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「サムシング・スイート」
作 中谷まゆみ
演出 板垣恭一
出演 星野真里/辺見えみり/山崎樹範
井端珠里/金子昇
観劇日 2007年6月23日(土曜日) 午後3時開演
劇場 パルコ劇場 Z列15番
料金 6800円
上演時間 2時間
ついパンフレット(1200円)を買ってしまった。
今回はストライクじゃなかったけど、やっぱり作・中谷まゆみ、演出・板垣恭一のコンビは好きだ。
ネタバレありの感想は以下に。
5年前の交通事故のシーンが幕開けで、本編はその5年後から始まる。
花火大会の夜、辺見えみり演じるアケミに「何か甘いもの」を頼まれてコンビニに買いに行った星野真里演じるカオリは車にひき逃げされ、以降は車いす生活をしている。
5年の間に、アケミは当時の夢だったケーキショップ「サムシング・スイート」のオーナーになり、カオリは事故のことを綴ったエッセイがベストセラーになり、でもその後の小説は売れていないようだ。
私が見ながら思っていたのは、「サニーコースト・セレナーデ」で「遅れてきた女の子」を演じていた可愛い星野真里はどこへ行っちゃったの! ということだった。
「お父さんの恋」といい、この「サムシング・スイート」といい、気の強い、ちょっと性格が悪そうな一癖も二癖もある女の子を演じることが多いのは気のせいだろうか。
一方の「アケミ」は、最後の方に気がついたのだけれど「優等生」という設定のようで、配役が逆の方がしっくり来たかも知れないなどと思ってしまった。
幕開けのシーンから、アケミがカオリの婚約を喜んでいないのはありありとしていて、でも事故がきっかけでその婚約は解消されたようで、アケミがカオリの「面倒を見る」という形で同居している。
女同士の友情なんて、という感じがするのが、ちょっと居心地が悪い。
カオリの悪口雑言も居心地の悪さを助長しているのだけれど、どうもアケミが付き合っている山崎樹範演じるケイスケが気に入らず、ケーキ職人兼経理担当のケイスケがケーキショップのお金を横領していることを知り、アケミが若い男の子と浮気していることを知り、「アケミのため」にケイスケを嫌っているフシもある。
カオリの小説の読者だという金子昇演じるミチヒコが現れる。
これがまた、妙に爽やかで好感度100%みたいな青年(という言い方も考えてみれば古いような気もするけど)で、カオリと付き合い始める。
アケミの30歳のバースディパーティに「懺悔ゲーム」をしても、「悪いことなんてしたことないから思い当たりません」みたいな顔をしつつ、でも「ここではとても言えないような酷いことをしている」と言う。
そのひとつが、このときに現れた「ミチヒコの婚約者だ」と名乗る井端珠里演じるレイコという女の存在だったんだろう。
そのことが判っても、ミチヒコの「好青年」ぶりは続く。
その好青年振りを見ながら「ぜーったい、こんな好青年なだけの奴がいる筈がない」と思っていた私はひねくれているのか。そもそも「いる筈がない」のは舞台の上のことなのか、世の中にということなのか、我ながらよく判らない。どちらだと思っていたんだろう。
とりあえず、舞台の上のことでは当たっていて、ミチヒコとカオリが同棲を始めようというその日、レイコによってミチヒコが実はカオリをひき逃げした犯人だということが知らされる。
そう来たか。
ミチヒコは、ひき逃げをしたこと、ひき逃げの被害者であるカオリを取り込めば逮捕されるようなことはないだろうと考えていたこと、この先はレイコとカオリとの間で二重生活を送るつもりでいたことをぶちまける。
それでも「通報しない」というカオリ。この前日でひき逃げの時効5年が成立していたのだという。
アケミの誕生日の夜、「雷がトラウマになっていたんだな」というミチヒコの一言で、ミチヒコがひき逃げ犯だということが判った、でも「恋愛」の気分をもう少し味わっていたかったんだというカオリが、何だかやけに羨ましかった。
ミチヒコは「自分は1年間ロンドンにいたから時効は成立していない」と、自首すると去ってゆく。
カオリが時効成立の日まで待ったから、ミチヒコは自首する、何だかやりきれない感じもする。
カオリは「ミチヒコは嘘をついていた」と言い切る。
彼は嘘をつくときには髪を触るのだという。
確かに、2人がそんな会話を交わすシーンはあったのだけれど、「嘘をつくときに出る」というその癖が私には気がつくことができなかったので、この最後のシーンでも「ミチヒコがついていた嘘はどの部分か」が気になって、パンフレットを買ってしまった。
帰り道、多分、ミチヒコの嘘は「レイコが好きだ」という部分じゃないかと思い当たったのだけれど、それで正解だろうか。
ミチヒコが去り、横領がバレたケイスケも去り、アケミの家にはアケミとカオリが残っている。
ミチヒコと同棲するつもりで荷物の運び出し準備も整っているカオリが本当にアケミの家を出て行くのか、ケイスケは本当に去ってしまったのか(カオリが言うように、私も次の日にはしらっとしてやってくるんじゃないかという気がした)、ミチヒコはカオリのところに戻ってくるのか(カオリは「終わったことだ」と言っていたけれど)、色々な「この後」が気になる終わり方だった。
でも、カオリが「恋愛っていい」と晴れやかな表情だったから、多分、5cmくらいは浮上したラストシーンだったんだろう。
ここまで書いて思ったけれど、私はどうもアケミではなくカオリに感情移入してこのお芝居を見ていたらしい。
カオリの不幸を願ったらそれがそのまま現実になってカオリは婚約破棄・車いす生活になり、そのことに責任を感じて彼女と同居し、ケーキショップを経営して修業時代から一緒だったケーキ職人のケイスケと結婚しようとしているけれど実は若い男の子とも浮気しているというアケミの方がドラマチックな5年間を過ごしているし、このお芝居に何か一本の筋を通しているのはカオリではなくてアケミの方だと思うのだけれど、我ながらアケミの方に感情移入しなかったのが不思議だ。
いずれにしても、「サムシング・スイート」というよりも「サムシング・ビター」な物語だと思うけれど、でも、やっぱりこの2人の作るお芝居は大好きなのだった。
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コメント
都弥乃さま、コメントありがとうございます。
「サムシング・スイート」は、ネットで色々な方の感想など読んでいると、みんながみんな絶賛しているわけではないようですが、私は結構好きな感じでした。
都弥乃さんもぜひ!
そうですね。そういえば、「お父さんの恋」の池田成志さんのような、ある意味「完全お笑い担当」みたいな役柄の方はいなかったように思います。みんながそれぞれの物語を背負っているという感じでした。
投稿: 姫林檎 | 2007.06.26 22:22
これ、お知らせが来ていたのですが、
色々忙しい時期だろうと思って、スルーしちゃいました。
姫林檎さんの感想を読んでいるだけでかなりグッと来た!
今回は、「お父さんの恋」でいうところの
成志さん的な笑い担当はいなかったのでしょうか??
投稿: 都弥乃 | 2007.06.25 22:28