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「キャバレー」
台本 ジョー・マステロフ
作曲 ジョン・カンダー
作詞 フレッド・エブ
演出 松尾スズキ
出演 松雪泰子/阿部サダヲ/森山未來/小松和重
村杉蝉之介/平岩紙/秋山菜津子/他
観劇日 2007年10月20日(土曜日)午後7時開演
劇場 青山劇場 F列33番
料金 12000円
上演時間 2時間55分(15分間の休憩あり)
開場10分後に青山劇場前に到着したのだけれど、ほとんど歩道に届くくらいのところまで劇場に入るための行列ができていた。開場直後ならばともかくとして、「この行列は当日券の行列ですか?」と聞く人がいたくらい、かなり珍しいことだ。それなのに、案内がまるでなかったのは青山劇場とは思えない、丁寧さに欠ける対応だと思う。
逆に、休憩時間がそろそろ終了しようという時間に、小松和重が客席に登場し、役の「シュルツさん」と「小松和重」を行ったり来たりしながら観客に早く席に着くよう促しているのは、雰囲気づくりにも一役買って上手いやり方だなと思った。第一、楽しい。
ロビーでは、パンフレット(2000円)やTシャツ(2500円だったと思う)、出演者のDVDなどが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
キャバレーという舞台が有名なミュージカルで、映画化もされているということは知っていたけれど、どちらもこれまで見たことがない。このミュージカルがナチス台頭前夜のベルリンを舞台にしているということを知ったのも、幕が上がってからだったりする。
基礎知識がない分楽しめるときと「松尾スズキバージョンは、他のバージョンとどこが違うんだろう」と気になってしまうときと、それは色々なのだけれど、今回は後者だったように思う。
廃墟のような街のがらくたの中から、阿部サダヲ演じるキャバレー「キット・カット・クラブ」のMCが登場して物語を動かし始める。
このMC、特に前半は出番も見せ場も多い。
アドリブなのか、客席に降りて観客と会話を始めたり、かと思うと「限界でーす」と叫んで舞台上のバンド(キャバレーのバンドでもある)に音楽を要求する。
キャバレーのステージはそのまま、MCを中心にした歌とダンスで見せられる。
終わってみれば、彼の存在が「キャバレー」というミュージカルの肝であったのかも知れないと思うのだけれど、見ているときは「うーん、MCが歌い踊りしゃべるシーンがなくてもストーリーはつながるよなぁ」「阿部サダヲのオンステージみたい」と思ったりしていた。
少なくとも、阿部サダヲの魅力全開! である。
そのストーリーの方は、森山未來演じるアメリカからやってきた小説家志望の青年と、松雪泰子演じるキャバレーの歌姫サラとの恋物語が主軸である。
森山未來は「血の婚礼」での印象が強すぎて、あまりの好青年振りが意外だった。正直に言って、意外なくらいその好青年がハマっている。
一方の松雪泰子は、ミュージカル初出演ということだったけれど、声量もあるし、歌も上手い。細身で贅肉のかけらもなさそうなスタイルに、足を見せる衣装、腕も細くて指の先まで優雅だ。なのに、艶っぽく見えないのはどうしてなのだろう。
舞台を見ているときから「どうして艶っぽくみえないんだ?」と考えていたのだけれど、身体が揺れていないからじゃないかという感じがした。例えば歌っているときに、自然にリズムに合わせて身体が揺れることが多いと思うのだけれど、彼女は振り付けのポーズは決めるのに、あくまでも姿勢正しく端正な姿なのだ。何だか勿体ない感じがした。
ベルリンにやってくる列車の中で知り合った村杉蝉之介演じるエルンストは実は陰で大活躍をしていえ、エルンストがクリフに「キット・カット・クラブ」の存在を教え、秋山菜津子演じる大家シュナイダーさんが持つアパートを紹介する。
このミュージカルの舞台がナチス台頭前夜であることを感じさせるのは、このエルンストが党員だからであり、シュナイダーさんが婚約した、小松和重演じる店子であり果物屋を経営するシュルツさんがユダヤ人であるという設定による。
この2人が設定として初老の年代なので、秋山菜津子と小松和重が演じると「老いを演じている」という感じになってしまい多少の違和感はあるのだけれど、それよりも、安定感が際立つ。「一人のご飯を何回食べてきたんだ。」というやりとりも残る。テーマも背負い、笑いも取る。大活躍だ。
休憩後の1時間で、エルンストが党員であるという点がクローズアップされ、シュナイダーさんとシュルツさんはユダヤ人である彼の店に投石があったこともあって婚約を破棄し、クリフはシュルツさんをあげつらったエルンストに跳び蹴りを食らわせて(この跳び蹴りが、さすがは森山未來で見事の一言だった。)サラにベルリンを出てアメリカに帰ろうと言い、サラは身ごもっていた子どもを堕ろしてベルリンに残ることを決める。
休憩前の「華やかな世界」は、この暗さを際だたせるためにこそあるのだろうに、休憩後のストーリー展開はいっそ性急なくらいで、その急激さは驚くほどだ。
客席からはクリフとサラの別れに鼻をすする音が聞こえていたけれど、私は泣けなかった。
クリフはベルリンからパリに向かう電車に乗っている。
小説を書き始める。もちろん、この「キャバレー」というミュージカルの始まりが、小説の冒頭シーンである。自分のベルリンでの生活を小説に書き始めている。
舞台は廃墟の街に戻り、MCもがらくたの中に戻ってゆく。そして、幕である。
カーテンコールで、演出の松尾スズキがマイクのコードを引きずって登場し、妙な身体の動きと振り付けで「妖怪人間ベム」を熱唱した。
可笑しいし、歌も上手い。バンドの伴奏をひっさげて、一人でステージを埋めているのも流石だ。
だけど、「妖怪人間ベム」への拍手がカーテンコールの拍手よりもずっと大きいっていうのはどうよ、と思ってしまったことだった。
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