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2007.01.28

「スウィーニー・トッド」を見る

ブロードウェイ・ミュージカル「スウィーニー・トッド」
脚本 ヒュー・ホィラー
作詞・作曲 スティーヴン・ソンドハイム
演出・振付 宮本亜門
出演 市村正親/大竹しのぶ/キムラ緑子/ソニン
    城田優/立川三貴/斉藤暁/武田真治/他
観劇日 2007年1月27日 午後5時30分開演
劇場 日生劇場 1階P列29番
料金 12600円
上演時間 3時間5分(15分の休憩あり)

 ロビーでパンフレット(1000円だったか1500円だったか)の販売や、「ジキルとハイド」のチケット販売、オペラグラスの貸し出しなどが行われていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 やっぱり、血しぶきが上がるようなスプラッタなお芝居は苦手だ。
 見終わってみれば、それほどスプラッタではなかったのだけれど、チラシなどで先入観を持ってしまっていたので、舞台上で緊迫感が高まってくるとついつい目をそらしてしまった。そして、目をそらしていたから判らないのだけれど、最重要のシーンを見逃している気がする。
 でも、逃げ出したくなるほどのスプラッタではなかったし、最初に持って行かれたこともあって、ずっと緊張感と緊迫感が続いて、苦手なんだけれどでも楽しめる充実したミュージカルだったと思う。

 ちょうど通路横の後ろから2番目の席で、ミュージカルの幕開けがその通路にいきなり酔っぱらいが登場して大きな声でくだを巻くシーンだったので、いきなり「ビクっ」としてしまい、その始まりで持って行かれた感じだ。私だけでなく、客席全体が「ビクっ」としていて、その効果は絶大だったと思う。

 無実の罪を着せられて島流しにあっていた市村正親演じるスウィーニー・トッドが、島抜けをしてロンドンに舞い戻り、大竹しのぶ演じるラヴェット夫人のパイ屋の2階を再び借り受け、理髪師業を再開して自分を陥れた立川三貴演じる判事と斉藤暁演じる役人に復讐を誓う。

 さらに、その判事がソニン演じる自分の娘ジョアンナを引き取っていると聞き、嵐の海で自分を助けてくれた城田優演じる水夫の青年アンソニーから、父親に閉じこめられて酷い目にあっているその娘に恋をしたと聞かされる。
 意外だったのは、トッドにとって、この娘に酷い仕打ちをしているということは、それほど復讐心を駆り立てる対象ではないらしかったことだ。トッドの復讐はあくまでも、妻と娘と3人の幸せな家庭を壊され自分を無実の罪で島流しにし15年の労苦を与えたということに対するものなのだ。
 トッドからは、ラヴェット夫人から「自殺した」と聞かされた妻への愛情は感じられるのだけれど、娘への愛情はあまり感じられない。
 ところで、ジョアンナを演じたソニンの歌声がとても可憐だった。聴きながら「うん、次はコゼットを演じて欲しいな」と思った。

 チラシによると、トッドは「自分の過去を知っている客を次々とカミソリで殺していく」のだそうだけれど、私の注意力が散漫なせいかもしれないけれど、舞台では「手当たり次第殺している」ように見えた。最初に殺した昔の自分の弟子ピレッリは、確かに自分のことを知っていて脅迫されたから殺していた。
 でも、ピレッリの死体を処理しようというときに人肉でパイを作ることをラヴェット夫人が思いつき、いつの間にか2人は手を組む共犯者のようになっていた。それもラヴェット夫人が積極的にそういう風に、トッドが自分から離れることがないように仕組んだのだと見えた。
 よく思い返せば、トッドは「復讐の機会を外さないように人殺しの修練を積もう」と歌っていた。
 それでも「本当の悪人はラヴェット夫人」「ただ2人に復讐をしたかっただけなのに、ラヴェット夫人に大量殺人の道に引きずり込まれたトッド」というイメージが浮かんだのは、トッドがパイの材料を調達するためもあって手当たり次第に来る客来る客みんなを殺しているように見えたからだ。
 主犯はラヴェット夫人、と見えた。
 だから、何となくマクベスをも連想させたのだと思う。

 謎の女が「このパイ屋からは臭いにおいがする」と触れ回っていたのは、名前も変え、姿もすっかり変わってしまった自分の夫「トッド」が、おかしなことに手を貸していることに気がついていたからではないかと思った。
 気が狂ってしまってもトッドのことをどこかで覚えており、心配しており、ラヴェット夫人の商売を止めさせその関係を絶つことで、トッドを殺人を繰り返す今の生活から救おうとしているように見えた。

 一方、ピレッリの弟子の武田真治演じるトバイアスは、そのままパイ屋に居つき、ラヴェット夫人を慕うようになる。
 彼は、「ラヴェット夫人を悪の道に引きずり込む悪魔はトッド」と思っている。というか、恐らくは「スウィーニー・トッド」というこのミュージカルの本筋はそちらなのだと思う。

 トッドは、アンソニーに精神病院に閉じこめられたジョアンナを助け出す方法を教え、自分の店を一時的な隠れ場所にするよう勧め、その事実を判事に知らせることで再び判事の信頼を勝ち取って自分の店に来させようとする。
 その工作の途中、ラヴェット夫人は自分たちのしたことに気がつきそうになったトバイアスを地下のパイ工場に閉じこめる。
 帰ってきたトッドに、ラヴェット夫人はトバイアスを「何とかする」よう言う。

