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「開放弦」
作 倉持裕
演出 G2
出演 大倉孝ニ/水野美紀/京野ことみ/丸山智己
伊藤正之/犬山イヌコ/河原雅彦
観劇日 2006年7月29日 午後7時開演
劇場 パルコ劇場 F列16番
料金 8000円
上演時間 2時間50分(15分間の休憩あり)
パンフレットやTシャツなどを販売していた(と思う)けれど、ゆっくり見ている時間がなかったので、パンフレットの値段すらうろ覚えだ。1500円か、1800円だったと思う。
感想は以下に。
舞台上には、田舎のおばあちゃんの家のような、玄関が引き戸で、庭が広くて、納屋があって、畳の部屋で、縁側(庭側)に向いた障子は全部明けはなっていて、縁側が広い、でも何故か天井裏は蜘蛛の巣だらけの家がでん、とある。
セットが動くことはほとんどなくて、でも、暗転が多い。その暗転が何だか効果的で、ネオンのようなライトを当てて白いものを青く光らせたり、最後に余韻を持った登場人物だけ薄くスポットライトで照らしたり、庭先に干されていた白いシーツが宙に舞ったり、何故かどでかい鴨の書き割りが降りて来たり、縁側の下が緑色に光ったりする。
こういう暗転なら楽しくていいわ、と思ってしまった。
というよりも、そういう効果が見せたくて、実は「暗転」の必要は全くないのに暗転っぽくしているのではないかと思ってしまったくらいだ。
AGAPE Storeの「仮想敵国」を見損ねているので、多分、倉持裕作の作品を見たのは初めてだ。あちこちで「難解」という評され方をしていて、「でも、これは判りやすい」という感想を見たようにも思うのだけれど、比べる作品がない私からすると、やっぱりちょっと判りにくいのかも知れない、と思う。
偽装結婚した水野美紀演じる恵子さんと丸山智己演じる遠山くんの家に、遠山が率いるバンドのマネージャ役を兼ねているらしい京野ことみ演じる依代が何故か留守番しており、そこに「鴨を轢いてしまった」とやってくるのが、犬山犬子と河原雅彦演じる進藤夫婦。そこへ、結婚式を終えた二人と遠山のバンド仲間で農業仲間でもある大倉孝ニ演じる門田(この字だから、名字を呼ばれるときは「カドタ」で、あだ名で呼ばれるときは「モンタ」なんだと、今、「開放弦」の公式Webサイトの登場人物紹介を読んで理解した。)が到着する。
舞台を見ているときでさえ、登場人物の人間関係をつかむのが大変だったのだから、私が紹介しようとすると余計に訳が判らなくなる。
公式Webサイトに載っていたStoryは以下のとおりだ。
**********
結婚式を終えたばかりの夫婦・恵子(水野)と遠山(丸山)に周囲は驚きを隠せない。
付き合っているそぶりどころか接点さえもなかった二人が、突然「できちゃった結婚」したのだから。しかも、当の二人は結婚式を終えたばかりだというのに、なぜかよそよそしい。
その謎は、遠山のバンド仲間・門田(大倉)だけが知っている。そのせいか門田の機嫌は悪い。
遠山と門田の会話からは、巨額のカネの動きが見え隠れする。
遠山の元恋人・依代(京野)も、いぶかしげな目を遠山夫婦に向ける。
まだまだ遠山に未練たっぷりな依代は、その謎を解き、二人を別れさせようという魂胆が見え見えだ。
そんな中、取材旅行中だった漫画家夫婦の進藤(河原)と素江(犬山)が運転する車が、遠山を轢いてしまう。遠山はその事故の後遺症で右手が動かなくなる。
折りしも、遠山がギターで作曲したアルバムがインディーズで大ヒット。1億近い印税が転がり込んで来たばかりのことだった。次回作を出したい遠山だったが、右手を負傷した彼に曲作りはできない。
それを償うために、遠山の田んぼで働き始める進藤夫婦。
素江を連れ戻そうとやってくる漫画雑誌の編集者・木戸(伊藤)。ところが、遠山家で働くうちに、進藤は恵子に気持を奪われていき、そのことに憤る木戸は、ますます素江への想いを募らせて……。
