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「恋の骨折り損」
作 ウィリアム・シェイクスピア
演出 蜷川幸雄
出演
ナヴァール側
北村一輝/窪塚俊介/高橋洋/須賀貴匡
藤井びん/大石継太/清水幹生/戸井田稔
岡田正/大富士/沢田冬樹/西村篤
宮田幸輝/新妻大蔵
フランス側
姜暢雄/内田滋/月川悠貴/中村友也
青井陽治/今村俊一/三日尻健太郎/本山里夢
ミュージシャン
笠松泰洋/寺島基文/三浦肇/円能寺博行・小林敦
観劇日 2007年3月17日 午後6時開演
劇場 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール 2階U列25番
料金 9000円
上演時間 3時間10分(15分間の休憩あり)
彩の国シェイクスピア・シリーズの第17弾である。
ロビーではパンフレット(人だかりができていたので値段は確認しなかった)などが販売されていた。「コリオレイナス」のときもそうだったけれど「エレンディラ」のチケットも販売されていた。
渡されるチラシの中に大ホール以外のお手洗いの場所を図面に落とした紙が入っていて、混雑時にはそちらを使うようにアナウンスされていた。今回の公演の場合は特に女性の観客が多かっただろうし、これは親切だと思った。
もっとも、昨日はとてもとても寒かったので、いったん外に出て別の建物のお手洗いに行くというのが面倒で、私は劇場内のお手洗いの列に並んでしまった。
ネタバレありの感想は以下に。
ネタバレありとはいうものの、シェイクスピア作品だからストーリーは有名、なのだろうか。
私は「恋の骨折り損」というタイトルもこのお芝居を見るまで聞いたことがなかったし、もちろんお芝居そのものも初めてみたし、ストーリーなどまるっきり知らないまま見た。
何だか時代背景を変えれば、そのままトレンディードラマ(という言い方も既に古いような気もする)になりそうなストーリーだった。
北村一輝演じるナヴァール王は、窪塚俊介・高橋洋・須賀貴匡が演じる側近の貴族の若者3人とともに、3年間勉学に励み、女は近づけず、粗食を貫き、といった誓いを立てる。
誓いを立てたところに、フランス王からの使者として姜暢雄演じる王女が内田滋・月川悠貴・中村友也演じる侍女3人とともにやってくる。
交渉の内容は領土問題・借金問題のようで、話の中身としては深刻そうなのだけれど、そんなものは話題になることはなく、4人対4人で特に三角関係になることもなくそれぞれの相手を見つけて恋愛ゲームが始まる。
何かでシェイクスピア作品は女優の出番がほとんどないと読んだことがある。
ロミオとジュリエットだって、主要登場人物のほとんどは男、女性はジュリエットとその乳母とロミオとジュリエットのそれぞれの母親くらいだ。
そういう意味では、このお芝居はシェイクスピア作品としては珍しく女優の出番が多いお芝居なのではないだろうか。
それを、あえて男優のみで演じるというのが何だか変な感じだ。面白い。
王女やその侍女を男優が演じるとなると、(長いドレスで見えなかったけど恐らく)ヒールの靴を履き、髪も大きく結って盛り上がっているから、どうしても女性の方が身長が高くなる。時代遅れの感想かも知れないけれど、4カップル全てがそうなっていると、何だかなという感じはする。
ナヴァール王を始めとする4人は「誓いを立ててすぐにその誓いを破るとは」と言いつつ、でも、結構楽しそうに恋に落ち、どうやって口説こうかとこっそり考え始める。
そして、4人が4人とも同じ状態だということが判ると、理屈屋の高橋洋演じるビローンに言い訳を考えさせ、あっさり宗旨替えして4人で共同戦線を張り巡らせる。
フランス王女の一行は、そもそも「誓いのため」に宮廷にも入れてもらえず、草原のテントに迎えられたことに腹を立てているし、その誓いをあっさり破る4人に不信感を抱いている。
