「妻の家族」を見る
「妻の家族」ラッパ屋
作・演出 鈴木聡
出演 木村靖司/おかやまはじめ/福本伸一/弘中麻紀
岩橋道子/三鴨絵里子/俵木藤汰/大草理乙子
宇納佑/熊川隆一/岩本淳/中野順一朗
観劇日 2007年3月31日(土曜日) 午後2時開演
劇場 紀伊國屋ホール C列14番
料金 4500円
上演時間 2時間30分
フリーで配られるチラシ(というのか。配役や役者さん達の今後の予定や演出家からの一言などが書かれている)に、何故か役者さん全員の生年月日が明記されていた。珍しいことではないか?
ロビーでは過去作品の上演台本や、鈴木聡演出の舞台のDVDなどが販売されていた。このお芝居のパンフレットを見かけなかったような気がするのだけれど、気のせいかも知れない。
ネタバレありの感想は以下に。
泣いて笑って楽しかった。
ラッパ屋というと、シアタートップスのあの空間にぎゅっっとセットを作り込んでお芝居も濃密に作り込んでというイメージが強く、紀伊國屋ホールではどんな感じになるんだろうと思ったら、何故か舞台が高い。
せっかく前から3列目なのにこんなに舞台が高いのは何故だろう、却って見えにくいじゃないのと思っていたのだけれど、その理由は「水」だった。
武蔵野の元地主のお宅の中庭に面した部屋と離れへの廊下という設定のセットはやはりぎゅっと紀伊國屋ホールの舞台に詰め込まれていて、中庭には金魚が泳ぐ池がある。
舞台の高さは、何度も何人もが池にはまるたびに上がる水しぶきをできるだけ客席に飛ばさないためだったんだろう。高い分、床(設定では渡り廊下)に直接座っての演技が多かったので、「高すぎる」とか「見にくい」ということはなかった。
そのぎゅっと詰まったセットに、これまたぎゅっと人間関係が詰め込まれている。
6人兄弟で、男2人は独身、4人の姉妹はとりあえず全員伴侶がいる。「とりあえず」が付くのは、結婚している者あり、入籍したばっかりの者あり、恋人あり、内縁の妻ありだからだ。
どうして女兄弟にだけ伴侶がいるんだ? と考えて、「妻の家族」だからだ、と妙に納得した。
きっと、これが「夫の家族」だったら、こういうお芝居にはならなかったんだろうな、という気もした。
6人兄弟の母は病気で寝込んでいて、その母は3回結婚して、それぞれの夫との間に2人ずつの子どもがいる。
この別れた夫2人も何故かこの家にいて、お風呂に入ったりしている。この2人がどうしてこの家にいるのか、そういえば最後まで理由は判らなかった。
このスーパーな母自身が打った「母危篤」の電報で久しぶりに6人兄弟が集まるところから物語が始まる。
この三田村家の人々がまた、色々な人々である。
色々な人々なのだけれど、長男と次男を除くと何故か一点だけ共通項がある。
それが、「少なくない額の借金がある」ということである。
この借金の理由もまた色々あって、別れた夫2人はそれぞれが儲け話に手を出してあっさりとお金を騙されていたり、投資に失敗して借金をまだ返し終わっていなかったりしている。娘たちも、長女は18歳若いストリートミュージシャンの恋人のCDを出すという詐欺話に乗ってお金をだまし取られており、次女はパチスロにはまり(そういえば、この次女の借金額だけは最後まで不明だった気がする)、三女は内縁の夫が二束三文の茶碗の鑑定を間違えて1000万円払わなくてはならない羽目に陥っており、四女はホストクラブに通い詰めて借金を作っている。
色々な人がいるのだけれど、よくよく考えると似ているような気もする。
どちらかというと、長女の恋人のストリートミュージシャン、次女の夫の脳科学者、三女の内縁の夫の脱サラした骨董商、四女の夫の登校拒否の小学校教師と、「妻の姉妹の夫たち」の方がバラエティに富んでいる気もする。
それはともかく、お金に困っている人々は、母と暮らしている長男に「家を売らないか」「家を担保にお金が借りられないか」という話を持ちかけ、怒り狂った長男は自転車旅行に出かけ、雷に打たれて亡くなってしまう。
後半は、ほとんど全員が喪服姿、お通夜とお葬式の舞台裏となった家が舞台だ。
それでもお金の話は続くし、家を売る話はますます続く。ふっと「悲しゅうてやがておかしき」なんていう言葉が浮かんだりした。
四女が、姉たちの「ドン引きされるよ」の忠告を振り切って、イタリア旅行で睡眠薬を飲まされ腎臓を取られた話を、結婚したばかりの夫にする。
そりゃあ、引く。
でも、「顔を洗ってくる」と言った夫が帰ってきたとき、「自分のマンションを売ってみなさんにお金をお貸ししますから、この家にみんなで住みましょう。」と言う。
その彼にお礼を言う次女の表情があまりにも何もなくて、のっぺらぼうに見えて、何だかちょっと怖かった。
鯨幕がかかった家に長男が帰ってくる。
当然、彼は自分の母親の葬式が行われているものと勘違いする。
川縁で温泉を見つけ、荷物を放り出して温泉に入り、出てきたら全ての荷物がなかったのだと言う。雷に打たれて亡くなったのは、長男ではなくその泥棒だったのだ。
その長男を発見するのが四女の夫で、その義理の父親と一緒に驚き慌てふためき喜ぶ。
長男のお葬式は、もちろん中止だ。
四女が「本当に自分でいいの?」と聞いて、がばっと2人が抱き合ったところで幕である。ここ、音楽と合わせるのが大変だったろうな、と余計なことを考えてしまった。
泣いたし笑った。濃密に作り込まれた、充実したお芝居を見た、という感じがしている。
最後には長男も帰ってきたし、何だか色々なことが上手く行きそうである。
でも、何だか「ハッピーエンドを見た」という気がしないのは何故なんだろう。あまり嬉しくはない「お金の話」が多かったからなんだろうか。
この一家の母(母は全く姿も声も現さないのだけれど、このシーンだけ唯一、加藤治子が声だけ出演している)が、長男のお通夜で「たまに帰ってくる娘たちは幸せそうには見えない」「自分の結婚も3回とも、そのときはよかれと思ったけど、幸せではなかった」「幸せなんてことはないんじゃないだろうか」と挨拶するのが何だか哀しかったからだろうか。
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