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2007.09.02

「エンジェル・アイズ」を見る

劇団M.O.P. 第42回公演「エンジェル・アイズ」
作・演出 マキノノゾミ
出演 大原やまと/林英世/酒井高陽/岡森諦
    片岡正二郎/勝平ともこ/塩湯真弓/竹山あけ美
    塩釜明子/岡村宏懇/斎藤栄作/友久航/海部剛史
    浅野雅博/神農直隆/キムラ緑子/三上市朗
    藤元英樹/永滝元太郎/平良政幸/木下政治
    本郷小次郎/白木三保/田尻茂一/奥田達士
観劇日 2007年9月1日(土曜日)午後2時開演
劇場 紀伊國屋ホール Q列12番
料金 5500円
上演時間 2時間40分(10分間の休憩あり)

 ロビーでは、パンフレット(500円)や上演台本(1200円)、サイン入りの写真やTシャツなどが売られ、この公演のDVD予約も受け付けていた。
 9月3日〜5日のチケットも割引価格で販売されていた(4000円、だったと思う)。

 その他、このお芝居で使った「馬」をYAHOO!オークションに出品しますという、模造紙に手書きされた告知も行われていた。ちょっと欲しいけど、置き場所に困る。
 詳細は劇団M.O.P.の公式Webサイトで案内されるそうだ。

 ネタバレありの感想は以下に。

 西部劇には全く縁のない私だけれど、「カラミティ・ジェーン」や「ビリー・ザ・キッド」という名前くらいは聞いたことがある。
 だから、きっと、「ワイアット・アープ」や「ドク・ホリデイ」「バリー・ハグレー・ジュニア」「パット・ギャレット」といった登場人物も西部劇の有名人なのだろうと思う。

 開拓の時代の終わり、西部劇の時代も終わろうとしていて、「OK牧場の決闘」なんていうこともアメリカ中から忘れ去られようとしていた時代の、最後の一花を咲かせようとしていた街と人がきっとあったに違いない、あってもおかしくない、だったらどんな感じだったのだろう、ということを本気で再現した舞台だと思う。
 それを、「忘れ去られようとしている街」の新聞記者である、エリオット・ホープに語らせ、最後の一花を咲かせようとしている街に作戦を授けるのが、ホープからのファンレターに感銘を受けたマーク・トゥエインだというところがポイントだ。

 紀伊國屋ホールの広いとは言えない舞台に、最大25人の役者を乗せて、まずその全員を舞台に集めたところから始める演出が格好いい。
 そして、出演者が多いことを気にさせないし、舞台の狭さも感じさせないし、上演時間の長さも気にならない。一人一人の物語が、西部劇を知らない私にも伝わってくる。
 カーテンコールで、三上市朗が「面白かったですね」と挨拶して笑いが起きていたけれど、本当に面白かった。

 「この街にならず者が集まり始めている」「OK牧場の決闘再来!」といったニュースを流し続け、それは全てマーク・トゥエインの頭から出たでたらめのニュースなのだけれど、この街には噂を聞きつけたガンマン達がどんどん集まって来る。
 OK牧場の決闘(2)が行われようというときには、寂れていた街に2万人からの見物客が訪れ、街にお金を落としてゆく。
 この辺りまでは、「カーニバル」という感じで浮き足立って楽しくて騒々しくて猥雑だ。
 OK牧場の決闘が「正義の警官」として名高いワイアット・アープのだまし討ちだったことや、ワイアット・アープと彼が「親友」と呼ぶ「ドク・ホリデイ」との関係や、カラミティ・ジェーンの恋人が亡くなった経緯や、ドク・ホリデイとカラミティ・ジェーンが騎兵隊の少尉の恨みを買っていたり、しゃべれないボロボロの男を拾っていたり、その男をパット・ギャレットが殺そうとしたり、殺せなかったパット・ギャレットが街を逃げだそうとしたり、「一筋縄では行かないな」という伏線が張り巡らせ、見せられているのだけれど、でもあくまで雰囲気は「お祭り」だ。

