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「MYTH」
作・演出 鈴木勝秀
出演 佐藤アツヒロ/篠井英介/陰山泰/中山祐一朗
観劇日 2006年5月20日 午後7時開演
劇場 青山円形劇場 Hブロック17番
料金 5500円
上演時間 1時間40分
青山円形劇場をここまで完全に円形で使ったお芝居を見たのは初めてかも知れない。
パンフレット(1200円)が売られていたけれど、迷った末、買わなかった。
ネタバレありの感想は以下に
劇場に入ってまず驚いたのが、青山円形劇場が完全に円形になっていたことだった。
円形劇場とは言っても、役者さんが主に出入りする通路が決まっていて何となく正面が判ったり、客席が舞台を完全に囲むのではなく一方向には客席がなかったり、ちょっとした舞台が円形の舞台とは別にしつらえてあったり、そういう使い方をされていることの方が多いように思う。
今回は、真ん中に少し高くなった完全に円形の舞台があり、その周りに人が1人通れるくらいの通路があり、円形の舞台を360度完全に客席が囲んでいた。
開演前の舞台上で「向き」があったのは、置かれていた揺り椅子だけだ。
舞台の床はステンドグラスのような感じで、ブルー系の色で幾何学模様が描かれているのだけれど、何故か一カ所、黒く塗られた穴が開いている。
そこは古い洋館だったらしく、その洋館を遺贈された佐藤アツヒロ演じる息子と亡くなった父親の弁護士が入ってくる。相続の相談をしているようだ。そして、その周りをはね回る中山祐一朗演じる息子の友人がいる。心配でついてきたのだそうだ。
陰山泰演じる弁護士は息子に「父親を偲んで」もらいたそうだったけれど、息子の方は「20年も会っていなかったんです。偲ぶこともない。」と素っ気ない。相続した洋館も「相続税が払えないから全部売ってくれ」とさっさと決断している。
この最初のシーンで、中山祐一朗演じる友人というのが、実は息子にしか見えていないのじゃないかということが示される。
この物語が動き出すのは、やはり篠井英介演じる父親の幽霊が出てきてからだ。
何だか人を喰った感じの幽霊で、息子が子供の頃のエピソードそのままに運転免許証を見せて父親だと証明しようとする。「自分の父親は数日前に死んだのだ」と言われ「自分のことなんだからよく知っている」と答える。
噛み合っているのか噛み合っていないのか判らないような会話がおかしい。
おかしいのだけれど、何だか重要な会話なのじゃないかという気になる。何故だろう。
父と子というテーマだったせいなのか、何だかよく判らなかった。
でも、その判らなさは「置いて行かれてしまった」判らなさではなく、「一体どういうことなんだろう」「今語られていることは何なんだろう」「この後はどうなるのだろう」という疑問だったので、最後までもの凄く集中して見てしまったように思う。
それでもやっぱり判らなかったのだけれど、何だか意味ありげなどこかで見たことがあるような篠井英介の笑顔が印象的だった。きっと疑問を解く鍵はあの笑顔にある気がする。
父親が「自分を葬ることで、繭から出ろ(そして、引きこもりをやめろ)」という意味のことを言う。その後、視線を少し上に上げて立ちつくしているので、てっきり「葬る」というのは「息子が父親をここで改めて首を絞めて殺す」という意味だと思ったのだけれど、2人はただお互いに正面から体をぶつけあって触れあわせただけだった。
そうしているうちに、父親は崩れ落ち、息子は父親の体を抱えて泣き、少し前に想像上の友人が落ちて行った穴に父親を落とそうとしたところで、明かりが絞られた。
最後は、息子が弁護士に、揺り椅子と自分の祖父が描いたという絵の保管を依頼し、洋館から去るシーンだった。
そこで、弁護士が「あなたくらいの息子がいても不思議じゃない年齢なんですよ」と言ったのを聞いて、実はこの弁護士が息子の父親なんじゃないかと思ってしまった。
その一言だけでそんなことを考えさせるのだから、台詞の力と場の力と役者さんの力というのは恐ろしいと思ってしまった。もっとも、この想像は外れていると思うけれども。
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コメント
なおみ様 はじめまして&コメントありがとうございます
そうですよね、やっぱり弁護士が息子の父親なんてことはなさそうですよね。
でも、本当に一瞬だけ「そうなのかも」と思ったのです。父親が「あの弁護士夫婦は幼くして亡くした息子が今も生きている振りをし続けることで、何とか生きているんだ」という意味の台詞を言っていたし、「外こもり」で「家に置き去りにした」息子を「もう死んだもの」として暮らしていただろう父親とちょうど対になっていて、実はひとつの事実の表裏なんじゃないかと思ったのでした。
おっしゃるとおり、優しいお芝居なのかもしれません。
この後、「息子」はどうなるんでしょう。
投稿: 姫林檎 | 2006.06.01 22:19
はじめまして。
私も先日観に行きました。
> 実はこの弁護士が息子の父親なんじゃないかと思ってしまった。
確かにそんなことはないだろうけど、「そういう見方も出来るんだなぁ。」と印象的だったので思わず書き込んでしまいました。
私は「外こもり」という言葉が印象的でした。
繭から出ようとする心が友人とか幽霊のお父さんを見せたのかな?とか思ったりしました。
最後は弁護士さんのお話にも関心を示して、他人と係わることに積極的になってて。
全体的に「優しい」お芝居でしたね。
投稿: なおみ | 2006.05.31 01:35