« 「恐れを知らぬ川上音二郎一座」の抽選予約に申し込む | トップページ | 「夜の姉妹」を見る »

2007.07.29

「砂利」を見る

劇団ダンダンブエノ 双六公演「砂利」
作 本谷有希子
演出 倉持裕
出演 坂東三津五郎/田中美里/片桐はいり/酒井敏也
    山西惇/近藤芳正
観劇日 2007年7月29日(日曜日) 午後2時開演
劇場 スパイラルホール 11列17番
料金 6500円
上演時間 2時間10分

 パンフレットやTシャツ、これまでの上演作品のDVDなどがロビーで販売されていたけれど、まあいいかと思って近づかなかったので値段等は不明である。
 客席に着物姿の方がちらほら見えた。坂東三津五郎出演というのはこういうことなのだ、という感じがした。

 ネタバレありの感想は以下に。

 正直に言って、本谷有希子作ということで、今まで彼女の作品を1回も見たことがないのに、何の根拠もなく、きっと後味の悪い不条理劇なんだろうと思っていた。
 始まってからも、確かに何故か庭に砂利を敷き詰めた家で、夜中に意味なく石を投げる坂東三津五郎演じる「ハスミダちゃん」の姿は何となく気味が悪いけれど、でも、それほど変ではない。

 小学生の頃に苛めた女の子が復讐に来るという思い込みも、そんなに変だとは思わないのだけれど、そう思い込んでいる「ハスミダちゃん」と一緒になって怖がっているうちに、本当に復讐に現れるんじゃないかと思い始める田中美里演じるユウリも、妙といえば妙だけど、引きずられやすい人というだけの気もする。
 田中美里の衣装は、何着あったのだろう。細くてすらっとしていて、何を着せても似合います、という感じが羨ましい。白い上着にフォークロア調の黒いスカートの衣装が好きだった。

 生まれてからずっと頭痛がしていて、その痛みを箱にしまい続け、痛みが詰まったその箱をどこかに隠さなくてはと隠し場所を探して屋敷の中に入り込んでしまう酒井敏也演じる男。劇中ではもちろん名前があったのだけれど、配役表がなかったのと、よく聞き取れなかったのと、夜に別のお芝居を見てしまったのとで私の頭に残っていない。申し訳ない。
*nakaziさんに役名を教えていただきました。彼は「コモリバシ」です。
 ともかく、古びた箱を持って始終うろうろしている。
 妙といえば妙だけれど、コモリバシは劇中で「どこでも町内に一人はいるよね、ああいう人」で片付けられてしまう。

 「ハスミダちゃん」ちに居候している山西惇演じる男(劇中ではもちろん名前があった。書けない理由は同上)が一番怖いといえば怖かった。
*nakaziさんに役名を教えていただきました。彼は「トドコロ」です。
 自分の退屈を紛らわすためだけに、できるだけそっとしておきたいところに乱を起こして楽しんでいるように見える。こういうタイプが一番怖い。
 でも、登場の怖さに比べて、その後は特に大事件を起こさない。何だか物足りないくらいだ。

 片桐はいり演じるユウリの姉のキワは「大きい」ということになっているのだけれど、田中美里とそれほど身長は変わらないように見える。というよりも、男優陣、特に坂東三津五郎が意外なほど小柄なのだ。
 一見インパクトのある外見をしているけれど中身は普通のキワと、一見して器量よしなんだけど実は中味がとっちらかっているユウリは対照的な姉妹だ。
 しかも、このキワが「ハスミダちゃん」がいじめていた張本人の女の子で、しかもいじめられたことを忘れているという。

 近藤芳正演じる「ハスミダちゃん」の弟が、妙に物堅くて義理堅くてキリキリピリピリしているから、さらに話がややこしい。
*nakaziさんに役名を教えていただきました。彼は「タカオ」です。
 しかも、タカオは大活躍で、昔は全裸でその辺りを走り回ったりしていたらしいし、キワをいじめていたのも実はこのタカオで、ユウリを好きだったのもタカオで、「ハスミダちゃん」当てに血文字の「あけましておめでとう」の年賀状を送っていたのもタカオなのだという。

 でも、タカオも別に極悪人というわけでもなくて、介護していた父を亡くしてから空っぽになってしまったような兄を空っぽにしないために、自分の感情がいつの間にか兄の感情になることを受け入れ、兄を空っぽにしないために「復讐される」という妄想を補強するようにしてきたらしい。

