茂七なのか・・・)と伊右衛門が、前方に水があるだけの広い八百屋の舞台で、縦横無尽に斬り結ぶ。上から雪なのか水なのか、白い紙吹雪(という風にも見えなかったのだけれど、あれは何だろう)がどばーっと降ってくる。その紙吹雪を蹴散らして、さらに斬り結ぶ。
ついには二人して水に落ち、さらに斬り結ぶ。斬り結ぶというよりも、子どもの水の掛け合いのようになっていたのはご愛敬だ。平場席前列のお客さんは大変だったろう。
と、そこへ、舞台後方を駆け抜ける黒装束の男が一人。
そのときはざわっとしたかしないかという反応だった客席も、染五郎が平場席に登場したときには大拍手だ。
もちろん「中山安兵衛」と名乗っている。パルコ劇場にある高田馬場から走って来たらしい。
勘三郎に「何しに来た」と言われ、誇らかに「助太刀に参った!」と名乗りを上げていた。おかしすぎる。
「私の助太刀をおまえは断ったな。しかし、私は心が寛い。助太刀を頼む。」と勘三郎。どうやら、何日か前の「決闘! 高田馬場」に勘三郎が飛び入り出演をしていたらしい。
渋谷の劇場で歌舞伎が2本同時期に上演されている今だからこその遊び心で、客席はもちろん大喝采だ。
さらにさらに三人で斬り結ぶ。三人で水にも落ちる。さらに斬り結ぶ。
もう、この辺もどういう風に舞台が動いていたのか、もう思い出せない。とにかくおかしくて楽しくて猥雑で大拍手だったことだけを覚えている。
だから、実は、「東海道四谷怪談」のラストがどうやって終わったのか、全く記憶にない。
伊右衛門の「首が飛んでも動いてみせらあ」の決めぜりふで終わったんだったろうか。
勘三郎が演出の串田和美を呼び、「監督にも内緒でやったので、水に落ちたところで音楽を変えるつもりが、変わらなかった(そのまま、「決闘! 高田馬場」で使われているのだろう音楽が流れ続けていた)。申し訳ない。」と言っていたから、本当は違う終わり方をするつもりだったんじゃなかろうか。
通常の切れが知りたくて、買わないつもりだったパンフレットを買ってしまったのだ。
ところで、私にとって「首が飛んでも動いてみせらあ」の台詞は、「東海道四谷怪談」の伊右衛門の台詞ではなく、「阿修羅城の瞳」の出雲の台詞だ。その病葉出門を演じていた染五郎が舞台上にいたのも何だか楽しい。
あの台詞は、(恐らくは超有名な)「東海道四谷怪談」の伊右衛門の台詞をパロったものだったのか、と今日になってやっと判った。やっぱり、順番が逆である。
かぶき甲斐のない判らない観客で申し訳ない、と思ったことだった。
勘三郎が「三谷さん」と客席に呼びかけると、見に来ていた三谷幸喜が立ち上がって礼をしていた。
そこでも、またまた大拍手。
オリジナル・バージョンも見たかったという気もするけれど、何だか「これぞ歌舞伎」というものを見たという気持ちの方が強い。楽しかった。
歌舞伎がこんなに猥雑なものだったとは!
<3月26日追記>
パンフレットを読んで、東海道四谷怪談のあらすじを勉強した。
四谷怪談のお話は、仮名手本忠臣蔵の世界を背景として借りているそうだ。
お岩さんのお父さんである四谷左門も、妹のお袖の夫の佐藤与茂七も赤穂浪人だし、伊右衛門も元々は赤穂の藩士で家が没落した際に御用金を盗み、それでお岩の父は伊右衛門とお岩を引き離した、という事情だったらしい。
一方で、お梅の祖父の伊藤喜兵衛は吉良家の用人という設定なのだそうだ。
南番では上演されない場で、お袖と直助が兄妹だと判り、直助は妹を殺して自分も死ぬというシーンがあるそうだ。
お岩とお袖が姉妹だった筈なのだけれど、お岩と直助も兄妹なんだろうか? この辺りはパンフレットを読んで余計に謎が深くなってしまった。
小平の父と伊右衛門の母が夫婦だったり、小平の主人がやっぱり赤穂浪士だったり、意外とこの小平という人が活躍していたことも判った。
しかし、小平は伊右衛門に殺されてしまっており、最後に伊右衛門を追い詰める(見た感じは白装束で仇討ちしているように見えたのだけれど)のは佐藤与茂七だったのだそうだ。伊右衛門と激しく対立する3人(お岩、与茂七、小平)を一人の役者さんが演じるという演出が、この「東海道四谷怪談」を今に伝えたんだろう、ということが判った。
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