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2007.07.01

「THE BEE」を見る

NODA・MAP番外公演「THE BEE(日本バージョン)」
原案・原作 筒井康隆
劇作・脚本・演出・出演 野田秀樹
出演 秋山菜津子/近藤良平/浅野和之
観劇日 2007年6月30日(土曜日) 午後7時30分開演
劇場 シアタートラム B列5番
料金 6500円
上演時間 1時間15分

 2日連続で三軒茶屋に行ってしまった。
 ロビーではパンフレット(800円)や、ロンドンバージョンのチケットを販売していた。

 もらったチラシによると、NODA・MAPの次回公演は「キル」の再演で、主演は妻夫木聡と広末涼子だそうだ。見たいと思うけれど、でも、うーんと唸ってしまった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 もの凄く後味が悪いお芝居だという感想をどなたかのブログで読んで記憶があって、自分では覚悟していたつもりだったのだけれど、本当にそのとおりだった。
 B列が最前列で、遮るものが全くなく、舞台をダイレクトに受け取ってしまう感じだったのも一因かもしれない。例えば、最後列で見ていたら、シアタートラムはかなり小規模な劇場だけれど、でも違っていたような気がする。

 冒頭、昭和歌謡曲が流れる中、舞台に幕はなく、背景から床に続けて大きな紙が吊られ、敷かれている。
 その紙の色が黄色というかクリーム色で、何となくお盆のしつらえを思い出したのだけれど、そういう意図ではなかったようだ。
 普通に歌謡曲が流れる中、野田秀樹演じるイドさんが登場し、舞台が始まる。
 そして、いきなり「バスッ」と秋山菜津子・近藤良平・浅野和之の3人がセットでもある紙に拳で穴を開けたところで、「あぁ、そういう方向に行くのだな」という感じがした。

 野田秀樹演じるイドさんだけは一貫してイドさんだ。
 普通に自宅に帰ろうとしたところ、彼の家に脱獄した殺人犯が立てこもり、妻子を人質に取っているのだと浅野和之演じる警部補に説明される。
 その警察のあまりの無策ぶりに、イドさんは、近藤良平演じる脱獄犯の妻の家に行き、彼を説得するように頼もうとする。

 秋山菜津子演じる妻を説得できなかったイドさんは、ここまで連れてきてくれた警官を殴って拳銃を奪い、黄色い帽子を被ることでいきなりその子どもになった近藤良平と妻を人質に立てこもる。
 そして、自分の家に立てこもっている犯人と交渉させろと警察に要求する。
 「普通の被害者は演じられなかった」というイドさんの台詞が怖い。この人は、常に何かを「演じる」ことが人生だと思っているのではなかろうか。

 その後、イドさんのやることはどんどんエスカレートしてゆく。
 脱獄犯の妻を犯し、子どもの指の骨を折り、指を切り落として脱獄犯に届けさせる。
 その「指」は、指に見立てた鉛筆を実際に折ったり、包丁で切ったりする。
 「鉛筆だ」と判っていても、直視できなかった。

 そして、イドさんの様子や表情を見ていて、私はこういう人を知っている、という気がずっとしていた。
 こういう風に、一見すると普通にいい人で、どちらかというと大人しい控えめな感じで、どちらかというと怜悧な感じで、でも考えていることがどこかおかしな、狂気にとらわれている人がもの凄く身近にいる、という気がする。
 舞台を見ながら、ずっとそれが誰だったか思い出そうとしていたのだけれど、とうとう最後まで思い当たらなかった。

 イドさんは、多分、脱獄犯に「ビジネスマンのくせに取り引きが下手だ」と言われた瞬間に沸騰していたと思う。
 タイトルにもなっている、「蜂」の羽音のせいではないような気がする。
 「普通とはかくあるべしという生活を送ってきた」というイドさんの独白も恐ろしい。
 この人は「あるべし」と自分が思う生活をずっと演じてきただけで、それはイドさんという人の生活ではなかったということだ。

 拳銃で自分たちを脅し、自分たちを人質に立てこもり、子ども指を毎日1本ずつ落としてゆく。
 そんなイドさんと、まるで日常生活であるかのように規則的に暮らすようになってゆく妻子の様子も恐ろしかった。
 「慣れ」は怖い。でも、「慣れ」という問題なんだろうか。
 そして、自分の家でも同じ状況であると十分に知っているイドさんが、その「慣れ」を続けているのも恐ろしい。

