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「ジューゴ」TEAM発砲・B・ZIN 15周年記念&解散公演
作・演出・出演 きだつよし
出演 平野勲人/工藤潤矢/小林愛/武藤晃子
西ノ園達大/森貞文則/伊波銀治
福田千亜紀/大橋夢能
観劇日 2007年4月14日(土曜日) 午後2時開演
劇場 本多劇場 M列8番
料金 4500円
上演時間 1時間45分
開場とともにロビーに入ったら、物販のテーブルがあっという間に人だかりになった。パンフレット(1200円)や、Tシャツ、15周年記念DVDなどが販売されていたようだった。
客席はほぼ満席だった。流石は解散公演と思っていたら、カーテンコールの挨拶で、きだ氏が「平日公演はガラガラです。ガラガラは言い過ぎか?」などと言っていた。終演後、ロビーでは平日限定でチケット販売が行われていたので、余裕があるのは確かなようだ。勿体ない。
公演2日目にしてトリプルコール、それでも劇場を出たのが午後3時45分だったから、相当テンポ良く芝居が進んだのだと思う。
ネタバレありの感想は以下に。
解散公演なのだけれど、カーテンコールできだつよしが「自分たちも解散公演だという実感が湧いていない」と言っていたとおり、湿っぽくもなく、「集大成」っぽい感じもないところが、とても好印象だった。
「笑って泣けるヒーローもの(ただし、今回は割と「全員がヒーロー」的な色は多少ある)」健在、というところだろう。
最終戦争後のそこでは、何だかよく分からないけれど、特別な銃を手に入れれば全てが上手く行くことになっているようで、その銃を巡って熾烈な争いが繰り広げられている。
と始まった割に、何故だか登場人物はいかにも「ロールプレイングゲーム」なヒラヒラだったりキラキラだったり色で区別してます的な衣装を着ている。しかも、撃たれた人はインベーダーのような動きで撃った人の家来になっている雰囲気。始まった途端に何だか変だ。
そこはバーチャルゲームの舞台で、「最終戦争後の世界」とか、「銃を巡って熾烈な争い」とか、ベレッタやスミス&ウェッソンなど銃の名前が登場人物の名前に使われていたりとか、全てそういう設定の「ゲーム」で、何とかゴーグルをつけて意識だけをバーチャルゲームの世界に飛ばしている、ということなのだった。
小林愛演じるベレッタがそのガイド役、きだつよし演じるコルトは、実社会ではベレッタの兄で妹の仕事ぶりを見させられるべくこのゲームの世界に入り込んでいる。
その他の8人は全員が判っていて入り込んだ、「ゲームの登場人物」だ。
予定調和のゲームの世界で登場人物になりきっていられたのもつかの間、システムがハッキングを受けて故障し、ゲームの登場人物ではない謎の男(「ナイトメア」と名乗って脅迫状をゲーム主催会社に送りつけたらしい)が現れてガイドだけが持っている現実世界との通信手段を壊してしまう。
取り残された登場人物たちだけれど、ゲームの最終目標である「特別な銃」を手に入れ、それで人工衛星を撃てば、それがそのままゲーム終了の合図になり、システムが壊れていてもゲームの世界から現実世界に戻れるかも知れない、ということになる。
「その手があったか」と思ってしまった。
最終戦争後の世界という設定を嘘っぽすぎるゲームの世界とすることで、逆に何でもありな感じが漂う。そういう説明をされても、「ゲームの説明」だと思えば受け入れやすい。
でも、もちろんずっとゲームの世界にいたらお話は進まないわけで、結局のところ、「10人の人間の集団の話」と「10人それぞれの話」が展開してゆく。
組長の息子とその守り役、破産寸前の居酒屋チェーンの女社長とその秘書、気の弱そうな男と結婚したいクラブの女、漫画の登場人物になりきっている男、ギターをかきならすよく分からない気障な男、ガイドとその兄で総勢10人だ。
女社長は「現実に戻りたくない」と、その「特別な銃」を奪い逃げ出す。
でも、その「特別な銃」も、ガイドだけが持っている「ちょっとだけリセットできる銃」も、仮面を被った謎の「ナイトメア」男に取り上げられ、それぞれ勝手なことをしていた登場人物たちも何となくまとまりだす。
追い込まれたときに人は協力するのではなく「少しでもましなところ」を目指すのねとか、ガイドのお姉さんがとにかくみんなをまとめようとするのはやはり「勤め人」としての役割のためなのかしらとか、人間が共通の敵に対しては団結するというのは本当かも知れないとか、少しだけ斜めな感想も浮かぶのだけれど、多分それはTEAM発砲・B・ZINのテーマとするところではない、と思う。
「私の中にあなたはいます」と全然別の意味で言ったガイドの台詞から突然「現実」の恋に目覚める男とか(彼はその後、ことあるごとにクネクネして可笑しい)、居酒屋チェーン黒木屋のテーマを歌って踊る社長と秘書とか、微妙な可笑しさをちりばめつつ、悪人は出てこないけど勧善懲悪のヒーローものを楽しんだ者勝ちという気がする。
ギターの男が実は会社側がハッキング調査のために送り込んだスパイ(?)だったりとか、彼が時々ナイトメアの振りをしていたりとか、何でそんなややこしいことするんだ! な経緯を経て、大人しそうで大人そうだった男が実は、このゲーム世界の元となった漫画の作者だということが判る。
しかも、このゲーム世界は自分が描きたかった漫画、「人のたくましさを」描いた漫画の世界ではないと、ハッカーを依頼して、自分が中に入り込んでいる今、壊そうとしているのだと告白する。
それを、ガイドが止める。
この世界は楽しく撃ち合うための世界なんだと、そこで遊んでいる人たちは自分にはたくましく見えると、そういう意味のことを言ったように思うのだけれど、私の記憶違いだろうか?
この辺りは、私がロールプレイングゲームをやったことのない古い人間のせいなのかも知れないけれど、もの凄く違和感があった。そうか? 「楽しく撃ち合う」ってそんなに肯定されるべきことなのか? という気がした。
それでも、「この世界はバーチャルだけれど、ここで感じたり考えたり行動したりしたことは本物だ」と必至に訴えるガイドに、何となく説得されて話は進む。
彼女がいなかったらこの世界は成立しないよな、他の人に言われたら今の台詞で納得はしないよな、と思った。
小林愛の面目躍如といったところだ。
ナイトメアの正体はウィルスでマイナスの思念を食べて動いていると言われると「うーん」と思うけれど、正体が何であれナイトメアを退治して、ゲーム終了の合図を無事に送り、バーチャルゲームから全員が現実世界に戻ることになる。
大団円だ。
一人ずつ浴びていたスポットを消されることで、現実世界に戻ってゆく。
その戻る前に一人一人が取るポーズや合図と、舞台真ん中の一番前で正面を向いている小林愛のリアクションが(見えていない筈なのに)見事に合っているのが何だか気持ち良かった。
私が「TEAM発砲・B・ZIN 」のお芝居を見たのはかなり前のことで、そのおぼろげな記憶からすると、メンバーも変わっているし、ずっといるメンバーにしても何だかとっても感じが変わった役者さんとあまり変わらない役者さんとがいる。
いずれにしても、この10人が演じる「大人が笑って泣けるヒーローもの」がもう見られなくなってしまうのは本当に残念だ。
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