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2007.12.09

「KANADEHON忠臣蔵」を見る

花組芝居「KANADEHON忠臣蔵」
脚本 石川耕士
演出・出演 加納幸和
出演 原川浩明/美斉津恵友/小林大介/北沢洋
    嶋倉雷象/大井靖彦/堀越涼/溝口健二
    植本潤/各務立基/谷山知宏/秋葉陽司
    高荷邦彦/横道毅/山下禎啓/桂憲一
    磯村智彦/八代進一/丸川敬之/松原綾央
    水下きよし/二瓶拓也
観劇日 2007年12月8日(土曜日)午後1時開演
劇場 世田谷パブリックシアター J列27番
料金 6000円
上演時間 3時間(10分間の休憩/アフタートークあり)

 ロビーではパンフレット(値段は忘れてしまった)や、前回講演「歌舞伎座の怪人」のDVD、その他のグッズや生写真(500円)が売られていた。

 終演後の加納幸和によるアフタートークは毎日行われているようで、この日は「第十段」のお話だった。概ね歌舞伎に関するお話で私には格調と敷居が高すぎ、「何か質問がありませんか」と言われたときに何一つ思い浮かばなかったのが残念である。
 加納幸和自身は判官を演じたかったというのが少し意外だった。
 その中で、脚本の石川耕士さんという方が、市川猿之助の歌舞伎で台本を書いていらっしゃる方だと言うことも判明した。全て通しで演じたら10時間くらいかかるという「仮名手本忠臣蔵」を2時間30分くらいにまとめるには、歌舞伎のプロの仕事が必要だったそうだ。

 これだけ有名なお話にネタバレもないようなものだけれど、ネタバレありの感想は以下に。

 例えば、何年か前の大河ドラマ(当時の中村勘九郎が大石内蔵助役で主演していた)で見た「忠臣蔵」と、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」とでは、決して同じストーリーではないということが判らずに、最初は「どうしてこんなところからおかるが出てくるんだろう?」とか、「大石主税に許嫁なんていたっけ?」とか、余計なことを考えてしまった。
 思えばパンフレットを買えばよかったのだけれど、インターネットで今見てみたところ、恋愛に関するストーリーは全てフィクションとして付け加えられたもののようである。
 納得した。

 10時間に及ぶ舞台を休憩込みの2時間45分で上演し、しかもあらすじを追うのではなく見せ場はきっちりと演じて説明ではなく演じられているので、とにかく場面の展開が早い。
 舞台をほぼ半分に仕切って黒と緑と柿色の歌舞伎色の幕を下ろし、舞台を半分ずつ使うことでセットの交換や場面転換を素早くしてテンポを上げている。
 見ているときは気がつかなかったのだけれど、場面転換が早く、時間の流れも速いので、主役の大星由良之助を演じていた桂憲一は、出番が終わると次の出番に向けて着替えるということを繰り返していたのだそうだ。
 確かに、江戸藩邸で主君の切腹を見届けたかと思うと、京都の祇園で遊んでいるなんていうことをしていた。

 最初はその展開の早さについて行けず、しかも「おかるって顔世御前の腰元だったっけ?」などと余計なことを考えていたので、なかなか没頭するというわけにはいかなかった。
 しかも、また特に塩冶判官高貞が切腹するまでの展開が早いのだ。
 もうちょっとネチネチネチネチと苛められていたよね、という感じがする。

 終わってみればということだけれども、例えば大河ドラマは「赤穂浪士の仇討ち」がメインのストーリーで、そこに向けた苦労話が一番クローズアップされていたと思うのだけれど、歌舞伎自体がそうなのか、「KANADEHON忠臣蔵」だからこそなのかはともかく、今回見た「忠臣蔵」は、ストーリーは見ている人は知りすぎるほど知っていることが前提で、「メインキャストが結束を固め、高武蔵守師直の動静を探り、苦労している間に他で起こっていたこと」を次々と見せていって結果的に討ち入りまでの話を示しているという感じだった。
 そう思えば堀部安兵衛に当たる人物が登場しないことにも納得できる。
 かなり最近まで「赤穂浪士」と「新撰組」の区別がついていなかった私には、かなり高度なことを要求されているというものだ。

 これも歌舞伎を全く見ない私が抱いているイメージということだけれど、歌舞伎は「ストーリーを見せる」のではなく「シーンを見せる」舞台なのではないかという感じがする。
 ある一場面を積み重ねることで作り上げられているから、場面と場面の間につながりがあったとしても説明はされない。そこは「ストーリーは知ってるよね、お客さん」「お客さんたちは、よく知っているあの役をこの役者がどう演じるかを見に来ているんだよね」というお約束があるように思う。
 「KANADEHON忠臣蔵」にも、ところどころそういう感じがあって、そこが面白かったけれど素人には辛いところでもあった。

 それと、そのお約束をしっかり受け止めているお客さんは、よくしゃべるというのもちょっと辛いところである。ある役者さんに注目していて「あんなことしてるよ」みたいな感じで隣や前後でしゃべられてしまうと、集中力を途切れさせられてしまって、ちょっと腹が立った。
 しかも、それが「ついしゃべっちゃった」という感じではなく、「私たちはそれを見に来ているのよっ」という確信に溢れているから余計に耳についてしまう。

 この日のアフタートークは十段目についてだったのだけれど、この部分は歌舞伎ではほとんど上演されることがないそうである。
 討ち入りのための武器などを調達していた天河屋義平の家に武士が押し入ってきて「計画を明かせ」と脅迫するけれど、「天川屋義平は男でござる。」と言ってそれに応じない。武士たちは実は赤穂労使達で天川屋義平を試したのであり、このことから討ち入りの合言葉が「天」と「川」に決められるというストーリーである。
 上演されないという割りに「天川屋義平は男でござる。」という台詞は私でも知っている。不思議である。
 この「歌舞伎でも上演されない」というシーンは、今回はかなり丁寧に演じられていた。

 やはり、「知っていればより楽しめる」というのが歌舞伎の姿のような気がする。
 おかるの植本潤が時々完全に現代言葉になって笑いを取っていたのは、そのギャップを埋めようという試みだったのかなという風にも思う。

 何だかんだ言いつつもとても楽しかった。
 いつか、通しでは無理にしても、歌舞伎でも見てみたいと思った。

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