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2007.09.30

「ロマンス」を見る

「ロマンス」こまつ座&シス・カンパニー
作 井上ひさし
演出 栗山民也
出演 大竹しのぶ/松たか子/段田安則/生瀬勝久
    井上芳雄/木場勝己
観劇日 2007年9月29日(土曜日)午後6時30分開演
劇場 世田谷パブリックシアター 1階G列31番
料金 8400円
上演時間 3時間(15分間の休憩あり)

 もの凄く迷ったのだけれど、パンフレット(1000円)は購入しなかった。
 劇中で「ヴォードヴィル」という言葉が何度も出てきて、このお芝居のキーワードだったと思うのに、私は「東京ヴォードヴィルショー」しか思い浮かばなかったので、多分、このお芝居の肝となる部分を理解できていないように思う。パンフレットを読めば判るかしらとかなり迷ったのだけれど、休憩時間も終演後も何故かお財布を出そうという感じにならなかった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 ちょっと長いのだけれど、こまつ座の公式Webサイト内、「ロマンス」のページにあった、このお芝居の惹句を引用する。

*****

 全生涯を兄に捧げた妹がいた。
 兄は医者、そのそばで看護助手と薬剤師をつとめ、家政婦も、マネージャー役も兼ねていた。ときには兄を甘やかす母親にもなった。

 妹には一人の親友がいた。
 親友は魅力的なドイツ系の女優だった。
 妹は親友になんでも打ち明けていた。

 妹が怖れていたことはただ一つ、兄と親友とが結婚したりはしないかということ。二人とも結婚生活には向いていないのだ。

 だが、怖れていたことが現実になる。二人はこっそり結婚していた! 一度に兄と親友とに裏切られ、一度に兄と親友とを失ってしまった妹。

 妹、マリア・チェーホワは激怒した。
 親友、芸術座の女優オリガ・クニペックは、わたしたちのロマンスについてだれも口を出すべきではないと抗弁した。
 そして兄、アントン・チェーホフは頭を抱えながら、最後の戯曲『桜の園』に取りかかった。

 晩年のチェーホフが引き寄せてしまった、哀れで、やるせのない、滑稽な悲喜劇を、選り抜かれた六人の俳優が、いま生き生きと再現する。再現の手がかりを井上ひさしが書き、すべてを栗山民也がまとめあげる。

*****

 この文章を読んでいたので、お芝居の大きなところはチェーホフと妻とチェーホフの妹の物語が主に語られるのだろうと思っていた。
 でも、実際のところ、大竹しのぶ演じるオリガという女優が登場するのは休憩後のことだ。
 だから、休憩前は「いつ、チェーホフの妻となる女優が出てくるのだろう」ということが気になってしまった。

 チェーホフの中学生時代から亡くなるまでを追うこのお芝居では、チェーホフ役は4人の男優陣が引き継いで演じてゆく。
 医学生となり卒業するまでが井上芳雄、卒業試験からサハリンに滞在する辺りまでが生瀬勝久、モスクワから少し離れた街の病院で医局長をするところからオリガと出会うくらいまでが段田安則、そして最後のモスクワゆきの列車に揺られるシーンまでが木場勝巳である。
 この「チェーホフ役」を引き継ぐときに、学生の頃から使っているというペンを手渡す。気が利いている。

 お芝居の最初から最後まで、ほぼ同じ役を演じていたのは、チェーホフの妹マリヤを演じた松たか子だけで、他の役者さん達は何役もこなしてゆく。
 そのせいなのか、どうしてもマリヤの印象が強くなる。
 もしかするとこの物語は、チェーホフの物語なのではなく、チェーホフを一生支えることになった妹マリヤの物語なんじゃないかという気がしてくる。
 チェーホフ亡き後、妻であった女優のオリガはきっとこのまま女優として生きてゆくのだろうと思うのだけれど、マリヤがこの先どう生きていくのかがとても気になった。列車に揺られるシーンで4人のチェーホフから、「本を寄付するように」と頼まれていたから、チェーホフの死後もやっぱりチェーホフのマネージャーを務めたのだろうか。

 晩年のチェーホフの家に、トルストイが見舞いに訪れる。
 この生瀬勝久演じるトルストイは、何というか、漂流中のロビンソン・クルーソーみたいな感じで、本当にこんな風だったのかしらと驚かされる。しかも、そういう格好をしているから、人となりもかなり豪快に見える。
 トルストイの文学観も人生観も、チェーホフとはかなり違っているように感じられる。
 でも、この2人には何か通じるものがある。

 トルストイが帰った後、オリガとチェーホフはトルストイの真似をして笑い転げる。
 その笑っているチェーホフを見て、マリヤが「こんなに楽しそうなチェーホフを見るのは初めてだ」と呟くマリヤが酷く淋しそうに見える。
 献身が望む形で報われるとは限らないということが、まざまざと見せつけられる。
 このシーンに限らず、物語の終盤で、壁にもたれて兄とその妻を見るマリヤの立ち姿は酷く淋しそうで印象に残る。
 思えば、この2人を引き合わせたのも自分だったのだから、その胸中は複雑だったろう。

 トルストイと一緒にやってきた、自分の芝居の演出家にチェーホフはダメを出す。
 「三人姉妹」は、お涙頂戴のお芝居ではなくヴォードヴィルなのだと切々と語る。
 チェーホフのお芝居を見たのは、多分、森光子主演の「桜の園」だけなのだけれど、少なくともあのお芝居がWikipediaのいう「米国においての舞台での踊り、歌、手品、漫才などのショー・ビジネスのことである。」であったとは思えない。
 チェーホフのお芝居が、今もなお、書き手の意思と違うお芝居として演じられているとしたら、そもそも今でも上演されていること自体が凄いことなのだと思うのだけれど、でもチェーホフ本人は嬉しいのかしら、という風にも思う。

 歌のシーンが思いの外多い。
 6人とも味のある、役に合った歌を聴かせるけれど、やはり松たか子と井上芳雄の歌がひと味違うように思う。「役として」歌っているときと、物語を運ぶ歌を歌っているときと、どこがどうとは言えないのだけれどやはり違っている。

 カーテンコールはファイブコール。拍手がなりやまない。
 最後には、着替えかけていたのか、生瀬勝久がスーツのボタンを留めながら登場したのが可笑しい。

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