 この辺りから、トッドとラヴェット夫人(というよりも、私にはラヴェット夫人の企み)の「成功」が崩れ始める。
 アンソニーとジョアンナが店にやってきたその場にいられない。
 店に入り込んだ「謎の女」が、自分の家に帰ってきたため一瞬昔を思い出したところを見逃し、怒鳴りつけてその記憶をまた追い返してしまい、判事が今にも店に入って来そうになったため、邪魔になって殺してしまう。
 店の中に隠れていたジョアンナは、トッドが判事を殺すところを聞いてしまう。トッドはジョアンナの容姿を知らず(母親そっくりという設定なんだから気がつけ! と思ったけれど)、ジョアンナは店から逃げ出して街に飛び出してしまう。

 ジョアンナはこのまままた判事の手先の人間に捉えられて悲惨な目に遭うという救いのない終末を迎えるのかと思ったのだけれど、それは違った。
 ジョアンナは無事にフランス行きの馬車を手配に街に出たアンソニーと出会い(これも、馬車くらい最初から用意しておけと思わなくもない)、トッドの店に戻り、地下工場の凄惨な場面を目撃する。
 ジョアンナはそこに倒れている2人の男女が自分の両親であることを知らない。
 考えてみれば、その方が悲惨な結末と言えるのかもしれないと今思った。

 ところで、アンケート等と一緒に渡された「スウィーニー・トッド」のチラシに載っている人物相関図を見ると、キムラ緑子演じる謎の女の正体が「トッドの妻」であると判ってしまう。
 開演前に見てしまったことをちょっと後悔した。
 チラシを見ていなかったら気がつかなかったのかどうかは判らないけれど、ヒントなしで見た方が、ラスト近くでスウィーニー・トッドが自分が殺してしまった「謎の女」の正体に気がつく驚愕と嘆きにより大きな衝撃があったように思う。

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コメント

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 実は、読売演劇大賞の中間発表、チェックしていなくて・・・。
 コメントをいただいて、インターネットで検索をかけたのですが、中間発表されたノミネート作品を見つけることはできませんでした。残念。

 逆巻く風さんが挙げられた中で私が見ているのは「夜の来訪者」だけでした。
 こうなると、見逃した作品が惜しくなってくるのが、我ながらゲンキンです(笑)。

投稿: 姫林檎 | 2009.07.16 00:06

「炎の人」キター!
今年の読売演劇大賞の上半期中間選考会で各部門のベスト5が発表されました。
”作品賞”に「炎の人」、”男優賞”に市村さんが選ばれました。
他に僕が観たものでは、”女優賞”に「この森で、天使はバスを降りた」の剣幸さん、「マイ・フェア・レディ」の大地真央さん、と言ったところでしょうか・・・・あまり本数観てないので。しかもマイ・フェア~は前に観ただけですし。
「この森で~」は「レベッカ」で良かった大塚ちひろさんが主演だったので結構期待して行ったんですが・・・期待が大きすぎたようです。

読売演劇大賞~でその他少し知っているのでは・・・
鳳蘭さん「雨の夏、三十人のジュリエットが~」とか段田安則さん「夜の来訪者」で、等です。

姫林檎さん、何かありますか?

投稿: 逆巻く風 | 2009.07.15 21:42

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 地元当てクイズは不正解でしたか。残念。
 海外公演とかしたんでしたっけ?

 市村正親さんは好きな役者さんなのですが、何となくコメディの方が似合う役者さんのように思っているので、それで多分「炎の人」もパスしてしまったんだと思います。
 でも、ここまでおススメいただくと、かなり気になりますね(笑)。

投稿: 姫林檎 | 2009.06.27 08:56

残念、名古屋ではありません。大阪、福岡・・・でもありません。じゃあ一体 (笑)
ところでこの劇、大昔幸四郎さんがやってらしたんですね・・・ってその時は染五郎だったのか?

すいません、間違えました、市川さんでなく市村さんでしたね。僕はあまり役者さんとか内容とか知識を得ようとして観ませんから・・・って言い訳?(苦笑)
『炎の人』姫林檎さんが観られたらきっと何かを感じられと思います。それをどうやってコメントされるか(ストーリーの説明だけでなく)少し興味があります。

あっ、スウィーニー~どこで観たかという答えは、まあある地方都市と言っておきます。

投稿: 逆巻く風 | 2009.06.23 22:17

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 さてどこでしょう? とのお尋ねにつられて調べてしまいましたが、2007年に再演されたこのミュージカルは、名古屋と大阪と福岡で上演されていたのですね。
 このうちのどこかということで、私の予想は名古屋です。

 さて、「炎の人」は迷った挙げ句、見ていません。
 チケットを取ろうかどうしようか、かなり迷ったのですが。

投稿: 姫林檎 | 2009.06.23 20:30

地元で観ました(笑)
東京ではありません、さてどこでしょう?
席がイマイチだったせいか、内容なのか、イマイチでした。
ところでその市川さんの『炎の人』観ましたか?つい先日観てきたんですが、良かったです。”大人の鑑賞に耐えられる”と言ったらいいんでしょうか。最初暗っぽくて(照明が)睡魔と戦っていたんですが、そのうち照明が明るくなるに伴って引き付けられ、ラストでは少し泣けてしまいました。

投稿: 逆巻く風 | 2009.06.23 15:24

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登場人物の感情がもつれ合う感じの演出が弱いやなぁと感じたりやっぱり、その人が主人公の過去に縁深い人だったんだねと判り易い感じだったり復讐であるなら、もっと心理的に追い込むやり方が好みなのになぁ・・・なんてのはあるけれど最後、主人公の末路とその後の歌でぞ...... [続きを読む]

受信: 2007.01.28 19:02

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