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2006.05.27

「Into the Woods」を見る

「Into the Woods」
台本 ジェイムズ・ラパイン
演出・振付 宮本亜門
作曲・作詞 スティーブン・ソンドハイム
出演 諏訪マリー/小堺一機/高畑淳子/天地総子
    シルビア・グラブ/藤本隆宏/宮本せいら/矢崎広
    広田勇二/荒井洸子/鈴木慎平/大森博史
    藤田淑子/花山佳子/鈴木純子/ニ瓶鮫一
    山田麻由/飯野めぐみ
観劇日 2006年5月27日 午後6時開演
劇場 新国立劇場中劇場 15列19番
料金 6300円
上演時間 3時間20分(20分間の休憩あり)
 
 左隣の女性2人組は終演後に開口一番「面白かったー」と言い、右隣の年配の男性は上演中いびきすら時々聞こえてきていた。
 開演前の場内アナウンスは子供向けの感じだったけれど、客席に子供の姿はあまりなく、内容も、グリム童話をベースに組み合わせているとはいえ決して子供向きではないように感じた。

 感想は以下に。

 「子供の欲しいパン屋の夫婦と魔女」を登場させることで、「シンデレラ」と「ジャックと豆の木」と「赤ずきん」をひとつのストーリーにまとめている、というか、押し込めている。新国立劇場で配られる「stage note」によると「ラプンツェル」という話も入っているそうで、確かに「ラプンツェル」という女の子が登場するのだけれど、私はこの話を知らなかった。アメリカでは有名な話なんだろうか。
 こうしてしっちゃかめっちゃかにつないだ話を進めるためにナレーターが登場し、丁寧に狂言回しを務める。

 パン屋の主人の父親が、諏訪マリー演じる隣家の魔女の畑を荒らして豆を盗んだことから、魔女は「おまえの息子に子供はできない」という呪いをかける。
 その呪いを解くには、白い牛と赤いずきん、黄色い髪と金色の靴が3日以内に必要だと言われ、小堺一機と高泉淳子演じるパン屋の夫婦は森に入る。
 友人でもある白い牛を売ろうとして森をうろついているのが矢崎広演じるジャックで、赤いずきんを被っているのは当然宮本せいら演じる赤ずきんちゃん、早川久美子演じるラプンツェルの髪は黄色く、シルビア・グラブ演じるシンデレラが舞踏会ではいている靴は金色だ。

 このミュージカルでの赤ずきんちゃんは純情可憐なんかではなく元気で気が強くて小憎らしい女の子だし、シンデレラは「舞踏会に行きたかったんであって王子様なんて考えもしなかった」と逃げ回る。
 そこに「子供を授かるためにはどんな手段でも執る!」とジャックを騙くらかすパン屋の女将さんと、小心でそこまでなかなか決心できないパン屋の主人、パン屋夫婦を助けているんだか邪魔しているんだか微妙な謎の老人、パン屋の夫婦が4つの品物を集めることを実は一番願っている魔女が加わって、話は大混乱だ。

 話は大混乱なのだけれど、今ひとつそういう「しっちゃかめっちゃかさ」が伝わって来ない。
 舞台が広く、大きな木のセットが動いて場面転換をするのだけれど、その転換が緩慢なせいかもしれない。また、中劇場は横に広い劇場で私の席はかなり下手よりだったので、舞台を斜めに見ることになり、また木のセットでちゃんと見えないシーンが多かったせいかもしれない。
 とにかく、「舞台が埋まっている」という感じがしない。何だか舞台に隙間があるように見える。

 ミュージカルなのに、背筋や腕がぞわっとする感覚がなかったのも、私としては物足りない。
 やはり劇場のせいなのか、歌声がストレートに伝わってこない感じだ。一人で歌うシーンが多く、かつ「レ・ミゼラブル」のように「ここが聴きどころだ!」という押しがなく、あくまでもストーリーの中で歌っていたからかもしれない。
 何だか不安になるくらい声が安定していない人が多い(ように感じた)中、諏訪マリーと早川久美子の歌声が際立ち、謎の男(実はパン屋の父親だと後で判明する)とナレーターを演じた鈴木慎平の立ち姿の端正さが印象に残る。

 シンデレラが王子様と結婚し、ラプンツェルも王子様と結婚し、ジャックはお金持ちになり、魔女は元の若く美しい姿に戻り、パン屋の夫婦には子供が授かる。
 そこで休憩に入ったのだけれど、何だかとても長く感じて、ここで幕が本当に降りたのかと思ってしまった。

 二幕は「ハッピーエンドのその後」の物語だ。
 シンデレラは「お城では私らしくいられない」と嘆くし、パン屋の夫婦は家が手狭だと嘆くし、魔女は魔法を失っている。
 王子二人は「眠れる美女」である、「眠れる森の美女」と「白雪姫」に心奪われている。
 そして、王国は、ジャックに夫の巨人を殺された妻の巨人に襲われる。彼女は「ジャックを差し出せ」と人々に迫る。

 二幕も1時間15分あるので、もちろん色々なことが起こるのだけれど、その起こり方と結末がよく判らない。
 一人でジャックを探して森を歩いていたパン屋の妻は、王子に「何て勇敢な人なんだ!」とキスされた直後、巨人が倒した巨木の下敷きになって死んでしまう。
 「巨人は殺されなくちゃいけないの? 他の方法はないの?」と訴えた赤ずきんちゃんは、「もうお母さんはこの世にいない、決めるのは自分自身だ」と歌われて何故か納得してしまう。 
 お母さんを殺した執事に復讐してやる! と叫んでいたジャックも、「もうお母さんはこの世にいない、決めるのは自分自身だ」と歌われて何故かおとなしくなってしまう。
 それって、2人とも全く「自分自身で決めて」などいないのではないだろうか。
 シンデレラは「継母と暮らしていた家は悪夢で、お城の生活や夢のよう。でも自分が欲しいのはその中間」と言って王子様と別れる。

 そしてこの4人で巨人の妻を倒し、4人で暮らしてゆこうと歌い上げて幕である。

 何だか釈然としない。誰でも知っているストーリーを元に再構成するのなら、もっと綺麗にすとんと落として欲しいと思ってしまう。
 元々のグリム童話は残酷な話が多いというし、その不条理さを考えさせるためのミュージカルだったんだろうか。
 何だか釈然としなかった。

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