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「恐れを知らぬ川上音二郎一座」
作・演出 三谷幸喜
出演 ユースケ・サンタマリア/常盤貴子
戸田恵子/堺雅人/堺正章/浅野和之
今井朋彦/堀内敬子/阿南健治/小林隆
瀬戸カトリーヌ/新納慎也/小原雅人
観劇日 2007年12月10日(月曜日)午後7時開演
劇場 シアタークリエ 16列26番
料金 12000円
上演時間 3時間30分(20分間の休憩あり)
シアタークリエは、流石にビルの地下にあるだけのことはあって狭い。ロビーに座るスペースがない代わりに上演中以外は客席での飲食をOKにしているようだった。
女性用トイレを広く取り、入口と出口を分けて一方通行にしたのも工夫だと思う。
チケットを切る際にもアンケートやチラシは渡されず、客席に置いてあるわけでもなかった(と思う)。終演後に「アンケートにご協力ください」と言われたけれど、アンケートはどこで手に入れられたのだろう?
ロビーではパンフレット(1500円)や、クリアファイル、川上音二郎に関する本が売られていた。
パンフレットの見本を見たのだけれど、私が知りたかったそれぞれの役の役どころが特に説明されていなかったようなので、「こけら落とし公演の記念に」の一言にはちょっとくらっと来たけれど、購入しなかった。
ネタバレありの感想は以下に。
シアタークリエは、ロビーはとても狭いし、地下だからなのか閉塞感を感じるほどなのだけれど、逆に客席は余裕があるようで、傾斜がきちんと付いた客席は見やすいし、舞台の天井も高い。
でも、逆にこの余裕がお芝居のぎゅっと凝縮された感じを出さずに拡散した雰囲気を出してしまっていたようにも思う。
三谷幸喜作・演出作品だし、三谷作品の常連ともいうべき役者さん達が揃い、ユースケ・サンタマリアと常盤貴子が川上音二郎と貞奴を演じる。
どう考えても面白くならない筈がないのに、見終わっても何故だか拡散しているという印象が強い。
何だか勿体ないように思う。
のっけには堺正章が講釈士として登場し、川上夫婦の出会いまでが人形劇のように演じられる。繰り返される「めげない、負けない、くじけない」の台詞と身振り、そのときの2人のニカッと明るい笑顔が可笑しい。
「めげない、負けない、くじけない」という精神で苦境を何度も乗り越え、いざアメリカ公演に出かけたものの弁護士に稼いだ金を持ち逃げされ、いわば「どさまわり」の状態でアメリカを放浪する。
ボストンで劇場を1日だけ借りられることになり、そこに筋向かいの劇場で上演された「ヴェニスの商人」を見てきた音二郎が帰ってきて、役者達がストライキでほとんどいない中、「明日はヴェニスの商人を上演する!」と言い出すところから本編となる。
この時点で、すでに嗄れ切っている堺正章の声が心配だし、正直に言って聞きづらい。
それにしても「前日まで毎日だめ出しが行われた」という口上や「ユースケ・サンタマリアにやっと台詞が入りました!」という口上は本当なんだろうか? 事実を語っているのだとすると、この口上は毎日少しずつ違っているということになる。アドリブなのか、毎回台詞を覚えているのか、いずれにしても頭が下がる。
この後の展開はしっちゃかめっちゃかで、音二郎は堺雅人演じる一座の作家に「ヴェニスの商人」を日本の漁村バージョンに翻案した上で和訳するように命じるし、瀬戸カトリーヌ演じる劇場主の奥さんだと思っていた夫人が実は劇場主一家のメイドに過ぎないことが発覚する。小林隆演じる駐米大使の小村寿太郎が差し向けた、新納慎也演じる野口という書記官は、同じ津軽出身の堀内敬子演じるカメと盛り上がる。
この津軽弁がほとんど聞き取れない早さとなりきぶりで駆使されるのが、何故か可笑しい。
作家は貞奴に惚れているし、音二郎はカメを「姪っ子だ」と言い張るが実はそうではないことは誰の目にも明らかだ。
貞が娘道成寺を踊ったサンフランシスコ公演は大成功だったのに、音二郎は貞が舞台に立つことを喜んでいない。
元々、「話が違う」と今井朋彦演じる床音他ほとんどの役者がボイコットをしたせいで役者が足らず、小道具を作っている与之助は一人何役もこなすし、作家も劇団内の役どころが今ひとつ判らない戸田恵子演じるタエや、作家も舞台に出ることになっている。そこにやってきた小村寿太郎は自分と野口を舞台に出せとさりげなく「外交機密費(笑)」をちらつかせつつ要求するし、実はメイドだったホイットモア夫人はそのままやっぱり舞台に「シャイロック夫人」役で出ることになる。
それでも、貞を舞台に立たせようとしない音二郎というのが、この舞台のポイントのひとつだ。
