「ロープ」を見る
「ロープ」NODA MAP第12回公演
作・演出・出演 野田秀樹
出演 宮沢りえ/藤原竜也/渡辺えり子/宇梶剛士
橋本じゅん/三宅弘城/松村武/中村まこと
明星真由美/明樂哲典/AKIRA
観劇日 2006年12月16日 午後7時開演
劇場 シアターコクーン 2階C列12番
料金 9500円
上演時間 2時間
3年振りのNODA MAPの本公演だった。
ロビーで戯曲やパンフレット(こちらは1000円)が販売されていた。パンフレットを購入したけれどまだ読んでいない。感想を書いたらゆっくり読もうと思う。
パンフレットとは別にCASTやSTAFFが書かれた紙が配られるのが有り難い。
ネタバレありの感想は以下に。
2階からの観劇だったけれど、不思議とそれが邪魔にならない感じだった。いつもだと「遠いな」と思うのだけれど、逆に俯瞰で見られて面白いとさえ感じた。舞台美術のためなのか、演出のためなのか判らないけれど、これって何だか凄いことだと思った。
えんぺの一行レビューで「宮沢りえの声が嗄れている」という感想をいくつか読んだように思うのだけれど、それほど気にならなかった。どちらかというと、藤原竜也の声が時々かすれていたことの方が気になった。いずれにしても、台詞が聞き取れないほどではないし、力強い場面では力強く語られていたので問題ないと思う。
不思議といつもの疾走感とスピード感が前面に出ることはなく、「え? 今、何て言ったの?」「今、もの凄く大切なことを言わなかった?」ということが起こらなかった。全体的にゆっくりと丁寧に台詞が話されて、物語が運ばれていたように思う。
ストップモーションが多く使われていたという印象が残っているのだけれど、そのせいもあるのだろうか。そして、ストップモーションのシーンでは、誰もが本当に、動かない。見事に動かない。リングの中央で死んでしまったように見えるケーブルテレビのディレクターは、その後、ヴェトナム戦争のシーンまで通してずっと死んでいたのだけれど、見事に手と足を不安定な位置で静止させていたように思う。
ストーリーは、どこかのプロレス団体で、藤原竜也演じるジムのオーナーの父が亡くなり後を継がなくてはならないプロレスラーの息子後継者兼プロレスラー「ヘラクレス」が、何故か引きこもっているところから始まる。
その様子を何故か隠し撮りしようとしている、ケーブルテレビのクルーが2人(プラスしてディレクターの妻が何故か一番威張っている)、そこに、リングの下に住みついている自称「未来から来たコロボックル」の宮沢りえ演じる「タマシイ」が現れる。
この辺りの様子は、昔一大隆盛を誇った頃のプロレスを知らなければ、プロレスの現状も知らない私からすると、何となく判りにくい世界ではある。
そして、この「コロボックル」がどうしてリングの下に住み着いているのか、未来ってどこなのか、死んでしまったらしい彼女の父親は誰なのか、何故「ことば」に拘って古めのボキャブラリーを駆使して実況中継をするのか、そんなことは飛び越えて話は進む。
プロレスは八百長だ、というのはもう大前提だ。
ヘラクレスも実は「プロレスに八百長はないと信じている純情な青年」を演じているプロレスラーなのだ。
そして、「ロープ」で囲まれた世界は、特別なルールに支配されていて、そこでは流血も日常だし、「犯罪」ではない。そして、作られた「暴力」は、「ユダヤ人の社長」に象徴される決して表には出てこない権力者の思惑どおりに、テレビの力(それは、人々という無名の存在の集まりの力なのかも知れない)を利用することで、エスカレートしてゆく。
「ロープ」の中にはストーリーがあり、ストーリーを作る人がおり、そのストーリーに従って「作られた悪役」はとことん悪役を演じきる。
それを見ている私たちは、「作りごと」だと思っている。そして「作りごとだから、暴力も流血も犯罪ではない」と思っている。そして、実はその「作りごと」がどんどん、無意識のうちにエスカレートさせているのは自分(たち)だということに気がついていない。
場面は、タマシイの実況に従って、ヴェトナムのとある農村にオーバーラップさせられてゆく。
ヴェトナム戦争も、作られた正義と悪があり、戦争だから暴力や流血が許され、そしてそれをエスカレートさせていたのは「戦争の実況中継」を望んだ一人一人の人々なんだということが、(多分)語られてゆく。
