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2007.10.29

「たとえば野に咲く花のように」を見る

「たとえば野に咲く花のように」
作 鄭義信
演出 鈴木裕美
出演 七瀬なつみ/田畑智子/三鴨絵里子/梅沢昌代
    永島敏行/山内圭哉/大沢健/大石継太
    池上リョヲマ/佐渡稔
観劇日 2007年10月28日(日曜日)午後1時開演
劇場 新国立劇場中劇場 12列39番
料金 7350円
上演時間 2時間10分

 新国立劇場が10周年を迎えたからなのか、ロビーで色々なお芝居(というよりも、オペラ劇場で上演されたバレエやオペラかもしれない)の衣装が展示されていた。

 ギリシャ悲劇からの翻案だし、蘊蓄というのか背景が判った方がより楽しめるのだろうなと思いつつも、パンフレット(800円)は購入しなかった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 以前にどこかで「大笑いする悲劇」だと読んだ記憶があった。
 新国立劇場の演目で配られる「Stage Note」という小冊子にも、以下のように書かれている。

**********

 トロイア戦争の敗戦国トロイアの武将の未亡人・アンドロマケと、彼女を慕う戦勝国エーペイロスの武将ピュリス、その婚約者のヘルミオネ、彼女に恋い焦がれるオレステスの4人の悲恋物語を、"大爆笑の大悲劇"として大胆に読み解く意欲作だ。

**********

 でも、「大爆笑」という感じではないお芝居だった。
 私はそもそも「アンドロマケ」がどんな話なのか知らないので、舞台を朝鮮戦争時の日本に移し、在日朝鮮人の女性と戦争から帰ってきたばかりの男との話に置き換えたことで何が変わって何が変わらなかったのかも判っていない。

 判らないのだけれど、でも、この翻案でかなりこのお芝居の持つ意味や空気は変わっているのではないかという感じがした。
 それも、少なくとも「大爆笑」を誘う方向には変わらずに、重苦しい、ひずみのある、言葉として正しいかどうかは判らないけれど歪んだところのある、ひりひりした感じに変わったのではないだろうか。

 七瀬なつみ演じる朝鮮人の満喜に、永島敏行演じる近所の別のダンスホールの支配人である安部が惚れ、田畑智子演じる安部の婚約者のあかねは安部を諦めきれず、山内圭哉演じる直也は安部を兄貴分として慕っているのと同時にあかねに惚れている。
 このかなり歪んだ四角関係(しかも閉じていない)が話の中心なのだけれど、私にはどちらかというと満喜が勤めるダンスホールの、満喜と、梅沢昌代演じる珠代、三鴨絵里子演じる鈴子の3人の女中と、それぞれの「男」とのなりゆきが軸になった物語のように見えた。鈴子の相手は大沢健演じる満喜の弟だし、珠代の相手の大石継太演じる海上保安庁に勤める男は機雷除去のために朝鮮に向かう。翻案したことで「朝鮮」というキーワードが重要になり、女中たちの話がよりクローズアップされたのではないだろうか。

 あかねがアル中だったり、直也は母親を殺していたり(見終わってから、そういえば直也はオレステスの位置にあったのだなと思い出した)、あかねが直也に「安部をぼろぼろにして」「刺して」と叫んだり、この2人の関係が一番危うくて、ひりひりして危なっかしい。
 「見ていられない」という感じがする。

 不思議なことに、この2人の「見ていられない」シーンには、必ずといっていいくらい他の登場人物が舞台上にいて、何かをしていたように思う。
 私などはそのおかげでこの2人を直視せずに済んだようなところがあるのだけれど、これはある意味で「逃げ場」が用意されていたということなんだろうか。
 そう考えると、佐渡稔演じるダンスホール支配人もまた、空気を変えてかき回す役を担っているように見える。

 細かく思い起こしていくと、それぞれの人間関係が絡み、戦争によって何かを失っている状況が絡み、でも朝鮮戦争で頭上を飛行機(恐らくは戦闘機)が飛ぶ音がひっきりなしに聞こえてきて、緊張感を煽る。

