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2006.07.23

「あわれ彼女は娼婦」を見る

「あわれ彼女は娼婦」
作 ジョン・フォード
演出 蜷川幸雄
出演 三上博史/深津絵里/谷原章介/瑳川哲朗
    石田太郎/たかお鷹/立石凉子/中丸新将
    有川博/梅沢昌代/高橋洋/月影瞳 他
観劇日 2006年7月22日 午後7時開演
劇場 シアターコクーン 2階A列14番
料金 9000円
上演時間 3時間10分(15分間の休憩あり)
 
 カーテンコールも含めて、上演時間はロビーに張り出されていた時間通りの3時間10分だった。こういうことって実はかなり珍しいような気がする。
 やはり客席は女性が多くて、休憩時間のお手洗いは大混雑だった。隣に並んでいた人が午後6時開演にして休憩を20分にすればもうちょっと何とかなるのにと言っているのが聞こえたけれど、同感だ。終演が午後10時10分というのは、時間通りでもやっぱり遅い。

 パンフレットは1800円。パンフレットよりもチラシと同じ写真のポスターの方が人気だったようで、B全サイズのものは売り切れていた。

 渡されたチラシの中に、野田地図第12回公園「ローブ」があった。2006年12月5日から2007年1月31日までシアターコクーンで上演される。何だかとても久しぶりな気がする。ぜひ見たいと思った。

 感想は以下に。

 ジョン・フォードという名前といい、「シェイクスピアと同じ時代に書かれた作品」と紹介されていることといい、恐らくこの戯曲はイギリスのものではないかと思うのだけれど、物語の舞台はイタリアのパルマである。
 そのことを示すべく、舞台装置はコロッセオを内側から見ているかのような感じで作られている。そこに赤い日もずっと並べて張ってある。結界を表しているんだろうか?
 このコロッセオの扉が閉まり舞台全体が照らされていればそこは屋外だし、扉が開かれてカーテンが翻り光が外から差し込んでいればそこは室内。それだけの変化で舞台セットはそのままに様々シーンが展開される。

 三上博史演じるジョヴァンニが修道士に自分は妹のアナベラを愛していると告白するところから始まる。このシーンだけは赤いひもが舞台前面に幕のように張られている。
 かつ、恐らく教会の中だろうに、ジョヴァンニは何故か馬に寄り添ったり馬の首を抱え込んだりしながら告白している。
 あれは何を表していたんだろう?

 ジョヴァンニは深津絵里演じるアナベラに愛を告白し、アナベラもそれに応え、何故か梅沢昌代演じるアナベラの乳母もそれに協力し、2人の蜜月が始まる。
 その間、アナベラに求婚する、谷原章介演じるソランゾや、高橋洋演じるバーゲットらが様々な思惑で様々な事態を引き起こす。
 ソランゾはどうも浮気性で、立石涼子演じる夫ある女性ヒポリタと関係した挙げ句に捨て、そのことに全く悪びれていないし、バーゲットはどうもいつも頓珍漢なことを言っている。
 アナベラは劇中でとても褒め称えられているのに、どうしてこうまともな求婚者がいないのだろうと思った。

 「間違いの喜劇」でもそうだったけれど、高橋洋が本人とは感じさせない(メイクと衣装の力ももちろんだけれど)演技で、1人で深刻そうな周りの登場人物達を吹き飛ばす笑いを作り出していた。
 あんなに何度も「ずべっ」と転んで、体中痣だらけではないだろうか。

 たかお鷹演じるヒポリタの夫は、殺されたことになっていたのだけれど実は生きていて、医者に変装して街に戻り、自分の妻ヒポリタと妻を寝取ったソランゾに復讐を企てている。
 ローマ人の軍人をたぶらかしてソランゾを殺させようと毒まで渡したものの、その軍人は間違えてバーゲットを殺してしまい、バーゲットの伯父は嘆き悲しむけれど、ローマの軍人が逃げ込んだ先のローマの枢機卿は正義なんてことはどこ吹く風でお気に入りの軍人をかばい立てする。
 考えてみると、ジョヴァンニとアナベラの2人以外の物語も、かなり丁寧に語られている。

 アナベラの妊娠が発覚する。チラシなどのあらすじでは「ジョヴァンニの子を妊娠したことをカムフラージュするために」アナベラはソランゾと結婚したことになっているけれど、何だかそういう風には見えなかった。
 私には、ジョヴァンニとアナベラとは特に相談する様子もなく、アナベラはジョヴァンニの師でもある神父の、圧迫面接みたいな諭しと成り行きの力に負け、ソランゾとの結婚を決めたように見えた。

 この辺りから、ソランゾの召使いである石田太郎演じるヴァスケスが物語と事態を引っ張り始める。
 見ながら、このお芝居の中でヴァスケスが一番いい役じゃないかしらと思ったくらいだ。
 ソランゾとアナベラの結婚披露パーティで、ソランゾに復讐しようとしたヒポリタを返り討ちにして毒殺する、アナベラのお腹の子の父親の名前をアナベラの乳母から聞き出す、そのことをソランゾに伝え復讐劇の脚本を書く。大活躍だ。

