「オセロー」を見る
「オセロー」彩の国シェイクスピア・シリーズ第18弾
作 W.シェイクスピア
演出 蜷川幸雄
出演 吉田鋼太郎/蒼井優/高橋洋/馬渕英俚可
山口馬木也/壤晴彦/鈴木豊/他
観劇日 2007年10月12日(金曜日)午後7時開演
劇場 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール 1階L列1番
料金 9000円
上演時間 3時間55分(15分間の休憩あり)
とにかく、長い。
午後7時開演で、劇場を出たときには午後11時を過ぎていた。場所が彩の国さいたま芸術劇場だから、始まるのが早いと開演に間に合わないし、終わるのが遅いと家に帰るのが大変だ。
でも、決して冗長だったわけではなく、必要な上演時間だったのだなということは、納得できる。
ロビーでパンフレット(1500円だったと思う)や、Tシャツ(2200円)が売られていた。Tシャツにちょっと惹かれたのだけれど、今回は我慢することにした。もうひとつシンプルだったら買ってしまっていたかも知れない。
感想は以下に。
壁を降ろし、舞台前方の3mくらいの空間でお芝居をすること、舞台を高く使い階段のセットを多用すること、客席を使うことなどなど、ここ何作か私が見た蜷川演出の「型」が「オセロー」でも踏襲されていた。
ここまで続くと、「型」を設定することで、一定のイメージなりメッセージなりを伝えようとしているのだろうと思える。
もっとも、私自身はその「メッセージ」がどんなものなのか、理解できてはいないように思う。
吉田鋼太郎演じるオセローは、高潔な将軍として登場し、蒼井優演じるデズデモーナと結婚し、キプロスに伴い、そして、高橋洋演じるイァーゴーに手もなく感情を弄ばれて嫉妬に狂う。
その、嫉妬に狂う様が本当にあっという間で、「もうちょっと抵抗しろよ」とか「何でそんなにイァーゴーだけを信じているんだよ」とか文句を言いたくなる。
一方で、「高潔さ」や「気高さ」などというものは、純度が高ければ高いほど脆いものなのだな、という印象を強く受けることも確かだ。
ク・ナウカのオセローでは美加理演じるデズデモーナが死んだ後、ことの顛末を語るというスタイルを取っていたこともあって、デズデモーナの視点で語られ、舞台の中心はあくまでもデズデモーナだったような印象がある。
今回の「オセロー」は、オセロー、デズデモーナ、イァーゴーという物語の鍵を握る3人だけではなくて、オセローの副官となった山口馬木也演じるキャシオーや、イァーゴーの妻である馬渕英俚可演じるエミリアも「主要登場人物」に加わった感がある。
その分、物語に厚みが増し、上演時間も長くなったのではないだろうか。
イァーゴーの視点で、イァーゴーが内心を語りながら舞台が進んで行く。
そうなると、ここのところ「道化」っぽい役の印象が強かった高橋洋の低音の声といかにも荒んだ感じが際だって印象に残る。
ライバルであり、オセロー将軍の副官に任命されたキャシオーが、酒癖・女癖が悪いなりにそこそこ普通にいい人っぽいところが強調され、イァーゴーに手もなく操られる分、イァーゴーのひねくれた心持ちが強調される。
オセローを演じた吉田鋼太郎は「円熟」という風格すらあって、「吉田鋼太郎のオセロー」「吉田鋼太郎のシェイクスピア像」というものが確立されているように思える。
蒼井優との実年齢差が舞台上でさらに強調され、彼が嫉妬に狂っていく遠因に、「妻との年齢差」がかなり大きな影響を及ぼしているように思える。
台詞ではオセローは「悪魔のよう」などとその容貌を形容されるけれど、見ていると年齢差の方が意味があるように感じられる。
デズデモーナは終始一貫、可憐で健気というポジションを保ち続ける。
起伏の大きいオセローやイァーゴーに囲まれて、常に可憐さを見せ続けるというのは、実はかなり大変なことなのではないかという気がする。
侍女を演じた馬渕英俚可の声に力があり、文句も言いつつ夫であるイァーゴーを信じ、主人であるデズデモーナを守ろうとしている彼女も、最後には陰謀を暴かれたイァーゴーに殺されるという運命を辿り、デズデモーナとまた違った意味で悲劇を体現している分、それと張り合おうとはせず、デズデモーナをひたすら可憐という位置に立たせ続けたのは、凄いことのように思う。
もしかして、ずっと地だったのではないかという感じもしなくもないけれども。
舞台の本当に最後は、イァーゴーとエミリアの対決で物語が運ばれてゆく。
この対決は異様に迫力があった。
客席は、どちらかというとデズデモーナの悲劇という受け取り方をしていたようで、デズデモーナがオセローに殺されてしまう辺りから、あちこちですすり泣きが聞こえていたけれど、私はこの夫婦の対決に気を取られていたせいなのか、泣きそうな感じにはならなかった。
同じ場所で同じお芝居を見ていても、色々な受け取り方があって、感じ方がある。
私にとっては、オセローの悲劇や、物語の悲惨さよりも、演じている役者さんたちが印象に残る舞台だった。
4時間は長いと思ったけれど、見ているときに退屈したことは一度もなかったし、むしろエッセンスが凝縮されているという感じだった。
カーテンコールのときには、1階席の半分くらいの人が立ち上がって拍手をしていた。
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