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2008.01.14

「放浪記」を見る

「放浪記」
作 菊田一夫
潤色・演出 三木のり平
演出 北村文典
出演 森光子/高畑淳子/米倉斉加年/有森也実
    斎藤晴彦/大出俊/山本學/他
観劇日 2008年1月13日 午後3時開演
劇場 シアタークリエ 17列1番
料金 13500円
上演時間 3時間45分(25分間、10分間、5分間の休憩あり)

 ロビーでは、パンフレット(1500円)の他、お菓子や森光子グッズなどが販売されていた。

 この公演は、シアタークリエのオープニングシリーズの1本であると同時に菊田一夫生誕100年記念の公演でもあるそうだ。
 公演前から割と話題になっていたと思うのだけれど、この公演から森光子のでんぐり返りが見られなくなった。残念といえば残念だし、淋しいといえば淋しい。もう少し前に見ておくべきだったか、という気もする。

 これだけ有名なロングラン公演(と言っていいのだろうか?)だからネタバレといえるネタバレもないとは思うのだけれど、感想は以下に。

 この公演中に1900回の上演回数を超えるという、森光子主演の「放浪記」を今頃になってやっと見た。
 林芙美子の半生を、87歳の森光子が、若くして女給をしている頃から晩年のすでに「大作家」という趣になった老女の頃まで演じきる。
 見ているときは特段の違和感もなく見てしまったのだけれど、考えてみれば、87歳にして足を軽く上げて跳ねるようにして電灯をつけ、カフェの女給の姿で舞台を駆け回って踊るその姿は、とても軽く生き生きとしている。
 同じような「女給」の衣装を何人もが身につけて舞台上にいても、彼女が主役だと一目で判る。

 けれど、ある意味で、このお芝居は「林芙美子の半生」が演じられる舞台ではないようにも思う。
 森光子が登場すれば「森!」と声がかかり、カーテンコールで森光子一人が舞台の真ん中で正座し、ゆっくりと客席を手で指し示して再び最敬礼する。その姿に「森光子、日本一」というようなかけ声がかかる。
 林芙美子の人生のハイライトシーンを、ぱっぱっと切り替えながら(実際は暗転して舞台装置を変えつつ)、ショーのように見せられている感じがする。
 満席の客席は、「林芙美子」ではなく「森光子」を見るために来ている人達のように感じられる。

 そう思ってしまったせいか、前半は、「うーん。男の人の区別がつかない・・・。」「この舞台は面白いのかしら。」と不遜なことを思いながら見てしまった。
 本当に男の人が次から次へと林芙美子の前に現れては去って行き、それがあまりにもめまぐるしくて、出会うときと去るときしか(あるいはそのどちらかしか)見られないので、区別をしている暇もないくらいなのだ。
 少なくとも、ストーリーについ引き込まれてその世界にどっぷりと浸ってしまうタイプのお芝居ではない。

 でも、3幕以降、林芙美子の年齢が上がるに従って、歯車がゆっくりと噛み合ってくるように感じられる。
 木賃宿で暗い電灯の下、原稿を書き続ける芙美子。
 自分の原稿を読んで褒めてくれた絵描きの言葉に「今まで自分の原稿をきちんと読んでくれた人はいなかった」と涙する芙美子。
 逃げ込んできた女をかばおうとして警察に連れて行かれる芙美子。
 「放浪記」の出版記念会で、ずっと一緒に同人誌をやっていた高畑淳子演じる日夏京子から「私の原稿を握りつぶしたのね」と言われて「遅れたけど届けたのだ」と弱々しく言い訳する芙美子。
 戦後になって訪ねてきた菊田一夫の「林芙美子観」に一言だけ物申そうとする芙美子。
 同じ日に訪ねてきた日夏京子の前で「何日も徹夜している」と言いつつ寝入ってしまった芙美子。
 その芙美子にそっと毛布をかけて、「あなたは幸せじゃないのね」と立ち去ってゆく日夏京子。

 ずっと大変な思いをしてきた女性なのだけれど、成功するに従って不幸になってゆくように見え、でもそうやって不幸になってゆけばゆくほど、森光子の演技は冴えてくるように見える。
 晩年の、つっけんどんな、冷酷な、疲れ果てた芙美子を演じているときがやはり一番ハマっているように見える。
 全五幕のお芝居で、やはり、最後の5幕目が一番印象に残った。

 ちなみに、でんぐり返りのシーンは、雑誌に掲載されたことを喜ぶシーンだったということなのだけれど、今回の演出でそのシーンは木賃宿の人々を巻き込んでみんなで万歳三唱をするように変わっていた。
 でんぐり返りだと「林芙美子の喜びと興奮」だけれど、それが、「木賃宿にいる林芙美子を知る全ての人の喜び」に変わったということになると思う。
 この後の有森也美演じる「ゆきちゃん」が芙美子のために(しかし、芙美子は下宿に置いてきた本がなければ著作ができないという勘違いのためでもある)身を売って去ってゆくというシーンとの落差が強調される、悲しいシーンになっていた。

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