 ラストシーンが思い出せない。
 イドさんが「次からは自分の指を贈ろう」と言い、セットである紙で人質も含めた3人をくしゃくしゃに隠したところで照明が消えたのだったろうか。

 とにかく、本当に後味の悪い、拍手しながらつい顔をしかめてしまうような、お芝居だった。
 上演時間が1時間15分と短いのも納得である。浅野和之を除く3人がほぼ出ずっぱりということもあるのだろうけど、例えばこれが2時間を超えるお芝居だったら、見ているこちらの方が保たなかったと思う。

 前作の「ロープ」のときも思ったけれど、どうして今このお芝居を書いて上演しなければならなかったんだろう。
 とても気になったけれど、その理由は知りたくないような、判らないままでいた方がいいような気がして、パンフレットは購入しなかった。

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コメント

 ガマ王子さま、コメントありがとうございます&過分のお褒めの言葉をいただいて恐縮です。

 ですが、私の感想はお子様の感想だと思います。
 「好きだった」とか「えー! と思った」とか「こういうお話だった」とか、そういうのばっかりで。
 「理解したくない」というのも、そもそもお子様の感想ですし、どうぞ読み飛ばしてやってくださいませ。

 マイナスの感想といえば、「憑神」の原作を読みましたが、ラストシーンにカタルシスがないなぁという風に思いました。映画やお芝居にするとどんな感じなのでしょう。
 ガマ王子さんの感想もお聞きして、映画は見なくていいかもと思っているところです。

投稿: 姫林檎 | 2007.07.03 20:53

ふむふむ
姫林檎さんの演劇読解力ってプロ評論家並みだね
逆にいってみたくなります^^
僕も野田秀樹嫌い嫌い言ってないで
嫌いでも語られるようになりたいな
だから姫林檎さんと見たものかぶってる芝居のブログ、すごいじっくりよんでますよ(笑)
もっと観るのうまくなりたいな
「夏の夜の夢」ノーマークでした
必ず行きますね^^ ありがとうー

あ 「憑神」映画いきました
かなりいまいちでした・・
民放の年末時代劇スペシャルみたいな(笑)
西田敏行がでてる最初の30分くらいはよかったのになぁ>w<

投稿: ガマ王子 | 2007.07.02 23:40

 ガマ王子様、すみません、オススメのお芝居を書き忘れました。

 今月は、とりあえず、何はなくても「子どものためのシェイクスピア・カンパニー」の「夏の夜の夢」は外せません!
 7月16日から23日まで、東京グローブ座です。

投稿: 姫林檎 | 2007.07.02 23:16

 ガマ王子さま、コメントありがとうございます。

 マイナスの感想、でしたか?
 自分ではそういうつもりはなかったのですが(笑)。

 多分、「THE BEE」は、お芝居としての完成度がとても高いのだと思うのです。ただ、そこで描こうとしているものが、私には苦手なちょっと避けたい種類のことだったので、完成度が高い故に目をそらしたい気持ちになってしまった、ということのように思います。

 野田さんの中には厳然として今「THE BEE」を書いて演じるだけの必然性があって、それは恐らくこの社会というか世界というか「今」と強くリンクしていて、その必然性を理解することは、お芝居を見ているだけで辛かった私にはかなり厳しいことだろうと思うのです。
 それで、パンフレットの購入は見送ったのでした。

 ・・・という感じなのですが、「マイナス」とガマ王子さんが受け取られたということは、書き方が下手なんですね。ごめんなさい。

投稿: 姫林檎 | 2007.07.02 23:13

おお
姫林檎さん珍しくマイナスな感想ですね

ぼくは「ロープ」で野田秀樹はもういいやっておもってしまいました(笑)
評価が高いですよねロープもTHE BEEも・・・

国盗人は僕もいきたかったな
ちょっといそがしすぎて芝居いけずにフラストレーションたまります>w<
今月のオススメとかってあります?

投稿: ガマ王子 | 2007.07.02 00:00

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