 ソランゾは、自分の誕生祝いの宴席にジョヴァンニを招き、復讐のために彼を殺そうと企てる。
 その宴席には、枢機卿やバーゲットを殺された伯父、ソランゾへ復讐しようとして返り討ちされた女性の夫など、因縁が絡み合った登場人物が勢揃いしているのだけれど、特にそれについては何ごとも起きることはない。

 宴席に妹を連れてくるよう頼まれたジョヴァンニは、アナベラと会えたことに狂喜するけれど、アナベラは「これは何かの企みに違いない、命を狙われている」と兄を諫めようとする。
 2人の考えていることは、全く重なっていないように見える。
 アナベラは「お兄様の考えていることは判りました」と言うのだけれど、ジョヴァンニがアナベラを殺すことまでは理解していなかったように見える。キスしながら短剣で刺されたときのアナベラは、意外なことが起きた、刺されるとは思わなかった、でも後悔しない、と思っているように見えた。

 妹の心臓を刺し貫いた短剣を持って、血まみれのジョヴァンニは宴席に押し入り、自分が妹を愛していたことを告白し、ソランゾを始めとしたその場にいた人々を無差別に次々と殺していく。
 そのジョヴァンニを殺して殺戮を止めさせたのが、ヴァスケスだ。
 その場で生き残った人間は、ヴァスケス、枢機卿、バーゲットの伯父、ヒポリタの夫の4人。
 この4人の人選も、何だかよく判らなかった。
 スペイン人であることを明かしたヴァスケスは「スペインはイタリアに勝利した」と言って枢機卿が命じた永久追放を受け入れる。

 この枢機卿が最後に言う台詞が「ソランゾ卿の正室のことを、人は、あわれ彼女は娼婦というだろう」という意味の言葉で、そこで幕である。
 そうなのか? この物語はアナベラが何故「娼婦」と呼ばれるようになったかがテーマだったのか? ジョヴァンニだって兄弟で愛し合ったという点については同じことをしたんだろうに(結婚はしなかったけど)何も言われないのか? 「このお芝居は何を言いたかったんだろう? 主役は誰? 
 何だかよく判らなかった。

 深津絵里の声はやっぱり好きだ。「凛とした」という言葉が似合うのに甘くもある。ずっと白か白に近い色のドレスを着ていることもあって、アナベラはまっすぐで強い女性に見える。
 谷原章介は、こういった型っぽいというか、大上段に構えた台詞とか様式美を追及する演技の方が似合うのかも知れないと思った。前に見たのは「コーカサスの白墨の輪」だったと思うけれど、そのときよりも今回の役の方がずっと合っていたと思う。
 三上博史は三上博史だった。何歳だか判らないけれど、結構な年齢であることは間違いなくて、でも舞台上では見事に青臭い若者になりきっていた。

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コメント

こみ様、お返事ありがとうございます。

 千秋楽をご覧になったのですね。やっぱり、千秋楽には独特の雰囲気というか熱気がありますよね。千秋楽を見られたお芝居は数少ないのですが、でも、そう思います。

 お好きな劇団を見て、「確かにかなり重なっているわ」と納得しました。
 高橋洋さんは、蜷川幸雄演出の「間違いの喜劇」でのコミカルぶりが印象に残っています。

 またぜひ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2006.08.29 22:55

御返事ありがとうございます。
一度目は友人がプレゼントで当ててくれたチケットで
ラッキーの便乗者だったのですが、周りが同じ様に当った方達ばかりだったので、マナーが悪く(お芝居が好きというより当ったから来た感じ)少しそちらに気を取られました。二度目は千秋楽だったので役者さんの気合の入り具合がこちらに伝わるような濃い舞台でした。アンコールでは三上さんがボロボロで…立石さんがもらい泣きしたり、アンサンブルさん達も前列に引っ張り出されたり、本当に温かくて幸せ感いっぱいのアンコールでした。お芝居が重い内容だけに皆さんの達成感と安堵が垣間見えたアンコールでしたよ。

好きな劇団はいろいろです。
蜷川さん、野田さん、新感線、他いっぱい。役者さんでは高橋洋さんごひいきです。
子ども達は大王とG2好きです。ニコラスは予定が合わず観られないので、DVDを買う予定です。というか買わされます。
長々と失礼しました。またお邪魔します。

投稿: こみ | 2006.08.27 22:05

こみ様、コメントありがとうございます。

 こみさんがご覧になりたかったお芝居の感想が多いのだとすると、きっとこみさんと私と、お芝居の趣味が似ているのでしょうね。嬉しいです。
 「あわれ彼女は娼婦」2回もご覧になったのですね。やはり1回目と2回目とでは感想が変わったりしたのでしょうか。
 ぜひまたお芝居のお話をしにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2006.08.27 21:25

はじめまして。
ネットでこちらにたどり着きました。
色々と観たかったお芝居の感想がたくさん載ってて
嬉しかったのでコメントさせていただきます。

私は関西なので8月に入ってからこのお芝居を2回観ました。
なんだか納得いかないストーリーにも関わらず、
役者さんの演技や舞台装置や衣装、照明などに魅せられ
とても興味深い舞台でした。

またお邪魔させていただきます。失礼しました。

投稿: こみ | 2006.08.27 00:36

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