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「ヴェニスの商人」
作 ウィリアム・シェイクスピア
演出 グレゴリー・ドーラン
美術 マイケル・ヴェイル
出演 市村正親/藤原竜也/寺島しのぶ /京野ことみ
佐藤仁美/団時朗/西岡徳馬/他
観劇日 2007年8月23日(木曜日)午後6時30分開演
劇場 天王洲 銀河劇場 1階J列8番
料金 10500円
上演時間 3時間25分(15分間の休憩あり)
パンフレット(多分、1500円だったと思う)がロビーで売られていたのは覚えているのだけれど、その他が今ひとつはっきりしない。
感想は以下に。
チケットを切るお姉さんがヴェニス風(だと思われる。「ヴェニスの商人」だから。)の上着を着ていたり、ロビーで室内楽が演奏されていたり、出演者が歩き回ったりしている。
席に着いてからも、通路などなどを出演者が歩き回っている。
高さを強調した舞台の使い方といい、舞台上に生演奏の奏者(フルートとバイオリンとチェロ、だと思う)がいたり、開演前の演出といい、藤原竜也が出演しているし、「このお芝居は蜷川幸雄演出なんだっけ?」と思いながら見ていた。
もちろん、違う。
でも、全体の印象が、「蜷川幸雄演出」のお芝居で受けるものととても似ている。
それとも、正統派に近い(と想像する)シェイクスピア劇というのは、古典に忠実ということになって、似た印象を醸し出すものなのだろうか。
その辺りはよく判らない。
「ヴェニスの商人」は、今、思い出せる限りでは、「子どものためのシェイクスピア・カンパニー」で見て以来、二度目のような気がする。
「子どものためのシェイクスピア・カンパニー」では、上演時間をいたずらに長くしないために、かなり大胆に刈り込まれていることが多い。
そのせいなのか、単純に私の記憶力が乏しすぎるのか、京野ことみ演じるシャイロックの娘ジェシカが出てくれば「シャイロックに娘なんていたっけ?」と思い、佐藤仁美演じるポーシャの侍女を見て「こんなにずっと一緒にいる侍女がいたっけ? しかも一緒に結婚までしちゃうんだっけ?」と思い、ポーシャの屋敷で求婚者が3つの箱から1つを選ぶシーンでは「こんな箱選びのシーンなんてあったっけ?」と思っていた。
間違いなく、私の記憶力に問題がある。
「ガラスの仮面」で、姫川あゆみが「ヴェニスの商人で、シャイロックを演じた役者がシャイロックの悲しみを演じて、お芝居自体の成り立ちを変えてしまったことがある」というような話をインタビューで答えるシーンがあったと思う。
この「ヴェニスの商人」を見ている間、何故かこのエピソードが頭から離れず、市村正親演じるシャイロックがそんなに悪い人には思えずに困った。
というよりも、シャイロックはシャイロックでとても嫌な奴なのだけれど、現代社会でお金を貸して利子を取るのは当然のことだ。「高利貸し」という点はこのお芝居ではあまり強調されないので、「利子を取って何が悪い」というシャイロックには「そうだよね。正当報酬よね。」と答えたくなる。
しかも、あまり絡みのない藤原竜也演じるヴァッサーニオはともかくとして、その親友で人々からは「人格者」と称えられているらしい西岡徳馬演じるアントーニオはかなり酷い奴だし、シャイロックに対して不当に辛く見下して対応しているように見える。
シャイロックの所行があまり表に出ていないからそう感じるだけで、シャイロックはアントーニオの罵倒を受けるだけの酷い奴なんだろうか。
一度そう思ってしまうと、アントーニオはもちろんのこと彼の友人達は全員、「キリスト教徒であること」を「正義である」と同視している、視野の狭い、心の狭い男たちに見えて来る。
何だかすっきりしないのは、多分、そのせいだ。
アントーニオの肉1ポンドを借金のカタにする、という証文を巡る裁判のときも、「絶対に許さない」「復讐だ!」と叫ぶシャイロックもどうかと思うが、「血は一滴も流してはいけない」という屁理屈をこねくりだした寺島しのぶ演じるポーシャは、「お偉い裁判官だ」という応援を得て、「3000ダカットの倍を払う」というヴァッサーニオの提案をなかったことにし、元本である3000ダカットも返さず、「アントーニオに対する殺人罪に当たる」と言い出して、財産を没収するという判決を下す。しかも、死刑なのだ。
シャイロックを死刑にしないでくれ、財産の半分を返してやってくれ(もう半分は命を狙われたアントーニオ自身のものになる)、しかし、条件は、シャイロックがキリスト教徒に改宗し、死後は財産を自分を捨てて逃げた娘に全て譲るという証文を書くことだ、というアントーニオは絶対に嫌な奴だ。
シャイロックが、実は財産よりも、ユダヤ教徒であることを唯一の誇りと頼みとして生きていることは誰が見たって判るではないか。
この「ヴェニスの商人」は、こういう感想を抱かせるべく演出されたのだろうか?
その辺りが、よく判らなくて、何となく座りが悪かった。
座りが悪いといえば、実年齢を詳しく知っているわけではないのだけれど、どうしてここまで実年齢と役の年齢が離れている座組にしたのだろう、という風には感じた。
それとも、そもそも「ヴェニスの商人」というお芝居では、アントーニオとヴァッサーニオは歳の離れた友人で、ポーシャはヴァッサーニオよりも年上で、という設定なんだろうか。
芝居が進むにつれて気にならなくなるのだけれど、でも、最初はちょっと不思議な感じがした。
不思議といえば、ポーシャと侍女の2人の登場のときの髪型は可愛くないんじゃないかとか、アントーニオやヴァッサーニオ、その仲間の男たちの服装だけ普通のスーツっぽい感じなのは何故なんだろうとか、ポーシャの留守を預かるジェシカ夫婦がお家乗っ取りを企んでいるように見えてしまうのはどうしてなんだろうとか、ときどき本筋とは関係なく気になってしまった。
贅沢で、どことなくゆったりとした舞台だった。
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コメント
kaoruさま、コメントありがとうございます。
同じ「ヴェニスの商人」をご覧になっていたのですね。そうしたら、劇場のどこかですれ違っていたかも知れませんね(笑)。
私も火曜日に新感線を見に行ったりしていたので(仕事は忙しくなかったですが・・・)、それで今ひとつピリっと見られなかったのかも知れません。
「ロマンス」は私も来月にチケットを取っています。前回こまつ座を見たときに、初日延期に引っかかって観劇日を変えたりしたので、今回は大事をとって、公演日程後半の公演を狙ってみました。
どうぞ、楽しんでいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2007.08.25 09:16
姫林檎さま こんばんは。
私も同じ日に観に行ってきました。
同じ空間にいらっしゃったのですね。笑。
火曜日に地球ゴージャスの「ささやき色のあの日たち」
を観に行ったり,今週は仕事も忙しかったりで
ヴェニスの商人の前半はちょっと眠くなってしまいました。
私も男性の衣装にはちょっと「??」でした。
来週は「ロマンス」を観に行きます。
投稿: kaoru | 2007.08.24 23:37