もつれにもつれあった思惑をかかえた7人が、一つ屋根の下でひしめきあい、ある時は事実を隠し、ある時は感情をむき出しにするが故にますますもつれた関係に陥っていく。そんな7人が作り出す居心地の悪い空間の中で、遠山と恵子は互いに、もがくように愛を求めていく。
やがて、遠山は恵子の助けを得て新曲を作ろうと決意するが、門田は、「お互いに愛しているなら、離婚しろ」と遠山に迫る……。
**********
表向きの人間関係も、「実は」の裏事情も、あまりストレートに説明されることはこのまま最後までなく、もちろんお話が進むにつれて段々に理解できるのだけれど、理解できるまでは結構もどかしい感じがした。
水野美紀は「農協の会長と不倫して妊娠して、その会長にちょっと信じられない額の借金をした元中学の同級生と偽装結婚することで、子どもを生もうとした」という、文字にしてしまうと、ちょっとえげつないというかそういう役どころだ。しかも、今まで舞台で見たときとは声やしゃべり方が全く違っていて、最初は本人だと思わなかった。
最初から最後まで全編イラついている門田を演じていた大倉孝ニがまたよく動く。
バンドがネット配信で稼いだお金を遠山の口座に振り込み、早く借金を返せと迫る。遠山を轢いた(と思い込んだ)進藤夫を殴る。イラついてはいるけれど、この物語の中で一番まともなのが門田だ。
そのまともさとは別に、序盤、遠山に死んだ鴨の姿を見せまいとスライディングしてけっ飛ばして鴨を飛ばすところが格好良かった。本当に見事に飛んでいた。拍手も起きていたくらいだ。
遠山が最初に除虫目的で飼った鴨が周りの農家に広がり、その鴨が稲を食い荒らしたからといって、遠山がその損害を賠償する責任があるのか? とか、遠山を轢いて回復不可能な怪我をさせた進藤夫婦(正確には進藤妻)は刑事罰を科せられないのか? とか、そういう疑問はある。
恵子さんは何を考えていたんだ? とか、遠山の借金のことを知ってか知らずか「償い」といって農作業を手伝いながら鴨を主人公にした漫画を書く進藤夫の神経はどうなっているんだ? とか、その漫画を見て鴨の存在を知り飛び出していって遠山は車に轢かれて死んでしまうというラストはどうなんだろう? とか、そういう疑問もある。
でも、何だか目が離せないお芝居だった。
遠山は、恵子に弾いてもらい、自分がコードを押さえることでギターを鳴らし、作曲をしようとしていた。
その作曲ノートは、恵子への指示のまま「1(番の弦)」「全部(の弦」と書かれて、遺された。
そのことに気づいた恵子は、お葬式の後、指示のままにギターを弾く。もちろん、コードを押さえる人はいないから、音程はない。「左手で押さえないと」と言う依代に、恵子さんは「そっちは遠山くんがやっていたから。」と答える。そして、そのまま弾き続ける。
で、この感動と切なさが、「開放弦」という言葉の意味を知らないと半減するのだ。いや、3/4減くらいかもしれない。
音楽にもギターにも恵子さんと同じくらい疎い私は、チラシに書いておくとか、舞台前半でさりげなく誰かに説明させるとか、してくれればいいのに! と思ったのだった。
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コメント
なおみ様、コメント&トラックバックありがとうございます。
ブログを新しくされたんですね。リニューアルおめでとうございます。
確認したところ、「OUR HOUSE」と「MYTH」にトラックバックをいただいていましたので、お言葉どおり削除させていただきました。
新しい方のブログに再度トラックバックをいただけるととても嬉しいです。
投稿: 姫林檎 | 2006.07.31 21:55
以前何度かTBさせて頂いた者です。実はBlogを変えてちょっとURLが変わってしまいました。ご面倒でなければ、以前2回ほど送信したTBを削除して頂ければと思います。
投稿: なおみ | 2006.07.31 12:25