« 「僕たちの好きだった革命」のチケットを予約する | トップページ | マイリスト(本)のリンク先を変更する »

2006.11.23

「八百屋のお告げ」を見る

「八百屋のお告げ」グループる・ばる 20周年記念公演
作 鈴木聡
演出 鈴木裕美
出演 松金よね子/岡本麗/田岡美也子
    加納幸和/井之上隆志/佐藤二朗
観劇日 2006年11月23日 午後2時開演
劇場 東京芸術劇場 小ホール2 J列11番
料金 4500円
上演時間 2時間15分
 
 20周年記念公演ということで、初めてパンフレットを作成したのだそうだ。ロビーで600円で販売されていた。今頃になって購入しなかったことを後悔している。

 ところで、私はカーテンコールでの挨拶を聞くまで、「グループる・ばる」ではなく「グループる・ぱる」なんだと思い込んでいた。確認したらこのブログにも「グループる・ぱる」と書いてあって、今さっき訂正した。申し訳ないことだ。

 上演中におしゃべりする人(暗転のときも「上演中」だと思う)や、携帯電話を鳴らす人がいて、それがとても残念だった。どんなにいいお芝居でも、そういう声や音が聞こえるとやっぱり集中が途切れてしまう。

 感想は以下に。

 松金よね子演じる水野多佳子は熟年離婚して子ども達は飛騨高山とオーストラリアでそれぞれ暮らしていて一人住まい、そこに姪の結婚式に行く途中の田岡美也子演じる本田真知子が「昔、結婚式で歌った替え歌の歌詞を知りたい」と訪ねてくる。その「替え歌」を一緒に歌った岡本麗演じる小西邦江が酔っぱらって訪ねてくる。
 本田真知子は夫と二人暮らし、小西邦江は独身で10年付き合っていた不倫の相手が昨日死んでしまったという。それぞれがたぶん全く異なる生活をしてきているのだけれど、「自分は今まで何をして来たんだろう」とつい考えてしまう年頃だ。などと、彼女たちの年齢にまだまだ遠く及ばない私が断言するのも何だけれど、少なくとも舞台ではそういう風に描かれているように思う。

 本筋とはあまり関係ないのかも知れないけれど、この「替え歌」の歌詞が私の耳と胸にはかなり痛かった。元歌はシュガーの「ウェディング・ベル」だ。

 水野多佳子が、近所の八百屋のおじさんに「あなたは今日の真夜中12時に死ぬ」とお告げをされ、身辺を片付けようとまずは冷蔵庫にある食材を使って料理をしているところに、本田真知子が訪ねてくる。
 一人暮らしにあるまじき量の野菜炒めに「どうしたんだ」となり、「八百屋にお告げをされたんだ」となり、「そんな馬鹿なことを信じるなんて!」ということになる。
 そりゃあ、そうだ。
 でも、完全に笑い飛ばすことができないのも人情としてよく判る。水野多佳子の人生はあと12時間ちょっとだ。さあ、何をする? という話になるのも無理はない。
 お告げをされるのが、この堅実で生真面目な彼女だ、というところもポイントなんだろう。というか、他の2人がお告げされていた場合、ドラマにはならず、笑い飛ばして終わっていたような気もする。

 布団圧縮袋(何とかという商品名がついていたけど、忘れてしまった)の加納幸和演じるセールスマンが現れ、何故か3人ともそのセールストークにつられて購入してしまう。3人で総額4万円を超えているのだから凄い。1万円の香水を買って疲れ切っちゃう人がどうして布団圧縮袋に2万円以上もあっさり出せるのか、謎といえば謎だし、納得できるといえばこれ以上納得できるシチュエーションもないように思う。
 彼の出現で、残り2人の女が「水野多佳子の残りの人生に必要なのは男だ」という結論に達する。これが「恋」だったり、「ぎゅっと抱きしめられること」と表現されないところが潔い。

 3人が出会った大学の頃の「憧れの君」の家に電話し、本人は出張しているという話だけれど、佐藤二朗演じる息子がやってくると言う。
 やっぱり「八百屋のお告げ」で「明日の真夜中12時に死ぬ」と言われた井之上隆志演じる男がやってくる。
 さっきのセールスマンも含めて、何故か6人で寄せ鍋を囲むことになるのが、また不思議だ。不思議だけれど自然でもある。

 実は「学生時代の憧れの君」は昨年亡くなっているということが判る。
 セールスマンも何度も自殺したことがあると最後に告白する。
 ここに集まった6人は、たぶんそれぞれが生きることと死ぬことを考えざるを得なくて、ちょっとずつ「どうして生きているんだろう」「生きる意味なんてあるんだろうか」と思ってしまっていたり、思ってしまったことがあったりしている。
 今こうして文字にするとかなり重いし、舞台上の人々もそれぞれが深刻そうなんだけれど、でも、全体の印象はとても軽やかだ。みんなで合唱する「フニクリ・フニクラ」のせいなのか? それぞれが個性的で濃い男性陣のせいなのか? 特に井之上隆志と佐藤二朗は一挙手一投足が可笑しい。笑いを誘う。

 「やり残したことがいっぱいある。」というよりも「やりたいことがいっぱいある。」の方が素敵だ。格好良い。
 そして、最後の数時間を最後まで付き合ってくれる友人がいる水野多佳子はやっぱり実はとっても幸せだ、と思う。

 それにしても、何でまた八百屋は「もうすぐあなたは死ぬ」なんていう「お告げ」をしたのだろう? しかもその「お告げ」が実際に起きる頃、自分たちは四国にお遍路の旅に出ているというのだから、よく判らない。お告げをした八百屋の事情は最後まで問題にされなかったので、ちょっと気になったりしている。

 八百屋さんにお告げをされることは恐らくないと思うけれど、例えば「余命○○年です」なんていうお医者さんの台詞も「八百屋のお告げ」程度に捉えて、深刻にならず真剣に考えられればいいのかも知れない、という気がした。
 もちろん、水野多佳子は無事に「真夜中の12時」を超える。たぶん、明日は今日よりも元気に暮らしてゆくんだろう。

 ところで、井之上隆志演じる宅配便運転手の男は「歌はあんまり得意じゃない」という設定だった。勿体ない。低音のいい声なのにな、と思った。

|

« 「僕たちの好きだった革命」のチケットを予約する | トップページ | マイリスト(本)のリンク先を変更する »

*芝居」カテゴリの記事

*感想」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「八百屋のお告げ」を見る:

« 「僕たちの好きだった革命」のチケットを予約する | トップページ | マイリスト(本)のリンク先を変更する »