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2007.11.25

「欲望という名の電車」を見る

「欲望という名の電車」
作 テネシー・ウィリアムズ
演出 鈴木勝秀
出演 篠井英介/小島聖/伊達暁/菅原永二
    Takuya/鈴木慶一/北村有起哉/明星真由美
    押田健史/永島克
観劇日 2007年11月25日(日曜日)午後2時開演(千秋楽)
劇場 東京グローブ座 I列25番
料金 7800円
上演時間 3時間10分(15分間の休憩あり)

 ロビーでは、パンフレット(1200円)は販売していたけれど、篠井英介のサイン入りポスター(1000円)はすでに売り切れていた。
 さすがは千秋楽である。
 カーテンコールには、恐らく演出の鈴木勝秀さんだと思われる方が舞台上の篠井英介に手招きされ、舞台に上がっていた。

 感想は以下に。

 戯曲として余りにも有名な「欲望という名の電車」だけれど、「有名な戯曲である」ということしか知らず、これまで戯曲を読んだことも上演されたお芝居を見たこともなく、主人公が「ブランチ」という名前であることは何となく知っていたけれど、彼女がどういう運命を辿るお話なのかも知らないまま見始めた。

 そういう状態で見始めると、このお芝居はかなり不安である。
 篠井英介演じるブランチは、いかにも「均衡しているものを壊す」という風情を醸し出しているのだけれど、彼女のこの性質というか気質が一体どこにたどり着くのか全く見えない。
 小島聖演じるブランチの妹のステラは、いかにも「いい子」な感じで、ブランチはずっと黒のドレスを着ているのに、ステラは純白というよりも生成の白のカジュアルな服を着ているところも、何というのか「姉の黒さに浸食される白い妹」というイメージである。
 今になって思い返してみると、(姉妹順は逆だけど)「本当のジャクリーヌ・デュ・プレ」をイメージしていたようである。

 小島聖のステラは、誰かに声とかしゃべり方が似ているなと必死に考えて、富田靖子に似ているのだということが判明した。
 ステラの夫であるスタンリーを演じている北村有起哉を見ると「昨日のドラマSPでは、元軍人のテロリストだったのに・・・」などとつい考えてしまうのも困ったところである。

 そういう、非常に個人的な雑音に捕まりながらも、やはりブランチの「全てを壊さずにいられない」といった感じの神経質さや、妥協のなさ、生家への拘りとプライドは、見ているだけでヒリヒリする。
 それを受け流しつつ、時々受け流しきれずに言い返してしまって罪悪感を感じているらしいステラが不幸にならないといいな、とついつい思ってしまう。
 スタンリーは、ブランチを迎えたときの感じは悪くなかったのに、「腫れ物に触るよう」にしているステラにイライラが募るのか、そもそもブランチのことが気にくわないのか、日に日に言動が荒っぽくなってゆく。
 後半に何度も「おまえの姉さんが来るまでは楽しくやっていた」とステラに言っていたのもよく判る。

 スタンリーのポーカー仲間であるミッチとブランチとか付き合い始める。
 何故だかブランチは「若さ」に尋常でないこだわりを見せる。
 役柄として恐らく正解なのだと思うのだけれど、このミッチがあまりアクが強くない。それは、他の3人のインパクトが強いこともあって、勿体ないことのような感じもする。ブランチとステラとミッチとスタンリーとかががっぷり四つに組んでいるという印象が薄くなってしまっているように見える。

 ブランチが家屋敷を手放したこと、故郷の街で次々と一夜限りの男たちと寝ていたこと、教え子に手を出して高校教師の職を辞したことなどをスタンリーが調べ上げる。
 そして、ブランチとの結婚も考えていたミッチに教えてしまう。
 ミッチはおまえみたいな女を母親と同じ屋根の下には入れられないと言い、ステラが出産のために入院した夜に、スタンリーはブランチを襲う。
 正直に言えば、このスタンリーの行動は何を狙ったものなのかよく判らなかった。
 ブランチの嘘を全て暴き、ミッチにも告げ、故郷へ帰る電車の切符を渡したところで、すでにブランチは壊れてしまっているように見えるからだ。

 そして、本当に壊れてしまったブランチを、ステラは(はっきりとは舞台上で語られないのだけれど)施設に預けることにしたようである。
 その施設に向かう日、スタンリーとステラの家にはミッチも含めていつものメンバーがポーカーに集い、ブランチは白いドレスを身にまとい、ステラは喪服のような飾り気のない黒いドレスを着ている。
 姉妹2人の立場が入れ替わったことの象徴のようにも思えるけれど、そもそも2人の立場のどの辺りが入れ替わったのか、よく判らない。

 判らないと言えば、幕開けに一人黒い衣装で登場してフランス語(推定)をしゃべりまくって退場し、その後も何回か「見えない存在」として舞台に登場していた男性は、何を言おうとしていたのだろう?
 「欲望という名の電車」というお芝居に必ず登場する人物なんだろうか。
 ずっと大柄な女優さんだと思っていた明星真由美が意外なくらい小柄に見えたのにも驚いた。役に合って、ハマっていたと思う。

 ブランチは、そして去ってゆく。
 赤ちゃんも生まれたスタンリーとステラの夫婦が、スタンリーの言うようにこれから先「前のように楽しく暮らす」ことができるのか、ブランチを追い出してしまったと涙を流すステラと、そのときになってやっとブランチに関心を示す(実際の行動はステラの肩を抱いたのだけれど)スタンリーを見ていて、それは難しいんじゃないかという気がした。

 ブランチを篠井英介が演じるこのお芝居を見てしまったら、「欲望という名の電車」のブランチを篠井英介以外の女優さんが演じるのは相当に厳しいのではないかと思えた。

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コメント

 なおみ様、お久しぶりです(確認させていただいたら、「MYTH」と「開放弦」のときにコメントをいただいていました)&コメントありがとうございます。

 そうでした。リッチじゃなくてミッチでしたよね。
 お恥ずかしいです。ご指摘ありがとうございます。早速、直させていただきました。

 「見知らぬ男」って、あの登場人物を表して、言い得て妙ですね。
 他の方のブログを読むと、原作(というのでしょうか)では女性の役で、登場回数も少ない役のようですね。おっしゃるとおり、黒子を兼ねさせようということだったのかも知れません。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2007.11.26 22:40

お久しぶりです。<果たして姫林檎さんが覚えているのか謎ですが。
私も先日観に行きました。(千秋楽ではありませんが。)
「欲望という名の電車」という名前だけは聞いたことがあったけれど、どんなお話なのか知らずに観ました。
胸が痛いお話でしたねぇ。
姫林檎さんが書かれていたリッチって誰だっけ?と思ったら、伊達さんが演じていたミッチ(ハロルド・ミッチェル)ですよね。確かにインパクトは弱かったかも。
スタンリーがブランチを襲ったのは、「上品ぶっていても結局は・・・」ということなんでしょうか。ミッチも結婚する気はないと言って襲っているシーンがありましたし。
見知らぬ男もいい感じでしたよね。黒子の役もかねているんだな~と思って見ていました。違うでしょうか?

長々とすみません。

投稿: なおみ | 2007.11.26 12:26

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