 全体として歪んでいるのだけれど、でも何だか日常の範囲、という印象を受ける。

 最後は、妄想を補強するようユウリに頼まれたキワが、ハスミダちゃんを憎もうとして理由もなく憎むこともできず、愛してしまえばいいんじゃないかと2人は寝てしまう。
 それをコモリバシとトドコロの男2人が床下と2階から盗み聞きしている。
 キワは「ユウリにだけは言わないでくれ」というのだけれど、何故だか場の雰囲気は「キワの最終目的はこれだったのだろう」ということになってゆく。

 介護している父に「おまえは空っぽだ」と言われ続けたハスミダちゃんは、自分が弟の感情を横取りしていたことに気づく。
 どんどん空っぽになってゆくハスミダちゃんにユウリは「あなたを裏切っていた。お腹の子の父親はあなたじゃない。トドコロだ。」と叫ぶ。
 ハスミダちゃんは怒ろうとしてトドコロに日本刀で斬りかかり、でも実際に怪我をしたのはコモリバシで、「これしか謝る方法がない」と復讐しにきた女を演じ始めたキワは何故かハスミダちゃんではなく妹に鎌で襲いかかる。

 でも、この後、全員で砂利の地面を踏みしめ始める。
 何らかのカタルシスがあったのかも知れないけれど、正直に言って、この辺りの展開はもうよく判らなかった。気味が悪いのではなく、判らない。

 それから(多分)数ヶ月後、登場人物全員は穏やかに屋敷で暮らしているようだ。
 赤ちゃんも生まれている。
 赤ちゃんを抱っこしたハスミダちゃんが(多分)出来心で、「痛みが詰まった」箱を開けてしまう。中味は空っぽだ。最初の頃のシーンでは箱を振ると音がしていたように思うのだけれど、気のせいだろうか。
 「箱を開けたって何も起こらない」と安心したところに、雪が落ち、照明が変わる。
 そして幕である。

 多分、この後は、大変なことになるのだろう。
 そう思わせる終わり方だった。

<2007年7月30日追記>
 コメントでnakaziさんから、私が聞き取れなかったりすっかり忘れ果てていた登場人物の役名を教えていただいたので、本文中にその旨を注記し、合わせて訂正しました。

|

« 「恐れを知らぬ川上音二郎一座」の抽選予約に申し込む | トップページ | 「夜の姉妹」を見る »

*芝居」カテゴリの記事

*感想」カテゴリの記事

コメント

 nakaziさま、コメントありがとうございます&ご無沙汰しております。

 28日の公演では、「大和屋」という声までかかっていたんですか。それは凄いですね。芝居の雰囲気を壊さないよう、最後の役者紹介でだけというところに、上品さを感じます。
 私が見た公演では、確かそういう声はかかっていなかったと思います。

 酒井敏也さんの役名は「コモリバシ」でしたか・・・。もしかして1回も聞き取れていなかったかも・・・。近藤さんは、田中美里さん演じるユウリが「弟!」と呼んでいたので、すっかり「弟」としか認識していませんでした(笑)。
 感想の本文の方も直しておきました。ありがとうございました。

 「ひーはー」と「エンジェル・アイズ」楽しみですね。どちらも西部劇!
 またぜひ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2007.07.30 23:43

姫林檎さま、ご無沙汰しております。
コンフィダントのチケット記事にコメントさせていただきました、nakaziです。
「砂利」、私も前日の土曜日に観て来ました。
「痛みが詰まった箱」、確かに最初に箱を振った時は音がしていたと思います。
私は2列目での観劇だったのですが、1列目の方たちの足元には時々砂利(というより、石でしたが…)が飛んできていました。
私の後方に三津五郎さんファンなのか関係者の方なのかわかりませんが、三津五郎さん熱唱の場面では大きな拍手で迎え、最後の役者紹介では「大和屋~」と掛け声もとび、なんとも義理堅いなぁ~などと感心してしまいました。
歌舞伎では普通の事なのでしょうが、私には歌舞伎の観劇経験が無いので、ちょっと新鮮でした。

それとこれは余計なことかもしれませんが…
酒井さんの役名はコモリバシ。山西さんはトドコロ。そして近藤さんはタカオ。でした。

今後、私も「ひーはー」と「エンジェルアイズ」を観る予定です。
感想、楽しみにしています。

投稿: nakazi | 2007.07.30 00:17

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「砂利」を見る:

« 「恐れを知らぬ川上音二郎一座」の抽選予約に申し込む | トップページ | 「夜の姉妹」を見る »