それで「これは遊びだ」と割り切って、恋愛ゲームを盛り上げるべく残酷ないたずらを考え出す。
このお芝居は、場面設定は全て屋外として舞台上には大きな木が2本、空間はほとんどその枝で埋まっている。生演奏のバンドがその枝の後ろに隠れ、たびたびラップが飛び出す。やはり上手な人と「ん?」と思う人がいるのはご愛敬だ。
軽く明るい感じで進行するけれど、もの凄くシニカルで皮肉っぽいお芝居にもできるんじゃないか、そもそもはこの「軽く明るい」恋愛にうつつを抜かして大事な交渉などどこ吹く風の彼らを揶揄する狙いがあったんじゃないか、という感じを受けた。
そう思ってしまったせいか、恋愛ゲームだという受け止め方を私がしてしまったせいか、正直に言って、このお芝居(台本という意味)は面白くないんじゃないか、シェイクスピア作品にもやっぱり出来不出来はあるよね、などと不遜なことを考えてしまった。
「理屈屋」の分だけ、高橋洋演じるビローンの出番も台詞も多い。宮廷の人々と、大石継太演じるコスタード(キャスト表には「田舎者」と書いてあるけれど、実際のところはどういう役回りなんだろう)やアーマードーというスペインからの不思議な客人らをつなぐのもビローンだ。
コスタードやアーマードーらを見ていると、「夏の夜の夢」の村人たちのシーンを何となく彷彿とさせる。フランス王女らを接待するために劇も見せているし。
この物語を背負っているのは、高橋洋のビローンと大石継太のコスタードだという感じがした。
最後は、フランス王の訃報が届き、王女らはそれぞれの相手に「(フランス王の喪が明けるまでの)12ヶ月の間、何々をしてください」と告げ、何となく4組とも上手く行って、幕、である。
ぜひ、続きが見たい。
12ヶ月の間、ナヴァール王と3人の側近が王女達の願い通りに暮らせるのかどうか、とても興味がある。
やはり、「王女と侍女」を演じた4人に目が行く。
フランス王女を演じた姜暢雄は、一度、本気で舞台から客席にかけて作られた階段でスカートの裾を踏んだらしくコケかけていたけれど、その後、階段を上る際には「よいしょ」などとわざと聞こえるように声をかけたりして、逆に上手く笑いにつなげていた。
それに、第一、美しい。
内田滋のロザラインは、美しく見せることよりもちょっと道化な感じの役どころで、お化粧もそんな風である。王女になりすますために、花魁のようなぽっくりを履いて慎重さを埋めたりしているのも可笑しい。美しさと女性らしさを追及するのと、女性らしさを見せつつ笑いをとるキャラクターに持って行くのと、どちらが男優さんにとっては演じやすいんだろう。
自然さでは中村友也が一番だったように思う。どうしてそう感じるのだろうと考えたのだけれど、たたずまいでは月川悠貴もとても自然だったし、声としゃべり方なんじゃないかという気がした。
ところで、私の席は2階席の一番前だったのだけれど、開演前に「後ろの人が見えなくなるので、身を乗り出さないでください」という注意があった。
それもその筈で、客席の通路を役者さん達の出入りにかなりたくさん使っていたのだけれど、通路で演技をされてしまうと、普通に座った体勢ではほとんど見えないのだ。これは乗り出したくもなるよ、見えない人がこんなに出てしまう劇場なのにこんなに客席通路を使わなくたっていいじゃないか、と思ってしまった。
もちろん、1階の通路近くの席だったら逆に僅か数メートルのところを役者さんたちが何度も通り過ぎるわけで、そうなったら逆に「これは楽しい」と書いただろうし、我が儘な感想だということは承知だ。
そういえば、どうしてこのお芝居のタイトルが「恋の骨折り損」なんだろう?
最後には何となく4組とも上手く行っているのだし、「骨折り損」ではないような気がするのだけれど。
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