音二郎は破天荒な思いつきだけで強引に引っ張る男として描かれているのだけれど、同時にユースケ・サンタマリアの個性もあるのか、どうもカリスマがある人物というよりも、小心な人物に見える。
周りを巻き込んでいるのは、音二郎の破天荒な突破力ではなく、貞のやたらと人間のできた明るい内助の功ぶりなのではないかという描かれ方である。
それにしても、この「貞」が物腰柔らかに頭を下げる回数がとても多くて、多分わざとなのだろうと思いつつ、何だか目について気になってしまった。
日本で始まった「盆」、つまり回り舞台が劇場にあることを発見して、それで音二郎が弱気から立ち直り「やっぱりヴェニスの商人を明日上演する」と張り切るシーンが楽しい。
金を持ち逃げした小原雅人演じるマネージャーが戻り「長唄が詠える」ということで舞台にも出ることになり、小村寿太郎は実は一座に紛れ込んだ阿南健治演じる熊吉という泥棒を逮捕するためにやってきたということが判り、音二郎は公演中に熊吉を逃がすことに決める。
ちんどんやのような扮装で一行が宣伝に出かけた後、浅野和之演じる一座の女形が病で倒れ、ポーシャを貞が演じることになる。
多分、この辺りで一幕が終了し、二幕は一晩ででっち上げられ、何役も演じる与之助の台詞は全て「スチャラカポコポコ」で統一された、とんでもないヴェニスの商人が始まる。
二幕の冒頭で瀬戸カトリーヌが客席に登場し、バルコニー席の観客に座席に隠しておいた金髪の鬘を被りアメリカ人になりきれと命じるのが可笑しい。
ひとつ空いていたバルコニー席に、目の前の劇場で「現在のスタンダードであるシャイロック」を演じていたという設定のヘンリー・アーヴィング卿を登場させるのも楽しい演出である。
もしかしたら、登場人物全員に見せ場と背景とストーリーがあるから拡散した印象になっているのかも知れないという気がする。
「ヴェニスの商人」が始まってしまうと、「どうせ日本語は分からないんだから」と適当なことをしゃべり散らしながら、それでもそれらしく舞台が進行していく。
舞台上で役者ではないのに舞台に立った人を演じている堺雅人と戸田恵子の旨さが際立つ。戸田恵子はついつい正面を向いてしまうのを相手役に顔を向けようと何度も手で直す仕草で笑いを取るし、堺雅人は台詞を棒読みしつつ実はストーリーを一番把握しているからどうにか「正しいヴェニスの商人」を追えるように必死で軌道修正している風情が上手い。
堺正章の「いかにも隠し芸」な早変わりも見ていて楽しい。
「舞台上にいるのだから、小村も手が出せまい」ということで、公演中に熊吉を逃がすことに決めたのだけれど、その熊吉は何度逃げ出してもまた帰ってくるし、「舞台上にいるのだから」と貞の音二郎への逆襲が始まり、野口とカメには2人でニューヨークに行けと送り出し、音二郎に「周りに支えられてここまで来られたと言うことを考えろ」と説教する。
ここで、音二郎はシャイロック、カメはシャイロックの娘を演じていることになっているから、音二郎はカメを必死で引き留めようとするし、貞はポーシャが扮した法学者の姿でシャイロックを諭すから、貞の逆襲に落ち込んだ音二郎は、裁判でこてんぱんに負けたシャイロックの落ち込みを演じているように見える。それを後でヘンリー・アーヴィング卿に褒められるのはご愛敬だ。
大拍手のうちに終わった公演の後も、やはり戻ってきたマネージャーは外交機密費を持ち逃げしようとするし、小村寿太郎は熊吉のことは見なかったことにすると言って去ってゆくのだけれど熊吉はそのまま実は一座に残っている。
作家は貞に一緒に日本に帰ろうと告白して振られ、タエは音二郎が何かを成し遂げたときにそばにいられればそれでいいんだと作家に語り、肩を振るわせる。
それぞれの登場人物にそれぞれ見せ場があって、それがそのまま束になってうねりになって、大団円に向かうという筋はカタルシスがあるものなのに、何故か、やっぱり拡散した印象になっているのが不思議である。
ラストは、音二郎が貞を舞台に立たせることを決め、幟を作っていた与之助と3人で酒盛りを始めるところで幕である。
もう少し小さい劇場で、ぎゅっと凝縮した感じで見たかったというのが正直な感想だったりする。
このお芝居は、もっと密度濃く面白くなるはず、という風に思った。
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コメント
ガマ王子さま、コメントありがとうございます。
今年は少し早めの12月22日に今年最後の一本を見たこともあって、極く私的かつ勝手に2007年の5本を選んでみました。
ガマ王子さんが見て楽しかったお芝居と重なっていましたでしょうか?