 戦死した婚約者を思って、安部の求婚を拒み続けていた満喜が受け入れようと決めたとき、直也は安部に「あかねちゃんと結婚してくれ。自分たちを見捨てないでくれ」と叫び、安部を殺そうとし、何故か満喜の弟を刺す。
 あかねは、満喜に「安部がガダルカナルで助かった本当の理由」を明かしてしまう。
 満喜の弟は助かるのだけれど、直也はそれを知らずに飛び出し、サイレンが聞こえ、安部も満喜に深々と礼をして直也を追って行ってしまう。

 でも、「ここで暗転」で幕ではない。
 春のうららかそうな日、ダンスホールでは珠代が結婚して引っ越そうとしている。
 満喜も珠代も鈴子もお腹に赤ちゃんがいる。
 でも、安部が帰ってくる気配はない。そこで幕である。

 「何かが起こる」「この物語はカタストロフィに向かって進んでいる」という焦燥感が常にあって、うずうずというかひりひりというか、そういう緊張感がずっと場を支配している感じのお芝居だった。
 きっと、ギリシャ悲劇のまま演じられるよりもずっと、緊張感が高いお芝居になっていたと思う。

 そういえば、このお芝居、どうしてタイトルが「たとえば野に咲く花のように」なんだろう?

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コメント

 ガマ王子さま、コメントありがとうございます。

 IZOのチケットをいったん引き取りそびれ、もう一回取り直したのですが、そうしたら、追加席発売の案内が届いてちょっとめげています。
 もう少し待てばもう少し見やすい席で観劇できたかも知れないのに・・・。ちょっと残念です。

投稿: 姫林檎 | 2007.11.14 20:41

うん
再演したらまたいきたい^^
風邪はまだまだだけどだいぶよくなりました
姫林檎さんも気つけてくださいな
IZO僕もとりました
平日だから休暇とらないとw
朧の森~がとてもよかったので楽しみです

投稿: ガマ王子 | 2007.11.11 22:30

 ガマ王子さま、コメントありがとうございます。
 風邪はもうお治りになりましたでしょうか。今日みたいに寒い日に、ぶり返してしまったりなどしていませんか?

 「殿様と私」をご覧になったのですね。
 迷った末にチケットを取らなかったお芝居のひとつなので、面白かったとお聞きしてちょっと後悔しています。
 今日も見に行けませんでしたので、再演に期待します。

投稿: 姫林檎 | 2007.11.11 21:01

長く風邪ひいてました><
しんどかった~
ううう せっかくオススメしてもらったのに
すいません
たしかにそそられる陣容ですね>w<

今日は「殿様と私」みてきました
とってもよかったです^^
明日までですが是非ものですよ^^

投稿: ガマ王子 | 2007.11.10 18:45

 ガマ王子さま、お久しぶりです&コメントありがとうございます。

 呑気に観劇三昧の週末を送っていてすみません。

 「たとえば野に咲く花のように」の山内さんは、何だか太って見えました(笑)。
 シリアスなときはもちろんシリアスに、でも山内さんが一番笑いを取っていたのではないでしょうか。いい感じでした。
 
 11月は私もあまり観劇の予定を入れていません。特に意識したわけではないのですが、何となくそうなってしまいました。
 ちょっと行けそうにないのですが、11月4日まで恵比寿の「site」という劇場で上演されている「38C(摂氏38度の意味なのですが、記号が出せないので・・・)」というお芝居が気になっています。
 野木萌葱作、板垣恭一演出、大内厚雄、山本佳希、有川マコト、熊野善啓、有馬自由出演って、見たくなっちゃいませんか?

投稿: 姫林檎 | 2007.11.01 23:21

こんばんわ^^
ご無沙汰です
忙しくって観劇全然できていません><
姫林檎さんがうらやましいです
山内さんもシリアスに徹していました?

11月何がオススメです?
チケットすらとってないし 
なにやってるかもよくわからない状態です(笑)

投稿: ガマ王子 | 2007.10.31 23:43

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