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2007.03.24

「橋を渡ったら泣け」を見る

「橋を渡ったら泣け」シアターコクーン・オンレパートリー2007
作 土田英生
演出 生瀬勝久
出演 大倉孝二/奥菜恵/八嶋智人/小松和重
    鈴木浩介/岩佐真悠子/六角精児/戸田恵子
観劇日 2007年3月24日 午後2時開演
劇場 シアターコクーン 1階D列1番
料金 8500円
上演時間 2時間20分

 ロビーでは、パンフレットはもちろんのことTシャツやポスター、出演者陣が出演していた過去の舞台のDVDもたくさん販売されていた。

 開演前のアナウンスは演出の生瀬さんだった。
 そのアナウンスによると、上演時間は休憩なしの2時間14分32秒らしいのだけれど、カーテンコールもあって、上記のとおりの上演時間だった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 多分、地球がどうにかなって、陸地のほとんどが水没して、たまたま高所にいた人たちだけが助かった。そうした極限状態が続く中で、人間の「集団」はどうなっていくのか、という物語だ。
 舞台は円形の島の周りが陥没しているのか川が流れているのか、とにかく橋が渡してある。橋とは別に、高飛び込み用のような階段と踊り場がその亀裂に向けて立っている。
 橋の向こうには割と広い土地で森もあれば海にも続いているらしいのにその「円い島」が何となく集会場のようになっているのは、そこに水が湧き出しているからだ。

 そこで、八島智人演じるイノウエさんが水を飲もうとしていると、自分たちの仲間ではない、大倉孝二演じるやけに派手というかわざとらしい制服を着た男がやってくる。
 諏訪湖の観光船の操縦士をしていたサダヤマさんが、その観光船に乗って漂着したのだ。
 円い島が砂地になっていることもあって、何だかちょっと「星の王子様」みたいだ。

 そこに暮らす7人が7人になったことにも理由があり、サダヤマさんが4人で残っていた諏訪湖畔から船を出したことにも理由がある。
 シチュエーションから想像できるように、それはあまり思い出したくない記憶のようだ。

 何らかの事件があって、僅かな人々がほとんどのインフラが断絶してしまい食料も水供給もない状態に遭遇した、というシチュエーションは、舞台としては、実は結構ありそうで意外とないんじゃないかという気がする。
 最初は民主的なリーダーだったのに、最初は穏やかに仲良く協力していけると思ったのに、どんどん違う方向に向かって行く。
 見ている内に、本当にこういう成り行きしかあり得ないのかと何だか苦しくなってくる。

 7人が7人になる前、リーダーだった男は、どんどん他の人を殺して行ったらしい。
 その男を断崖におびきだすことで殺した六角精児演じるクリタさんは、最初のうちはもちろんヒーローだったのだけれど、そして彼をリーダーにするに当たっては残った人々がとことん話し合ったのに、どんどん宗教がかり圧迫者となり権力を振るうようになり取り巻きを作り、「ルールが必要だ」と言いつつ自分をルールにしてしまう。

 そのクリタさんに何となく皆、逆らえない。
 鈴木浩介演じる取り巻きのひとりが元缶詰工場(だったか)の社員で彼が食糧倉庫の場所その他を握っているからという理由が大きいのか。岩佐真悠子演じるタナカさんが姿を消しても、その原因はクリタさんにあると思っていても、他の人々は何故かクリタさんに従っている。
 「我慢してやり過ごしていればいいんだ」と思ってしまっているからだ。

 それでも、クリタさんが勝手に開いた裁判に「こんなのおかしいでしょう」と叫ぶ戸田恵子演じるカオリさんがいる。罰としての片付けをサボッたという理由でカオリさんとの離婚を命じられた小松和重演じるアカヤギさんを見て、イノウエさんは力むことなく「それはおかしいでしょう」と言えるのだ。
 このイノウエさんが、何故か「リトマス試験紙」を知らなかったり、難しいことは考えない、判らないことは判らないんだと断言する不思議な感じの人なのだけれど、結局のところ、一番「普通」に近い感覚をずっと持ち合わせているように見える。

 そのイノウエさんを「逆らった」として崖から突き落とそうとしたクリタさんを止めたことで、サダヤマさんがリーダーになる。
 アカヤギさん夫婦は「よかった」と喜んでいるし、サダヤマさんと恋仲になった(というのも我ながら古い言い回しだけど)奥菜恵演じるマチコさんも喜んでいる。
 でも、いつしか、「正しいリーダー」だったサダヤマさんも再び同じ道を辿り始める。

 やっぱりきっかけは「缶詰を隠していた」人がいたことで、弾劾裁判のようになってゆく。
 裁判長という名の独裁者になることに、リーダーと呼ばれるようになった人は抵抗がないのか、進んでそちらに向かうのか、ブレーキが利かない。
 しかも、リーダーの交代は支配する(あるいはそこまで行かなくても強い方の)立ち場の人間を交代させる。そうすると、「今まで苛められていた分取り戻すぞ」という発想に向かってしまうようだ。
 その中で、やっぱりイノウエさんだけは、「これじゃあ、同じことの繰り返しだ」と言えるのだ。
 
 何だか「お芝居の感想」じゃなくて「つぶさに見た人間関係の感想」みたいになってしまっているけれど、お芝居を見ているときにそんなことをつらつらと感じていたように思う。
 私はイノウエさんのようにいられるだろうか。多分、いられないように思う。どうしたらイノウエさんのようにいられるんだろうか。性格か? 訓練か?

 サダヤマさんは、イノウエさんの「同じことの繰り返しだ」という話を「そんな話は聞きたくない」と遮るのだけれど、その日の晩、「自分はもっとおかしな方向に行きそうだ」と言い、そうならないために出ていくことを選ぶのだ。
 ここに着いたとき、人がいるところに来られて、協力して暮らしている人々がいるところに来られて、本当に泣きそうになるほど嬉しかった。それが間違いだったらいけないから、あの橋を渡ってから泣こうと自分に言い聞かせた。
 次に人がいるところに行けたら、今度もそうするだろう。そして今回と同じ轍を踏まないよう努力するんだと言う。
 今ここで努力したっていいじゃないか、と思ってしまう。
 でも、その告白を聞いたイノウエさんも、イノウエさんからサダヤマさんが出ていったことを聞いたマチコさんも、サダヤマさんを追わないのは、このままここに居続けた彼は、彼が言うように危険な存在になると思っているからなんだろうか。

 そして時がたち、やけに気楽なハワイアンな洋服で、人々が再登場する。
 その後、あちこちから人が色々な物資を持って集まってきて、そこは街ができはじめている。
 今日はお祭りで、この街の名前を決めることになっている。
 サダヤマさんが乗ったパンダの外見をした船が遠くに見える。そして幕である。

 MONOの「地獄でございます」を見たときにも思ったのだけれど、土田英生という作家は、この間の物語を書かないことに決めているのだろうか? そこは見ている側が決めることだ、というメッセージなんだろうか。
 「地獄でございます」のときはブラックに終わって、今回は(多分)ハッピーな方向で終わったのだけれど、その間にあっただろう色々は全てすっ飛ばされている。ついつい「説明」を求めてしまう私としては、うー、と唸ってしまう。

 円い島の周りは本当に舞台が低くなっていたのだけれど、私の席からはその底に厚さ50cmくらいのクッションが敷かれているのが見えた。
 なので、実はそこに落とされたり飛び降りたりする人が出てくるんじゃないかと勝手に想像して戦々恐々としていたのだけれど、そんなシーンはなくてほっとした。
 けど、全体としては、苦しいくらいに考えてしまうお芝居だった。

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