来年もよろしくお願いいたします。
投稿: 姫林檎 | 2007.12.30 23:02
そうですね^^
一人で行くのとだれかといくのって結構違いありますよね
来年も姫林檎さんと観るのかぶるといいな^^
感想見るのが楽しみ^^
今年もあと少し 風邪などひきませぬように
投稿: ガマ王子 | 2007.12.27 23:36
ガマ王子さま、コメントありがとうございます。
忘年会続きで、お返事が遅くなってしまってごめんなさい。
ガマ王子さんはミュージカルの前に映画をご覧になったのですね。
私は、「めがね」を見たいと思っていたのに、今年は1本も映画を見ずに終わってしまいそうです。
そういえば、今年は久しぶりに「誰かと一緒に芝居を見る」ということもしました。ここのところずっと、好き勝手にチケットを取ってふらふらと見に行くという感じだったので。
誰かと一緒に行くのも楽しいのだけれど、見終わった後で自分の感想を言うのも人の感想を聞くのも難しいなと思うのです。
投稿: 姫林檎 | 2007.12.21 22:08
映画は
「転々」って映画がなかなか不思議でタイプな映画でしたよ
そうですね
優柔不断なのでどれにいこうかしらってかんじなのです
姫林檎さんいつか一緒に観劇できたらうれしいですねー
投稿: ガマ王子 | 2007.12.18 00:15
ガマ王子さま、コメントありがとうございます。
「MIDSUMMER CAROL ガマ王子 vs ザリガニ魔人」は、ぴあで無事にチケットを確保することができました。
私も元々が出不精で、お芝居は予め日時指定のチケットを買うから行けるようなものです。おかげでなかなか映画には行くことができません(笑)。
今週はずっとお天気も良いようですし(だから寒くなるのでしょうが)、どうぞ、えいやっと出かけて楽しんでいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2007.12.17 22:46
今週いこうかとおもうのですが
遠いでしょう?寒いでしょう?
なかなか腰があがらない状態ですw
今年あとなにいかれるんですか?
ん~観劇したいですねー
ちなみにガマ王子の抽選どこのです?
投稿: ガマ王子 | 2007.12.17 20:35
ガマ王子さま、コメントありがとうございます。
ミュージカルはご覧になりましたか?
挙げられていた中では、「MOZART」は以前に見たことがあります。私が見たのは、モーツァルトを中川晃教さんが演じていらっしゃったバージョンですが、とても役に合っていて楽しかったです。
私は、今年は来週末に最後の1本を残すだけになりました。
投稿: 姫林檎 | 2007.12.16 13:55
きょうは急におもいたちナイロンの「わが闇」みてきました
ナイロンはいい思い出なかったのですがかなりタイプなオシバイでしたよ なにがおこるって芝居じゃないんだけどね
懐かしいかんじのオシバイでした
ミュージカルなにみようかなあ
ハレルヤ明日までですか 明日は無理だな 残念
ハムレット ウィキッド MOZART とかみてみようかなと
MOZART評判いいですよねー
どうしようかな^^
投稿: ガマ王子 | 2007.12.12 23:51
ガマ王子様、コメントありがとうございます。
そうなんですよね。「恐れを知らぬ川上音二郎一座」、面白かったんですが、もっと面白いはず、もっと面白くなれるはず、という風に思えちゃいました。
開演してすぐの堺正章の前口上はアドリブじゃなくて台詞だったんですね。
納得しました。教えていただいてありがとうございます。
ユースケ・サンタマリアは、確かに「姫が愛したダニ小僧」の等身大な感じの方が合っていたかも知れませんね。
今月上演されているミュージカルとしては天王洲銀河劇場の「ハレルヤ」が気になっていたんですが明日が千秋楽なのです。
ル・テアトル銀座の「ライト・イン・ザ・ピアッツァ」も良さそうな感じですが、こちらも16日までなんですよね・・・。
何か気になる演目が見つかりましたでしょうか?
投稿: 姫林檎 | 2007.12.12 21:51
僕も1週間まえにいきました
期待してたほどでなかったかなあ
三谷氏、前作社長放浪記 前々作コンフィダクト・絆が完璧だったからかなw
会場せまかったですねー中はひろいんだけどね
たしかにもっと小さい箱のほうが熱気がつたわるかもね
前日まで毎日だめ出しが行われたとかユースケ・サンタマリアにやっと台詞が入ったとかは僕のときもいってましたよ^^
マチャアキはよかったなあ もっと芝居やればいいのにね
ユースケも「姫が愛したダニ小僧」のときはもっといいアジでてましたね ダニ小僧ごらんになりました?
今月はもうチケットとってないのでミュージカルいってみようかと ミュージカル結構くわしいですか?
僕ほとんどいかないから眠っちゃわないか不安ですw
これからなにみるかさがしてみるとこなのです
投稿: ガマ王子 | 2007.12.11 23:16