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「ハゲレット」
原作 ウィリアム・シェイクスピア
翻訳・監修 小田島雄志
脚色 鈴木聡
演出 山田和也
出演 近藤芳正/笹本玲奈/陰山泰/石田圭祐
鈴木浩介/福本伸一/木村靖司/桜井章喜
湯澤幸一郎/土屋裕一/久世星佳/ベンガル
観劇日 2006年3月18日 午後2時開演
劇場 紀伊國屋ホール R列12番
料金 6900円
上演時間 2時間20分
紀伊國屋ホールは元々客席の傾斜が緩い劇場だと思うけれど、それにしても、普通に座ると前の席の人の頭で、舞台のど真ん中が人の身長くらいの高さまでまるで見えなかった。仕方なく、とてもとても姿勢良く座ってみたのだけれど、それでも頭を左右にずらさないと舞台中央で演じられているお芝居はほとんど見えなかった。後ろの席の人には本当に申し訳なかったし、自分自身もあまりお芝居に集中できなかったのが残念だ。
開演前に、劇の半ばで劇中劇の芝居を演じる役者さんたちが、舞台上で歌ったり、パンフレット(1000円)を販売したり、席の案内を買って出たりしていて、とても楽しい雰囲気だった。
今日はテレビカメラが入っていたのだけれど、この役者さん達が舞台下に降りて口上を始めたところに、最前列のお客さんが遅れて入って来て、その口上が一時中断してしまった。流石にその様子を放映はできないと思ったのか、口上を最初からやり直していた。何だかおかしい。
終演後にホールを出たら、夜公演の当日券待ちの方が結構(でも10人はいなかったように思う)並んでいた。ポスターに「完売」と書いてあったし、人気の公演なんだろう。よく判る。
ネタバレありの感想は以下に。
開演10分前くらいにホールのお手洗いに並んでいたら、劇場から拍手や役者さんの声が聞こえてきた。
何をやっているんだろうと気になりつつ席に急いだら、旅芸人を演じる役者さんたちによってパンフレットの販売等々が行われていた。銅鑼が鳴らされて、そのままお芝居の前口上が始まる。
ハムレットなのだけれど、何だか楽しそうなハムレットだということが伝わってくる。
それを言うならそもそもタイトルの「ハゲレット」というタイトルもあんまりだ。
そして、悲劇の中の悲劇が幕を開ける。
まず、近藤芳正演じる本当に髪が薄くなったハムレットが登場する。父王の死後、すぐにベンガル演じる父の弟と結婚した久世星佳演じる母が許せないハムレットは、頭をかきむしってそうなってしまった、という設定だった。
ハムレットは原典どおりに演じると何歳なのだろう?
笹本玲奈演じるオフィーリアがことあるごとに自分を「少女」だと主張するので、実はとても若い2人なんじゃないかという気もする。
翻案に次ぐ翻案を重ねて、原型を留めないくらいに変更されたハムレットなのかと思っていたのだけれど、意外と正統的なハムレットだった。
(私が知っている範囲でということだけれど)ハムレットの筋書きが丁寧に語られてゆく。
「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」と独白したハムレットが、すぐに「大げさか」と自ら落としたり、ハムレットがかつらを被ってみたり、王の亡霊として50cmくらいの人形が登場して「しかも小さい!」と叫ばれたり、絶え間なく笑いを呼ぶシーンが続くのだけれど、でも、ハムレットなのだ。
本物のハムレットは実は颯爽としてはいなくて、こんな風にぐじぐじ悩みながら少しずつ復讐の道を進んでいたんじゃないかという気がしてくる。
ハムレットが旅芸人の一座に指示して、王の前王毒殺の場面を演じさせるシーンでは、旅芸人の芝居を見せることはせず、その場面の王の様子を窺うように指示された陰山泰演じるホレーシオの独り言で見せたのが何となく意外だった。開演前の口上で「芸達者が演じることになっています」「私たちが演じます」と言い切ったのときっと関係があるのだろう。
意外と言えば、私の中では、ラスト近くの決闘シーンで、ハムレットの母ガートルードは毒酒と知っていてそれを息子に飲ませないために煽ったのだと思いこんでいたのだけれど、実は違ったらしい。きっと他のお芝居と混同しているに違いない。ガードルードはそのシーンで、毒酒とは知らずに、息子の代わりに乾杯していた。
ハムレットが「世界の関節を治そうとしたのに」と叫ぶシーンがある。何だか変な感想なのだけれど、その台詞を聞いて「何だか野田秀樹の芝居みたいだな」と思った。野田秀樹が書いた戯曲のどこかに「世界の関節」なんていかにも出てきそうではないか。
とても楽しくて、とても正統的なハムレットを見た、という印象だ。
「子どものためのシェイクスピアシリーズ」とは全く違うけれど、でもアプローチは似ている気もする。こちらも、他のシェイクスピア作品もシリーズで上演してくれないだろうか。絶対に見に行くのに。
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