タマシイがやってきたという「未来」というのは、「ミライ」という4時間で殲滅されたヴェトナムのある村なのだ。
タマシイが、村が殲滅される様子を実況する。
あくまでも明るく、プロレスの実況中継と同じような調子で語られるその、「戦闘」ですらない有様を聞いていて、私は何だかどんどん胃が痛くなって来てしまった。ギュッと胃を掴まれているような、そんな痛みがどんどん大きくなってくるのに、その実況は本当にこのままずっと続くんじゃないかと思うくらい終わらないのだ。「お願いだからもうやめて!」と思ってしまった。
そして、その「ミライ」という村の生き残りであるタマシイは、殲滅に加わった米軍兵士に託され、逃げ出したその兵士と一緒に日本にやってくる。
場面はまたプロレスに戻り、そのジムは閉鎖され、ヘラクレスも含めて人々は去り、タマシイはリングの下に一人残る。
差し入れられた食事をそっと返すところで幕、である。
「判りやすい」と感じたから、多分、私は判っていないのだと思う。
マッチメイクを指示していた「ユダヤ人の社長」が一体何を象徴していたのか、一番の黒幕で影の権力者で支配者であったこの社長が象徴するものを、私は理解できない。もっとも、これはお芝居の描き方の問題ではなくて、私の受け止め方や知識や意識の問題である。
舞台の背景に書かれた文字もとても気になったのだけれど、最後まで、何が書いてあるのか判らなかった。お芝居を見ているときは、墓標だろうかと思っていたのだけれど、これも私が何かを知っていればすぐに連想できる何かだったんだろうか。
確かに、何故今このテーマを取り上げたのか、という疑問はある。
でも、いつでも「こういう理由で今このテーマを取り上げたのだ」ということが説明できる必要もないんじゃないかとも思う。
でも、あの胃の痛みを考えると、もう1回観劇するかと聞かれれば、かなり迷うと思う。
| 固定リンク
« イッセー尾形と小松政夫による「男と男の人生ドラマ」の抽選予約に申し込む | トップページ | 世界ウルルン滞在記「コマ撮りマジック!チェコの人形アニメに …阿部サダヲが出会った~」を見る(予定) »
「*芝居」カテゴリの記事
- 「主婦 米田時江の免疫力がアップするコント6本」の抽選予約に申し込む(2024.09.08)
- 「バサラオ」を見る(2024.09.01)
- 「破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~」を見る(2024.08.25)
- 朝日のような夕日をつれて2024」を見る(2024.08.18)
- 「奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話」を見る(2024.08.12)
「*感想」カテゴリの記事
- 「バサラオ」を見る(2024.09.01)
- 「破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~」を見る(2024.08.25)
- 朝日のような夕日をつれて2024」を見る(2024.08.18)
- 「奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話」を見る(2024.08.12)
- 「正三角形」を見る(2024.08.11)
コメント
ameさま、コメントありがとうございます。
背景に書かれていたのは、犠牲者の方のお名前と年齢だったんですね。
教えていただいてありがとうございます。私は視力はかなりいい方だと思うのですが、流石に2階席からでは何と書いてあるのか読めませんでした。
ぜひまた遊びに来てくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2006.12.18 23:09
姫林檎さんはじめまして!
「ロープ」で検索しておじゃましました。
先日私も観劇してきました。
背景に書かれた文字は4時間半で滅んだ町に住んでいた犠牲者の方の名前と年齢だと思います。
ナンバーが付いていて、400番台でした。
実際の犠牲者は504名のようです。
投稿: ame | 2006.12.17 17:59