「憑神」を見る
「憑神」
原作 浅田次郎
脚本・演出 G2
出演 中村橋之助/鈴木杏/升毅/デビット伊東
葛山信吾/藤谷美紀/秋本奈緒美/野川由美子
螢雪次朗/笠原浩夫/初嶺麿代/福田転球
大月秀幸/及川直紀/小松利昌/中村橋弥
関秀人/園岡新太郎/陰山泰/コング桑田
観劇日 2007年9月22日(土曜日)午後4時30分開演
劇場 新橋演舞場 1階1列19番
料金 12600円
上演時間 3時間(35分間の休憩あり)
結局、原作は読んでから、映画は見ずに芝居を見ることになった。
パンフレット(1500円)は迷ったけど購入せず、Tシャツ(2500円)もやっぱり迷ったけど購入しなかった。
トータル3時間のお芝居で休憩35分はあんまりだろうと思ったけれど、レストランや売店の売り上げを考えたら仕方がないところなんだろうという気はする。
感想は以下に。
指定された席が凄くて、1列目のど真ん中だった。
何だか、目が合っちゃったら恥ずかしいくらいの近距離で役者さん達を見られる。その代わり、花道が見にくいのと、舞台の奥の方で起こっていることは見えないのが難点だ。
チケットを取ってから原作を読んで、何だかあんまり好きな感じじゃないな、この終わり方は納得がいかないなと思って、お芝居を見ることもちょっと躊躇していたのだけれど、見てよかったと思う。
原作を読んでいるときよりもずっと面白かったし、楽しかったし、主人公の最後の選択にも違和感を感じることがなかった。
出演者陣は、主人公の彦四郎演じる中村橋之助を始めとして、同じ新橋演舞場で上演された「魔界転生」と重なっている人が多い。
「魔界転生」のときは、実は原作も舞台もあまりスカっとした感じがしなかったので、今回、結構たくさん笑いながら「あのときのリベンジなのかも」と思ったりした。
私としては、今回の「憑神」の方が、断然好みである。
彦四郎は、武家の次男坊で、デキがいいくせに(というよりも、デキがよかったからこそ)養子先から返されて実家に居候している身だ。野川由美子演じる母とともに、秋本奈緒美演じる兄嫁に疎まれ、デビット伊東演じるやる気のない兄に呆れながら、日々暮らしている。
怪しげな祠を拝んだ彦四郎のところに、升毅演じる貧乏神が現れ、コング桑田演じる疫病神が現れ、そして・・・、という物語だ。
とにかく、彦四郎は元々が悲惨な境遇にいたのに、さらに貧乏神やら疫病神やらに見込まれて、さらに悲惨な運命を辿りそうになる。
その直前で、「にっくき**」に思い当たり、貧乏神のたたりは悪巧みで自分を妻子と引き離した養子先の義父に押しつけ、疫病神のたたりは自分の「家」を守ろうとしないやる気のない兄に押しつける。
原作を読んでいて、実はこの辺りも納得がゆかなかったのだけれど、舞台上で中村橋之助が悩んだり迷ったり「にかぁ」としか表現のしようがない満面の大きな笑みを浮かべたりしているのを見ていると、何だか許せてしまうから不思議だ。
しかし、流石の彦四郎も「死に神」だけは、誰かに押しつけるのをためらう。
時を同じくして、幼なじみの榎本は開陽という軍艦とともに蝦夷へ行こうとする。徳川幕府の「終わりの終わり」が見えてきていて、それでも彦四郎は「武士の本分」というどこかで聞いたようなものを守ろうとしている。
「愚直」の一言なのだけれど、生きて動いている人が目の前にいると、「こういう人が一人くらいいてもいいよね」という気分になるのがやっぱり不思議である。
何とか「死に神」を他に押しつけるよう画策していた鈴木杏演じる「死に神」は彦四郎のことがとても気に入っていて死なせたくない。
自分たちよりもずっと格上の神である「死に神」を心配して、貧乏神と疫病神が再び姿を現すのは、「年頃の娘」の格好もしている死に神を心配してのことのようだ。
この辺りは、「死に神」を年端もいかない子どもの設定にしている原作と違う部分である。
でも、この設定変更が、「そういうこともあるか」という気持ちでラストシーンを迎えられた理由ではないように思う。
やはり、時にコミカルな動きを見せ、刀を持たせれば強く美しく、何かを決心したときには満面の笑みで笑う中村橋之助が造形した「彦四郎」のキャラクターあってこその筋書きなんだろうという気がした。
ラストシーンも、先祖が家康の影武者だったからといって、どうして彦四郎が慶喜の振りをして江戸時代を幕引きせねばならないのか、原作を読むと「無駄死」という言葉が駆けめぐったのだけれど、舞台で見ると、藤谷美紀演じる分かれた妻が「存分のお働きを」と送り出す姿にも何故か納得がゆく。
とにかく、升毅の貧乏神の微妙に女がかった声と仕草も可笑しいし、コング桑田の疫病神が相撲取りの姿をした強面のくせに涙もろいのも可笑しい。動きが軽く、表情が大きくくるくると動く鈴木杏の死に神のトリオがとにかく楽しいし、3人とも何故だかそれらしい。
最後の立ち回りのシーンで、彼ら3人が太鼓とシンバルで音響を付けたのも楽しいやり方だと思う。
楽しいといえば、場面転換のほとんどで回り舞台を使い、薄暗い照明の中、それまで動いていた登場人物達が蝋人形のように静止して去ってゆくのは、場面転換の多さを感じさせない、格好良いやり方だったと思う。ついつい、目を凝らして去ってゆく場面を追ってしまったくらいだ。
でも、やっぱりこの舞台の「説得力」の源は中村橋之助の満面の笑みに尽きるような気がする。
後方の席で見たらまた違う感想になったような気もするけれど、とにかく、楽しかった。
原作を読んで今ひとつピンと来なかったとしても、見て楽しめるお芝居だったと思う。
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