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「OUR HOUSE」
作 ティム・ファース
音楽 マッドネス
演出・翻訳 G2
出演 中川晃教/池田有希子/池田成志/坂元健児
新納慎也/入絵加奈子/瀬戸カトリーヌ
後藤ひろひと/香寿たつき/今井清隆
観劇日 2006年6月24日 午後1時開演
劇場 新国立劇場中劇場 6列28番
料金 10000円
上演時間 2時間50分(20分の休憩あり)
パンフレット1500円はかなり迷った末、買わなかった。その他、物販はトートバッグとキャンディードのDVDを確認した。
終演後のロビーで、明日以降の平日のS席チケットが1000円引きで販売されていた。平日はまだチケットに余裕があるようだ。勿体ない。
感想は以下に。
お芝居が始まる前に「こういうストーリーだ」という思い込みを強固に持つというのは、私としてはよくあることなのだけれど、今回もそうだった。
てっきり、「ジキル博士とハイド氏」みたいに、一人の人間が何かの拍子に全く違う人格になってしまう話だと思っていた。もっとも、そもそも「ジキル博士とハイド氏」を読んだことはないので、本当にそういう話なのかは判らない。
ともかく、中川晃教演じるジョーが人格を分裂させて、「良いジョー」と「悪いジョー」に変身してしまい、でも「良いジョー」と「悪いジョー」はお互いのことを知らない、という物語だと思っていた。
だから、そういう物語ではないと判るまで、かなり居心地が悪かった。
立ち入り禁止のマンションに入り込み、警官に追われたショックで人格が分裂するようになり、悪いジョーは転落に転落を重ね、良いジョーもそれに引きずられて行く話だと思って見ていたからだ。
でも、そのうち、今井清隆演じる死んでしまったジョーの父親が、ジョーに語りかけたり独白したりするのを聞くうちに、「もしここで警官におとなしく捕まることを選んだらこの後どういう人生を歩むか」「もしここで警官から逃げることを選んだらこの後どういう人生を歩むか」というシュミレーションを見せているのだということが判って、かなり落ち着いた。
新国立劇場中劇場はかなり奥行きを広く使える舞台だという印象が強いのだけれど、今回は比較的横幅も奥行きも狭く使っている感じがした。
6列目とかなり前の方の席だったのに舞台が遠く感じたのは、舞台自体が遠いのではなく、役者さんたちが舞台の奥で演じていることが多かったためらしい、ということが、カーテンコールで中川晃教が本当に舞台の縁に立って手を振るのを見て判った。
髪を短く切った中川晃教(初めて見たように思う)が演じるジョーの恋人サラを演じたのが池田有希子で、確証はないけどこの2人は割と年齢は離れているんじゃないかと思うのだけれど、そういう意味での違和感はほとんどなかった。池田有希子の演技力と声と豊かな表情の勝利だ。
しばらくお芝居が進むまで、ジョーの母を演じる香寿たつきや、父(の幽霊)を演じる今井清隆、ジョーの友人を演じる坂元健児と新納慎也のコンビと、サラの友人を演じる入絵加奈子と瀬戸カトリーヌは、「誰が誰を演じている」ということを感じさせなかった。ロンドン・ミュージカルということで、もちろん配役はみんなロンドンの住人ということになっている。役者さん達ではなくて、役の人物がそこにいる、という感じが強かったのは凄いことだと思う。
ただし、プッシュマンを演じた後藤ひろひととリーシーを演じた池田成志は別格で、その役者さんがそこにいた。これはこれでまた、凄いことだと思う。
大人しく警官に捕まったジョーは、それでも少年院に送られ、出てきてからも仕事に恵まれず、リーシーの誘惑に負けて再び逮捕されてしまう。
逃げ切ったジョーは、詐欺まがいの警報機販売から不動産会社を興し、サラと再会して結婚する。
何だか一幕は理不尽な展開だ。だったら逃げた方がいいじゃない、という感じなのだ。
でも、二幕に入り、「良いジョー」は母の住む家が再開発のため立ち退きを迫られていることを知り、母と家を守るために法律事務所を回るうちにサラと再会し、サラの尽力で家を守るすべを手に入れる。
一方の「悪いジョー」はプッシュマンと手を組み、母を家から立ち退かさせることを最初の仕事に命じられ、リーシーに力ずくで何とかするよう頼むことになる。
この「OUR HOUSE」はロンドン・ミュージカルだそうだし、ジョーのひいおじいさんはアイルランド人居住区を作りそこから立ち退きを迫られているという設定は、恐らくロンドンでは特別の意味を持って迫って来るのだと思うけれど、残念なことに私にはその意味を理解することはできない。
これまで交互に進行していた物語が、燃える母の家の前で交錯する。
「良いジョー」は、家は守れなかったけれど母を守り、サラと結婚する。
「悪いジョー」は、母を亡くし、死に追いやった罪に問われる。
そして、もちろん、物語は最初の16歳の誕生日にマンションに不法侵入する直前に戻る。
正直に言って意外だったのだけれど、ジョーは「マンションに入り込まない」ことを選ぶ。そして幕だ。
「死んじゃっている」こともあって、今井清隆演じる父の独唱が多い。その後ろで場面転換等が行われる。みんなで歌ってその力で押していくミュージカルと、独唱をつないでその力で引っ張るミュージカルとがあるように思うのだけれど、「OUR HOUSE」はその中間という感じだ。
どちらかというと中川晃教の声と歌は歌い上げる独唱でより力を発揮するように思うのだけれど、意外なくらい彼の歌が少なかった感じがした。池田有希子の独唱の方が多いくらいじゃないだろうか。
カーテンコール(アンコール)では、出演者の多くが高校の制服姿に戻って、みんなで歌い踊る。
「立って立って」というジェスチャーに、最後にはスタンディング・オーベイションになっていた。
予定調和といえば予定調和なのだけれど、だから安心して見ていられる、楽しいミュージカルだったと思う。
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