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「薔薇の花束の秘密」TPT
作 マヌエル・プイグ
訳・演出 木内宏昌
出演 安奈淳/毬谷友子
観劇日 2007年3月2日 午後7時開演 千秋楽
劇場 ベニサン・ピット 23番
料金 6300円
上演時間 2時間30分(15分間の休憩あり)
23番は前から2列目の一番左端の席だった。3列目以降はベニサン・ピットのいつもの黒い椅子で、最前列は白い椅子、2列目は最前列よりも少し座高が高くなった椅子で座りやすかった。1列目と2列目の間が通路にもなっていて、とても楽に座ってみることができた。ベニサン・ピットの座席は結構腰やお尻が痛くなるので、これはラッキーだった。
目の前の席が空いていて、最前列だしお芝居で使うのかしらと思っていたらそういう訳ではなかったようだ。
ネタバレありの感想は以下に。
白い布で覆われた感じの舞台は、病院の特別室(だと思う)の中で、中央にベッドが一台。窓にかかっているブラインドが木製っぽい色をしている他は、床も壁もドアも家具も全てが白で統一されている。こんな舞台をどこかで見たなと思ったけれど、思い出せなかった。
ベニサン・ピットは元々は黒い床や天井や壁なので、その元々の色が出ているところの境がくっきりしていて、何だか別世界を強調していた。
この白一色の舞台は、その後、安奈淳演じる患者と毬谷友子演じる付添婦が少しずつうち解けるに従って、色を増やして行く。でも、その増えた色が、患者のガウンの赤、ショールの赤、ハンドバッグの赤、ベッドカバーの赤と赤が多くて、白一色のときと同じくらいの緊張がある。
一方の付添婦の方は、ハンドバッグの黒とコートのブルーグレーが増えるだけで、これまた対照的だ。
色といえば、患者も付添婦も白一色の服なのだけれど、患者はクリームブロンドがかった白髪の髪にクリーム色が入ったスリッパ、付添婦はごま塩(とは女性のときには使わないのか)の髪にグレーの靴と、髪と靴がコーディネートされていたのが印象的だった。
普段なら気がつかなかったと思うけれど、白一色の舞台と衣装の中では、やはり目立つ。
新しくやってきた付添婦と患者が少しずつ話をするようになり、話が弾むようになり、表情が明るくなってゆく。
時々、毬谷友子が患者の妹になり、娘になって、過去の映像をフラッシュバックのように見せる。
また、安奈淳は付添婦の母になって、やはり過去のワンシーンをフラッシュバックのように見せる。
その切り替えは、ブラインドが揺れるバタバタッという音と、窓からブラインド越しに差し込む光で表現され、緊張感を生む。
付添婦は自分は資格がなく、そのために患者の主治医から2日間だけの試用採用をされ、もしその2日間に患者が一口でも食事をすれば引き続き付添婦として雇ってもらえるのだと説明する。
セビリアの精神保健センターのようなところはとても有名で、そこに交換留学の話があったと聞いて、一喜一憂する。
患者も、少しずつ彼女に親しみを持つようになり、力になりたいと思うようになり、亡くなった孫の話をし、食事をするようになる。
それが一転、付添婦は看護師の資格を持っており、2日だけの試用というのも嘘で最初から3週間の契約を好意で受けてくれたという話を主治医から患者が聞き出した辺りから、今度は別の緊張感が走り出す。
一体、この先、どうなってしまうんだろうと思わせる。
患者のやけに愛想のいい笑顔を親切そうな物言いが「絶対に何か企んでるよ」という感じで続きが気になる。
患者は、「セビリアに交換留学生として行ける方法がありそうだ」と嘘をついて付添婦をぬか喜びさせ、弁護士が留守と知っていて会いに行かせ、話が壊れたように見せかけることで、自分に嘘をついた付添婦に報復する。
でも、「結婚して別居していると言えばそれ以上聞かれないからそう言ったけど、本当はずっと独身でした」と付添婦は言ったけれど、それ以外の嘘をどうして彼女が口にしたのか、その説明は最後までされない。
彼女はただ、「辞めさせてください」と言い、それは3週間がたった日のことで、でも最後に患者に「あなたのご主人は浮気ばっかりしていたかも知れないが、最後に看取ってくれる人としてあなたを選んだのだ」ということを伝えて去ってゆく。
最後に、付添婦のバッグに自分の指輪を入れて泥棒の濡れ衣を着せようとしていた患者はそのことを恥じ、指輪は取り戻すけれど、受付に「彼女のバッグを調べろ」と指示したことは取り消せない。
でも、その取り消せなかったことが幸いし、受付で付添婦はバッグに患者の睡眠薬を忍ばせていたことを発見される。
そして、二人は「セビリアの旅行に行きましょう」と空想ゲームを始め、幕である。
多分つまらないことなんだと思うのだけれど、でも、付添婦は何故嘘をついていたのか、それが説明されないのがスッキリしない。
そこを説明しなくて、最後に2人が抱き合い、背景にスペインのタブラオ風の場所が出現し、フラメンコの音楽が流れていることに、何だか違和感を感じてしまう。
ときどき患者の口から語られる孫のビクトルという青年の台詞の数々がとても印象的だ。
若者が年老いて少し疲れてかたくなになった祖母に、「こう生きていけばいいのだ」「こう考えればいいのだ」と語りかけているのが、そんなにできた青年はなかなかいないよと思いつつ、柔らかくて暖かい祖母と孫のやりとりが何だかいい感じである。
だから、余計に演技で見ることになった、患者と娘、付添婦と母という、二つの母娘関係の、闘っているような競っているような、でもお互いのことを考えていないわけではない関係が、何だか悲しい感じがした。
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コメント
ずるりる様、コメントありがとうございます。
私も、同じ感想の方がいらっしゃって嬉しいです。
本当に、あの付添婦は何故うそをついたんでしょう???
そして、ずるりるさんにコメントを頂いてから改めて思ったのですが、患者は何故うそとついた付添婦を何のためらいもなく受け入れていたんでしょう???
本当に、理由が欲しいですよね。
どうぞ、また遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2007.03.08 23:09
初めまして。ずるりると申します。
私も、なぜ、付添婦がウソをついたのか、釈然としない一人です。同じ感想の方が居て、嬉しいです。
投稿: ずるりる | 2007.03.07 23:47