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「シェイクスピア・ソナタ」シアターナインス
作・演出・出演 岩松了
出演 松本幸四郎/高橋克実/緒川たまき/松本紀保
長谷川博己/豊原功補/伊藤蘭
観劇日 2007年9月8日(土曜日)午後2時開演
劇場 パルコ劇場 L列14番
料金 9000円
上演時間 2時間50分(20分間の休憩あり)
ロビーでは、パンフレット(1500円)や、ポスター、これまでのシアターナインスのDVDなどが販売されていた。
かなり後方の席に座っていたせいかも知れないけれど、客席に空席が目立つように思えた。私の後ろのM列は誰も座っていなかった。この出演者陣からするとかなり意外なことだ。
ネタバレありの感想は以下に。
旧家っぽい、蔵なのか屋根裏部屋なのか、養蚕でもやっていたのか、そのうち造り酒屋だと判るのだけれど、とにかくそういう場所の2階の板の間が舞台上に組まれている。
そこは、一時的に楽屋として使われており、その旧家の庭で、シェイクスピア劇(マクベス、ハムレット、リア王)が上演されるようだ。チラシなどでは、シェイクスピアの四大悲劇を上演することになっているのだけれど、見ていた限り、「オセロー」が演じられていた気配を感じることができなかった。
その劇団の座長と、その旧家の娘が結婚していて、でもその娘は少し前に亡くなり、半年もたたないうちに座長は劇団の別の女優と結婚した。
それでも、恒例の「妻の実家での公演」のためにやってきたのだけれど、劇団のスポンサーでもある亡き妻の父親は姿を現さない。
まず、最初の「マクベス」の公演が終わり、三々五々俳優達が楽屋に戻ってくる。
着替えのための小部屋が用意されており、そこに入ってしまうと外からは人がいるのかいないのか判らない。
キャラメルボックスの「猫と針」じゃないけれど、戻ってきた順に、その場にいない人の話を次々とすることで、場の状況や登場人物の関係が判ってくる。
時々、いないと思ってしゃべっていたら実はそこにいたりして、より一層、明らかになることがあったりもする。
松本幸四郎演じる座長は、何だか不思議なキャラクターである。現代劇で松本幸四郎が役者を演じているところは割と見ているような気がして、「バイ・マイセルフ」は間違いなくそうだし、「夏ホテル」はマジシャンの役だけどあれも「演じる」人の役だ。
いずれにしても、「役のためなら」どんなことでもしてのけるというタイプの役で、今回もそうなのかと思って最初は見ていたのだけれど、どうも違う。
一歩引いているようなところもあり、実は劇団員一人一人の事情を全てを見通しているんじゃないかというところもあり、妻の実家から劇団への援助がなくなるんじゃないかと心配しているだけのようにもみえ、不思議な感じがある。
劇中の人間関係は複雑で、座長の前妻の妹が伊藤蘭演じるユメコ、その夫が高橋克実演じる専務、座長の息子であり座員でもある長谷川博己演じるビスケ(と呼ばれていたと思う)が血縁関係としてまずいる。
これだけでも、ユメコ夫婦は上手く行っていなさそうだったり、座長とビスケはどうみても親子には見えなかったり、何だか複雑そうである。
そこに加えて、ユメコと豊原功補演じる劇団員のフタツギは不倫の関係にありそうだし、松本紀保演じる劇団員のアキラはフタツギのことが好きなようだし、アキラの姉と岩松了演じる劇団員のヤマダは結婚間近のようだし、第一、座長の新妻は緒川たまき演じる劇団員のミスズである。
狭いところで人間関係を全部やりくりするんじゃない、と言いたくなる。
そして、舞台上には登場しないのだけれど、もちろん座長の前妻の父親である、この酒造会社の社長と、会社の従業員である「キミちゃん」がしょっちゅう名前だけ登場しては、場の盛り上がりに貢献する。
「劇団と酒造会社との関係」があって、座長は公演を社長が出かけていて見てもらえないことを気に掛けているけれど、実は、ユメコ夫婦と社長の弟によって酒造会社自体の乗っ取り計画も進行していて、話は複雑である。
とことん自分に自信がないミスズや、ユメコとドライブしようとしているところにハムレットに抜擢して稽古させたフタツギや、座員と話している座長の言葉には、何かが含まれているような感じがする。
同時に、結局のところ、優しくしようが親切にしようがそれは全て「優しくする」側の事情でやっているだけでしょと言い放つユメコの言葉にも、彼女がときどき座長の亡くなった前妻と重ねられていることと相まって、言葉以上の意味が込められているような感じが漂う。
漂うのだけれど、私は最後まで、何が込められていたのか判ったと思える瞬間がなかった。
格子戸を透かして射してくる光や、風向きで聞こえたり聞こえなかったりする潮騒の音など、舞台は整っている。少し神経質そうな座長や、ずっと姉にコンプレックスを感じていたらしいユメコ、自分の居場所はここにはないと思っていた専務、「現代の若者」をステレオタイプで見せようという感じのビスケ、何故か一番笑いを誘っていたミスズのとらえどころのなさなど、役者は揃っている。
それでも、「そうか!」という瞬間にあと一歩で届かない、もどかしい感じが残った。
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