 そのお祭り気分が一変するのは、逃げ出したパット・ギャレットが街に戻ってきて「騎兵隊に囲まれている」と告げてからだ。
 「町おこし」に協力してくれていた筈のマーク・トゥエインは、実は、「ならず者をこの街に集めて壊滅させる」ことをこそ目的としていたことが明かされる。
 この計画には、街の市長でもある判事も承知の上で協力していたことが判る。

 やっぱり、「劇団M.O.P」のお芝居はこうでなくっちゃ、と思う。
 完全にマーク・トゥエインを信じ切って、「自分をニューヨークまで連れて行って欲しい」とまで頼んでいたエリオット・ホープは、彼が「少年から大人になりつつあって、でも背伸びして大人になろうとしている」という年代だということもあって、その「裏切られた」という思いが一瞬、舞台を支配する。
 それでも、「撃たれる前に撃つのが大人になるということだとしても、自分はやっぱり撃ちたくない」という彼が、ガンマン達が出てきて撃ちまくるこのお芝居の本質なんだと思う。

 非戦闘員は街からの退去が認められ、街にはガンマン達とエリオット・ホープ、ワイアット・アープだけが残る。
 もちろん彼らは投降なんてする気はない。
 パット・ギャレットは、全くしゃべれなかった彼が実は「ビリー・ザ・キッド」であると告げて、彼を目覚めさせる。それまできちんと立つこともなく、「ママ!」以外はしゃべろうとしなかった彼が、いきなり別人のようにシャンとし、騎兵隊に囲まれているという状況を楽しんでいるかのように変わる。

 そして、ガンマンたちはそれぞれに馬に乗り、脱出を図る。
 一人撃たれ、二人殺されて、生き残ったのは、エリオット・ホープ、カラミティ・ジェーン、ワイアット・アープの三人だけだった。
 多分、このお芝居で生き返らせたガンマン達は再度眠りにつき、その後も生き残った彼らは脱出に成功したのだと思う。

 多分、カラミティ・ジェーンとドク・ホリデイとは脱出の前、本当に肺病を患っていたドクが死ぬまで一緒にいようと思っていたし、街の教会で慈善事業をしているミス・ブラウンとエリオット・ホープの相棒である挿絵画家のチャーリー・スカイも思い合っていたことをやっと認めて一緒に東部に行こうと思っていた。
 でも、そういう、あるべき「これからの生活」を思い描いてその通りにさせてあげたいと思った人たちは皆死んでしまう。

 それなのに、やっぱりこのお芝居は面白いし、楽しいし、カーニバルだったと思う。
 日本人がカタカナ名前を呼び合って、髪も染めて、アメリカ合衆国西部の街で馬に乗りガンをぶっ放しているのに、「似合わない」「違和感がある」ではなく「何て格好いいのかしら」と思わせるなんて凄すぎる。

 エリオット・ホープが、最後、登場人物達のその後を語り、彼の心の中に刻むように少し暗めのスポット照明の下で彼らがポーズを決め、そして最後にマーク・トゥエインの考え方を是とはできない、と語る。
 多分、このお芝居が言いたかったのは、このエリオット・ホープの感じたことで、でもしんみりと終わるのは絶対に性に合わないとばかりに、カーテンコールの後、「芝居の練習なんかしないでこっちを練習しました」と三上市朗が挨拶して、出演者全員でギターや金管楽器を演奏して一曲披露される。

 何て格好いいお芝居で、お芝居の登場人物たちも役者さんたちも何て格好いいのだろうと思う。

 カーテンコールで、三上市朗が「平日チケットの購入はノルマです」と案内して笑いを取り、今回出演していない小市慢太郎が終演後のロビーで「ノルマの受付はこちらです」と笑顔で案内しているところも含めて、劇団M.O.Pって格好よい! と思う。

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