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「ツーアウト」自転車キンクリートSTORE
作・演出 飯島早苗
出演 樋渡真司/岡田正/太田志津香(文学座)
鹿野良太/瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ)
観劇日 2007年10月27日(土曜日)午後7時開演
劇場 シアタートップス A列7番
料金 3800円
上演時間 2時間
台風の影響を心配してか、開演時間を5分ほど遅らせたようだった。最前列にいた私の隣は空いたままだったけれど、それでもほぼ満席に近い感じだったと思う。
ネタバレありの感想は以下に。
草野球の試合中、チームが守備についている間のベンチの情景が、1回裏、2回裏・・・と綴られて行く。試合の様子は効果音とスコアラーが「無死満塁」などと声に出しつつ書き込んでいる様子でほぼ分かるのだけれど、HOCKETSなどという名前のついた草野球チームはいかにも弱そうだし、本当に弱いようだ。
岡田正演じる熱心なスコアラーに反して、いかにもやる気のなさそうな樋渡真司演じる監督は、実はその日の朝、奥さんが家を出て行ってしまったのだという。
書き置きの手紙を残すのではなく、携帯メールに「じゃあね」と入っていたというのが可笑しい。
今どきはそんなものなんだろうか。
スコアラーはもとより、草野球チームの応援に来るはずの「小笠原さん」を目当てにやってきた、太田志津香演じる監督の部下(だと思う)の女性はもちろん心配するし、鹿野良太演じる予備校生らしい監督の息子もやってきて「探しに行け」「おまえのせいだ」「父親だなんて思わない」と捨て台詞を残して去ってしまうのだけれど、それでも決して動こうとはせず、かといって野球の試合に身を入れるでもなく、ただ監督はベンチに座り続ける。
その後、女性の部下はほとんどストーカーのレベルに達するくらいに小笠原さんを追っかけていることだとか、HOCKETSの救世主らしい小笠原さんがなかなか来なかったりだとか、ピッチャーの「佐々木くん」は彼女が応援すると少しだけコントロールを取り戻すのだとか、相手チーム(GREEN MONSTERSという名前だったと思う)にお金で雇われて助っ人に入っている瀧川英次演じる「出川です」が三塁コーチをやるついでにベンチにちょっかいをかけまくったりとか、概ね笑いの中話は進む。
目の前30cmくらいのところで岡田さんに叫ばれるのは、なかなか幸福な気分である。
監督は「奥さんには昔、結婚したい人がいた。自分はその人の補欠だ」「奥さんはその男がイタリアから帰ってくるから成田に迎えに行ったんだろう」と淡々と見せつつ結構ひどいことを言って、ベンチで何もしないままに居続ける。
息子は「DNA鑑定の結果、俺はあんたの息子じゃない」と言い、「家から出る」とスポーツバッグを方にかけて宣言する。
ベンチの空気はどんどん重くなる。
スコアラーは、お酒を飲むと家族に暴力を振るった自分を何故か監督の部下の彼女に告白し、息子とキャッチボールができなかったことを嘆き、監督に「まだ遅くない」と声をかける。
野球嫌いだという監督の息子と監督とがキャッチボールを始める辺りから、最前列のド真ん中で涙を流しつつ、トップスの舞台は大の男2人がキャッチボールをするには少し狭すぎるなと思いながら、でも時々挟まれる可笑しなシーンに大笑いしつつ見てしまった。
息子が言うように「自分は補欠だ」と思っているダンナと暮らすのはかなり苦痛な寂しいことだったんだろうし、その男から来たエアメールの絵はがきを電話のところに落としておいたのは監督に見せるためだったんだろうし、そこで監督が「身を引く」なんて言い出すとは思いたくなかったんだろうなという気がした。
「家を出る」と宣言して去って行った息子を捜すのも携帯電話だし、すぐ近くにいたらしい息子は携帯電話で話ながら登場するし、出川を除く3人にしつこいくらい説得された監督が奥さんに「帰ってきてくれ」と言おうと決心した後にやったことは携帯電話を手にすることだったし、お芝居の中でこれだけキーとなって使われるくらい携帯電話というものは普通のものになっているのだな、と変なところで感心したりしてしまった。
何度も電話をしかけては挫折していた監督のところに、サヨナラ負けを喫した直後、奥さんから携帯メールが入る。
曰く「サヨナラ負け、残念。」
ベンチで話されている内容が聞こえていたわけでもあるまいし、そこでどうして奥さんがメールを送ろうという気になったのか、私には判らなかったけれど、それでやっと奥さんを捜しに行こうと監督が思ったのだからよしということにしよう。
スコアラーもアルコールの誘惑に勝って、数年とか十数年ぶりに家族と連絡を取ろうと決心したし、「DNA鑑定で親子じゃないという結果が出た」というのは息子の嘘だったということが判ったし、女性の部下は小笠原さんを追っかけるのは止めて佐々木さんにしようと決めたみたいだし、きっとめでたしめでたしの結末に違いない。
もしかしてベンチで起こっていることとはほとんど何も関係なかったんじゃないかと思われる出川の存在が効いていて、2時間があっという間で、奥さんは最初から出て行く気はなかったんだろうけどここまで探してもらえなかったら私だったらすねて本気で出て行こうとするよなという気持ちはあるのだけれど、でも監督は結局奥さんのことが好きみたいだし出て行って欲しくないと言えそうだし、泣けて笑えて、何だか見終わったらすっきりしていた。
成田などには行かず
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