「おたのしみ」を見る
「おたのしみ」ラックシステム
作・演出・出演 わかぎゑふ
出演 朝深大介/野田晋市/生田朗子/千田訓子
上田宏/谷川未佳/米倉啓/祖父江伸如
濱﨑大介/小野雄也/橋田雄一郎/森崎正弘(MousePiece-ree)
前田晃男(南河内万歳一座)/宮川サキ(pinkish!)
観劇日 2007年3月28日(水曜日) 午後7時開演 千秋楽
劇場 ザ・スズナリ H列15番
料金 4000円
上演時間 2時間20分
お芝居のタイトルが「おたのしみ」だから、ロビーで「おたのしみ袋(1500円)」が販売されていた。終演後の挨拶によると、このおたのしみ袋の売り上げが帰りの交通費になるらしい。
終演後にパンフレット(1500円)を購入し、恒例の役者さんのサインをいただいた。千秋楽のこの日は生田朗子とわかぎゑふだった。近距離で見ても、お二人ともとても綺麗だった。
千秋楽だったのに、空席がちらほらとあったのが勿体ない。
ネタバレありの感想は以下に。
終戦後、半年たった大阪が舞台だ。
乃木印刷の4人兄弟のうち生田朗子と谷川未佳演じるレイと菊子の姉妹が残って父と3人で暮らしており、野田晋市演じる下の兄稔が帰ってきたところから始まり、上の兄が帰ってきたところで終わる。
この乃木印刷所の一家を主人公に戦後の5年間を描いているのだけれど、乃木一家と同じくらいにこの舞台上を闊歩しているのが、日系二世のアメリカの軍人達だ。
稔が、橋田雄一郎演じる篠原平蔵という友人が持ってきた、「マッカーサー元帥の誕生祝いのケーキのデザイン」をするところから話が始まる。
それが評判になり、ケーキを作った千田訓子演じる三好楽子や、平蔵にケーキの話を持ち込んだ前田晃男演じるGHQ将校のダニエルやその友人である上田宏演じる木元乙吉との交流も始まる。
東京裁判で絞首刑となった首相の家族から肖像を描いて欲しいと頼まれ、稔は東京に出かける。
朝深大介演じる中畠という画家から、小説の挿絵の仕事を引き継ぐことになる。
今頃になって、このお話は「復員してきた稔の5年間」の話だったんだと改めて思う。
一家の中心に父がいるのは当然として、この物語では話の中心にいて動かないのは多分、菊子だ。彼女がいるから、稔の物語というよりも乃木一家の物語になっているように思う。
画家として稼ぐようになった稔は、首相の息子を連れてきた日系二世のトニー・溝口がスパイ容疑で逮捕され、彼が稔の名前と住所を書いたメモを持っていたことで拘束される。「他にどんな絵を描いたんだ」と責められる。
稔は正直に答えて「ちゃんと調べろ」と怒るけれど、心配している家族が思い出すに、東京に仕事に行ったことも、「右より」とされている画家と付き合いがあったことも、全て事実なのだ。
「アメリカで必要なのは、心情ではなくて証拠だ」という、木元乙吉の台詞が何だか耳に残る。
稔が戻ってきて、楽子と結婚し、やっと父に認めてもらったダニエルとレイだったけれどダニエルが朝鮮戦争に行くことが決まる。
稔が描いた兄の絵を見た人から、シベリアで一緒だった、彼は生存しているという手紙が届く。
ダニエルのお別れパーティーの日、稔は「また、身近な人間が戦争に行く」ことに疲れているように見えるけれど、楽子と彼女のお腹にいる赤ちゃんが彼の「おたのしみ」だ。そのことに気がついて気を取り直す。
兄が生きているという手紙を母の仏壇に供えようと全員が奥の部屋に入って印刷所は空っぽ、そこに等の本人が帰ってくる。そこで幕である。
戦争に行って帰ってきてGHQに拘束されて解放された稔が話の中心にいて、楽子やダニエルら日系二世が語る「戦争中のアメリカの日本人」がもう一方で登場しないながら話の向こうにいて、でもやっぱり乃木一家のお話なんだな、と思う。
わかぎゑふは、パンフレットに「誰も悪くないという設定に挑戦してみたかった」と書いている。今まで、誰か悪い人がいるという設定があったかな、と少し考えてみたけれど、思い浮かばなかった。多分、「悪い」ということの意味というかとらえ方が違うんだろうと思う。
5年間という時間の流れは、乃木一家が語る話題と状況とラジオから流れている歌と衣装とで表される。
終演後の挨拶でわかぎゑふが「千秋楽は遊んでもいいよと言ったら長くなってしまった」と言っていたけれど、確かに、例えば中畠がお土産の画集にサインをするシーンなど「千秋楽を見に来てくれてありがとう〜」などと絶叫していたし、明らかに「遊んで」いる。
でも、ラックシステムのお芝居だと何故かそれがすんなり楽しめてしまうのが我ながら不思議だ。
どちらかというと、「いつものお芝居がどんな感じなのか、このお芝居はどんな感じなのか、判らないじゃないか!」とか「いきなり現実世界に戻されたら興ざめじゃないか!」とか思うことが多いのだけれど、何故なのか一緒になってケラケラ笑って楽しめる。
一方で、そうやって他の役者さんが遊んでいる中、物語を背負っているという責任感からなのか、野田晋市があくまでも「稔」として苦虫をかみつぶしたような顔で話を進めようとしているのが印象に残っていることも確かだ。
ぎゅうっと「何か」が詰まった濃密な空間と時の流れの中にいられて、とにかく嬉しかったし楽しかった。
パンフレットに載っていた、それぞれの登場人物の「その後」も楽しかった。できれば、パンフレットを購入しなくても、その部分だけでもお芝居の一部と考えて観客全員が共有できるといいのに、と思う。
アンコールで、ここのところ大阪の劇場が相次いで閉鎖された関係で東京公演もなかなかできなかったけれど、また少しずつこちらにも来るようにしたいと言っていたのが、とても楽しみだ。
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